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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 明日から、公瑾さん連続更新を開催し始めようと思っております。
 でも、第一話に公瑾さんがほとんど出てこないので…(汗) 申し訳ない。

 明日からの更新とは関係ない話にはなりますが、公瑾さんと花ちゃんです。
 
 
 


 
 
 雨の朝だ、と、花は目を閉じた。
 ここの雨は粒が大きい。時に驚くような速度で黒雲が広がり、あっという間にずぶぬれになってしまうこともある。しかし今日は少し穏やかに聞こえる。夫の出立にそう思いたいだけなのかもしれないけれど、と、花はそっと笑った。
 上掛けから少しはみ出た肩は寒いけれど、体はぬくもっている。花の胸に、公瑾が縋り付いているせいだ。腰に回されている腕はゆるく、抜け出そうと思えば抜け出せるが、花はじっとしていた。
 いつもならほとんど見ることがない公瑾の旋毛と、伏せた長い睫を、ゆっくり眺める。
 公瑾は、自分の胸に顔を埋めて眠っていることが多い。これを最初に発見したときは顔が紅くなり熱くなり早々に抜け出して公瑾にそれはくどくどと責められた。
 だが、婚儀を挙げて一年を過ぎるこの頃は、そんな気持ちも少し落ち着いてきた。今ではこうして夫の温もりを堪能できる朝が嬉しい。彼は呉の重臣であり、よほどのことがないと未明には家を出てしまうし、帰りも遅い。
 (本当にきれいなひとだなあ…)
 それなりに見慣れたはずだけれど、やはり何度も思う。
 でもいちばんそう思うのは、自分を抱く時や仕事をしている時の顔だ。それはまったく違う状況ではあるけれど、素の彼が現れているような気がするからだ。もっとも、仕事の時にあまり見つめていると、手がお留守ですよと笑顔で叱られ、いつもの倍ほどの使いを任されてしまうのだが。
 (わたしなんて、子どもみたいな顔して寝てる、っていつも言われるのに)
 花が少し唇を尖らせた時、ふふ、とくぐもった笑い声が胸元をかすめた。
 「思案は定まりましたか」
 「え? 起きてたんですか?」
 「今、起きました。あなたがわたしから逃げだそうとしていないか、確認していたところです」
 それってだいぶ前から起きていたってこと、と花は唇を噛む。何にも気づかなかった。…ずるい。
 公瑾は小さく欠伸をして、花の胸に顔をすり寄せた。その刺激がくすぐったくて笑ってしまう。
 「今日は雨ですよ。出立なのに、大変ですね」
 「今夜の泊まりの城は近い。そう大仰な旅装はいらないでしょう。」
 「昼頃に出るんでしたよね?」
 「そうです。それより、花」
 すっと視線が上向き、花を捉えた。
 「わたしが居ない間に着るものは、言いつけ通りに揃えましたね?」
 花は小さく息をついた。
 「はい。…もう、大変だったんですから」
 「ならば、結構」
 鼻歌でも歌い出しそうに上機嫌に唇をつり上げた夫に、花はもういちどため息をついた。
 「あそこまでこの家の模様を入れなくても…」
 「あれを見れば、あなたがわたしの妻だと一目で分かります。わたしが居ない間の出仕は止めて貰いますが、外出するなとはさすがに言いません。その代わり、です」
 「…わたしは公瑾さん以外に好きになったりしないのに…」
 僅かな間をおいて、公瑾は体をずり上げ、花をその胸に抱き込んだ。
 「ありがとうございます。その言葉だけでひと月近くの旅程を耐えられそうだ。」
 花は夫の胸で目を閉じた。馴染んだ香りは、移り香でさえ温かさを覚えるようになった。
 「あの、お願いがあります。」
 「なんです」
 「一度だけでいいですから、どこかで、文をください」
 花の髪を梳いていた公瑾の手が止まり、彼女は焦った。
 「す、すみません。ちょっと子どもっぽかったですね」
 「一度でいいのですか」
 「は?」
 「毎日、書いて送ってさしあげてもよろしいですよ。最後の日にはわたしに追い越されてしまうでしょうが。以前に言っていましたね、何でしたか…そう、めーる、というものでしたか? あなたの世界の、瞬時に心を伝えるもののことを。それに負けないように、やってみましょうか」
 婚儀を挙げてから初めて十日ほど離れていた時のことを言い出され、花は紅くなった。寂しくて寂しくて公瑾に八つ当たりしてしまった自分を、いまはとても幼く思える。
 「…一度で、いいです」
 「つれないひとですね」
 「だって、一度でもたくさんの気持ちを込めてくれるでしょう? 公瑾さんは」
 抱きしめる力が強まる。
 「わたしの妻は、わたしの才をずいぶんと高く買ってくれている。存分に応えなければいけませんね」
 「あ、あの、そんな、公瑾さんの負担になるようなことは」
 「負担ではありません」
 さっき、きれいだと思った顔が間近に寄せられる。細められた目がとても楽しそうに艶めいている。
 こんな生き生きした表情が見られることが、胸に痛いほど嬉しい。
 「ありがとうとお笑いなさい。それだけでいい。このわたしのただひとりの妻として、あなたの笑みを心から欲する者への褒美として、それ以上のものはありません。…さあ」
 笑む間もなく、唇が塞がれる。大きな手のひらが袷をすくうように広げる。
 「こ、公瑾さん、準備が…っ、やだっ」
 「すぐできますよ。」
 むしろおっとりと聞こえる声が、耳朶をくすぐった。
 「あなたから餞別をいただくくらいの刻は作ります。…わたしは優秀ですから」
 「も、うっ…!」
 諦めて広い背に腕を回すと、夫が笑いをかみ殺す気配がした。
 
 
(2010.07.11)

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