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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 公瑾さん集中更新週間(一)です。
 先日も予告の通り、いきなりオリキャラから始まります…(汗)
 (二)はちゃんと都督出ますのですみませんすみません。
 
 
 拍手お返事は、またのちほどさせていただきます。ご容赦ください。
 というか、文若さんパラレルに続編希望をいただいてありがとうございます。みなさんのフトコロ深さに多謝です!
 
 
 


 

 わたくしがそれを見たのは、蒸し暑い夜でございました。
 それはご主人様のお描きになる絵のようで、わたくしは恐ろしいというよりただ美しいと思い、見入ってしまったのでございます。
 
 
 
 …申し遅れました。
 わたくしは清妙と申しまして、呉の大都督・公瑾さまのお屋敷、正しくはご主人様の奥様にお仕えしております。
 元々、わたくしは侍女に上がる予定はございませんでした。兄上姉上がおりますので、父上はわたくしをどこか、同じ程の商家に嫁がせるおつもりだったようでございます。けれど、姉上は、嫁ぐまで家から出たことがないのは良くないと言い、侍女に上がることになりました。ちょうどこちらのご主人様が新しくお迎えになる奥様の侍女をお捜しの時で、幸いにお心にかなったのでございます。
 ご主人様は、奥様をとても大切にしておられます。わたくしが最初にお屋敷に上がります時も、じきじきにわたくしをお呼びになりました。
 「わたしの妻は、遠い異国から来ました。」
 ご主人様は、そのご容姿にふさわしい艶のある声で仰いました。
 「そのため、少しばかりこの国の風習に慣れぬこともあります。お前の父上は、お前の学問の才を特に褒めていましたから、その方面でもお前の助けを期待します。」
 勿体ない仰せでございました。
 女が学問など、と言われる世でございます。しかしわたくしは兄上についていささか学ぶところもございました。そのことについて父上はふだん良い顔をしなかったのに、ご主人様にそのことを申し上げたのだと思うと、胸が熱くなりました。
 奥様は、花というお名でございました。
 美周郎というお名までお持ちのご主人様に比べれば、確かに平凡な顔立ちでございますけれど、それを補ってあまりある魅力がおありの方です。まさに花が、爽やかな雨に濡れて咲いているようなみずみずしさがおありでした。
 奥様の何より素晴らしいのは、誰にでもその真心をもって接しようとするお心と、その笑顔と声でございました。
 誰に対しても数年来の友のように接し、少し幼いような優しい声で言葉を交わした者は、すぐに奥様をお慕いするようになります。ご主人様は奥様のそのようなところを特に懸念され、はしたないとか慎みがないと常に仰せでした。奥様はそのときばかり神妙にご返事なさるのですけれど、すぐにお忘れになります。わたくしどもが申し上げるのも口幅ったいことでございますけれど、みな奥様のそういうところをお慕い申し上げているのですから、ご主人様の態度を苦笑をもって見守っておりました。わたくしは奥様と同じ歳のためか、特にわたくしを清妙さん清妙さんと親しくお呼びになり、お側に居ることも多うございました。
 奥様は、お体をすぐ壊される方でもありました。
 奥様がお育ちになった国はとても過ごしやすい場所であり、呉のように暑いところではなかったとご主人様にお聞きしたことがございます。そのためか、気温の高い折にはすぐ伏せってしまわれがちでした。ご主人様は、暑い時節に相応しい織りの衣や涼を呼ぶ果物を遠い土地から取り寄せたり、わたくしの父に命じて川沿いの涼しい舘を新築したりいたしました。奥様はそこからの雄大な川の眺めが特にお気に入りで、暑い季節は長の逗留をお望みになるのですけれど、お忙しいご主人様がご同行なさることは希で、そのためにすぐのお戻りを余儀なくされるのでした。
 
 
 その年も、暑い年でございました。奥様は早々に体調を崩され、床に伏せることが多くなりました。
 おふたりのお部屋は、少し広い中庭に面しております。ご主人様が奥様を迎えるにあたって特に念入りに整えられたというその庭は、色鮮やかな花がいつもどこかに咲き、遠い山から取り寄せた石の間を水がさらさらと流れ、柳があえかな風にも揺れる美しい庭でございました。奥様はその庭がとてもお好きで、寝台に紗を掛けて伏せっておいでの時も窓を開けておくことをお望みでした。
 その午後も奥様は、窓を開け放して床においででした。そして、扇で風を送るわたくしに、けだるそうに微笑みました。
 「今日も暑いなあ…」
 幼子のように拗ねた口調に、わたくしは微笑んで礼をしました。
 「西に雲が見えましたので、夜はもう少し涼しくなるやも知れません」
 「本当!? 嬉しい」
 奥様はあまりに幸せそうに笑いました。わたくしは側に置いた薬水を差し出しました。
 ご主人様が、食が細くなる奥様のために特に調合した薬草を煮出した水を冷やしたものです。奥様は薬くさいとあまりお好きではなかったのですけれど、それを飲んでいるとお体が楽になることは確かのようで、水差しは必ず空になるのでした。
 奥様は、水を飲み干すとどこか遠い目で庭をごらんになりました。
 「ね、清妙さん。この暑い時期にも庭に咲いている花はあるんですよね?」
 「はい、西側に。この寝台からはごらんになれませんけれど、白い花が咲いてございますよ」
 「あ、じゃあ、それなのかな。昨日ね、公瑾さんが涼しそうな絵を持ってきてくれたんです。それに白い花が描いてあったから」
 「花様のご気分がよろしい時に、ご主人様におねだりなさいませ。よい香りがいたします美しい花ですわ」
 花様、とお名をお呼びするのは奥様のご希望でした。
 奥様は目を閉じました。
 「この匂いかな? ちょっとすうっとする」
 「さようでございますね」
 奥様は、長いため息をおつきになりました。
 「いつになったらここの気候に慣れるのかな。恥ずかしい」
 「ご無理は禁物でございますよ」
 「でも、公瑾さんに心配ばかり掛けているから」
 奥様は本当に済まなそうに肩を竦めました。わたくしは声を潜めて顔を寄せました。
 「ご主人様はご負担になど思っていらっしゃいませんよ?」
 ふたりならば、これくらい気安い言葉も奥様は許してくださいました。奥様は少し悪戯っぽく笑い、「でも」と表情を改めました。
 「いつまでもそれじゃ駄目です。」
 それは悲痛にさえ聞こえる声音でした。お聞きしたことのない声音でした。すぐに返答ができず、わたくしは目を伏せました。
 奥様はそれからすぐに、お眠りになりました。
 
 
 わたくしがそれを見たのは、その夜でした。
 
 
 
(つづく。)
(2010.7.12)
 
 

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