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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 現在、絶賛風邪引き中。熱が下がりません。みなさまもじゅうぶんお気を付けください。
 
 
 ちびっこ公瑾さんと花ちゃんな、お話です。
 
 


 
 
 
 公瑾の口の周りについたきな粉を、花は微笑んで拭った。彼がちょっと唇を尖らせて不服そうな顔をする。夫の公瑾であればこれは照れ隠しなのだけれど、と小首を傾げると、彼は視線をそらした。
 「美味しい?」
 こくり、と小さな頭が縦に振られた。ではこれは照れ隠しだ。やはり公瑾だ、と花は嬉しくなった。
 「蜂蜜を掛けてもおいしいよね。」
 「…あまりたべたことがありません」
 「そっか。じゃあまた一緒に食べようね」
 公瑾は花を見上げて、滲むように微笑んだ。
 
 
 軽い昼が終わると、昼寝だ。花の衣の袖を握りしめて寝入った公瑾に、花はそっと息を吐いた。「彼」と過ごして三日目になるが、昼も夜も寝付きがひどく悪いのに驚いた。老侍女が、公瑾は疳の強い子どもだったと言っていたが、こういうものか。優しく柔らかく話を続けていないと眠らない。何故か、眠気に抗しようとして不機嫌になるのだ。眠りたくない子どもがいるなんて、花は考えたことがなかった。異国の王様のように話をねだり続ける彼は愛おしいけれど――これが、「本」の所為だったら。花は、そのことだけが心配だった。
 この世界にいつの間にかあの「本」は無くなってしまっていた。公瑾が処分したのではない、それは信じている。厳重に保管された場所から無くなっていた時の、彼の安堵の表情は偽りではないと思う。
 目覚めるたび、元通りの公瑾が居ないかと思う。しかし、花の「不安」に小さい彼はひどく敏感に怯えるので、極力考えないようにした。侍女も必死に元に戻る方法を考え、探している。だから花も落ち着いていようと思った。
 それに、確かに彼は「公瑾」だった。
 不安そうにこちらを見上げる目やちらりと微笑む唇の端にそれが見て取れて、とても切なく、また嬉しい。幼い「公瑾」が彼女から離れようとしないことも支えになっている。こんな年頃のことは、夫は決して話さない。いけないと思いつつ、それも嬉しかった。
 もしこの姿が、「彼」が望んだことなら。花は強く胸のあたりを握った。公瑾は、どこか余所に行きたいと思ったのではない。自分の傍らに居てなおかつ小さくなりたいと思ったのなら、その理由を知りたい。
 公瑾が寝返りをうった。顔をぼんやりとこすり、眠り続ける。
 「…わたしの、公瑾さん」
 花は微笑んでその頬を撫で、そのかたわらに横になった。
 昼の風は暖かく、寝台の帳を揺らした。
 
 
 公瑾は薄目を開けた。
 隣の人は眠ってしまったようだ。衣を強めに引っ張っても機嫌良さそうな深い寝息はびくともしない。侍女ならばこれは大失態だし、周に仕える者ならばなおさらあり得ない。
 「…あなたは、だれですか」
 花って呼んでねと言ったきりで、彼女は公瑾にあまり多くを求めない。ここへ来てから彼は、日々の学習や鍛錬をしていなかった。それにこの部屋には、自分の年頃向けの教材がない。公瑾は手を伸ばし、彼女の頬に指先を当てた。
 公瑾くん、と公瑾さん、がごっちゃになる彼女。彼女の側にいるのは自分のようで自分ではない。「さん」と呼ぶべき、年上の誰かだ。なのに彼女はよく間違える。花は、自分をよく知っているのだ。
 ならばなぜ、自分は彼女を知らないのだろう。見知った顔がひとつもいないこの場所で、それでも彼女だけは自分を匿ってくれると思えるのは何故だろう。
 公瑾は顔をしかめた。幼いながらも整った顔立ちに似合わない、まっすぐな不愉快さが浮かんだ。
 思い出せないことがあるような気がする。
 公瑾はもういちど眠気が襲ってくるまで、花の寝顔を見つめ続けた。
 
 
(2011.1.14)
 

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