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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 公瑾さんと花ちゃん、婚儀後です。
 オリキャラが最初から最後まで出まくりです。



 

 伯言は腕組みをして回廊の柱にもたれていた。
 公瑾という、陰日向に噂される美貌の上司のもとにいるので、女たちの間ではともかく、彼自身の容貌はそうそう噂の種にならない。だがひとりとして見れば、彼も整った顔立ちをしているので、そうして穏やかな午後の日差しに佇んでいるとそこだけ日差しが切り抜かれたように見える。しかしその実、いまの彼はただぼんやりしているだけだ。
 視線の先では、公瑾の新妻である花が、ひとりの侍女と額を寄せて何か話している。花の着ている薄青の衣の裾が柔らかい風に揺れていた。時々、気を揃えたように笑みを零すので、内容は他愛ないのだろう。さしずめ、夫を喜ばせる食事に関する相談でもしているのだろうか。それとも、疲れを取るという茶の入手方法か。
 彼女の世界は、あきれるほど公瑾が中心にいる。伯言だって恋を知らぬではないし、恋仲とはああいうものと分かってはいるが、彼女の場合は本当に開けっぴろげだ。
 花は侍女から簡を受け取った。頭を下げ合って、きびすを返す。顔を上げた花が、伯言に気づき立ち止まった。
 「伯言さん」
 「やあ、花殿。」
 公瑾には馴れ馴れしいと睨まれる口調だが、花はまったく気にしていないようなので変えるつもりはない。
 「休憩ですか」
 「はい。公瑾さんが急に外に出ることになって…あれ? 伯言さんは良かったんですか?」
 何かを思い出すように目を細めた花に軽く手を振る。
 「ええ。わたしが行くところでもない」
 それは事実だった。公瑾が行かねば済まぬ案件だ。花はそれだけで了解したように、笑みを零した。
 「そうですか。」
 軽い足取りで回廊に上がってきた花は、伯言の前に立ち止まった。軽く身をかがめる。そうすると花の目と同じ高さになる。
 「あの子と何を話してたんです?」
 「最近、流行ってる料理です」
 「ああ、やっぱりね。」
 「やっぱり?」
 「あの子、料理が得意だから。」
 花は口を尖らせるようにして伯言を素早く上から下まで見た。伯言はへらりと笑った。女の子が相手の様子をうかがう時というのは同じ顔をする。
 「あの子ね、人気があるから。ちょうど花殿みたいにね。」
 花はもう一度、ふうん、と言って、だがそれ以上は追求しないことにしたらしい。ひとつ頷いて笑顔に戻った。
 「公瑾さん、明日は早く戻れそうだって言ってたから、何かおいしいものをって思って。」
 「試食しましょうか」
 「怒られちゃいますから、駄目です。」
 花は目を半眼にした。伯言は大げさに嘆息してみせた。
 「やだなあ、そんな、ご夫君に似た顔しなくても」
 まったく、からかいのつもりだった。それなのに花は、嬉しそうに顔を赤らめた。
 「ホントですか!」
 伯言が思わず視線を斜め上に飛ばしたくなるくらいの勢いで、詰め寄られる。伯言は実際にいちど視線をそらして、また花に戻した。
 「本当に仲がいいですねえ」
 花は顔を新たに赤らめながら、ことりと首を傾げた。
 「だって、あの」
 「婚儀を挙げられましたからねえ。まあ前からですけど。」
 「あの、夫婦って似てくるってみなさんに言われるんです。でも自分では分からないものじゃないですか? だから、そう言われると嬉しいんです」
 「良かったですねえ」
 「はい!」
 輝く笑顔に、伯言は目を細めた。
 だからこそ、彼女の夫はなぜこの色を好んで着せるのかと思う。爽やかかも知れないが、寂しげな色ではないか。伯言はいつも、彼女はこの色ではないと思う。日だまりのような色ならもっと可愛い。むろん色の好みなど千差万別だ、余計な世話だとあの上司なら切り捨てるだろう。
 伯言はふと、彼女がここへ来たばかりの頃に羽織っていたものを思い出した。裾や襟だけに色の付いたあの羽織。彼女にはあれが相応しいのではないだろうか。
 「花殿」
 さほど深く考えるでもなく、口が先に動いていた。彼女が、また小首を傾げる。
 「はい、何でしょう」
 「花殿はその色が好きですか?」
 彼女は、ぽかんと目を見開いて、瞬きした。簡を持っていないほうの手で袖を広げる。袖口に控えめに施された刺繍がちらりと光った。
 「この色ですか?」
 「ええ。だってそんな色を着てることが多いから」
 「わたしが選んでるんじゃないですよ? まあ、好きな色か嫌いな色かくらいは言いますけど…嫌いではないです。」
 「じゃあなおさら、好きな色を着ればいいんじゃないですか」
 花は考える目になった。ひどく真剣な目だった。女子に衣の話題はたいがい真剣になる事柄と思うが、その表情は、伯言にとって噂に聞くばかりの「軍師」としての顔のようだった。彼女のどこか深いところに触れたろうか。
 「好きな色を着てない、って訳じゃないと思います。だってこの色、公瑾さんがよく着る色じゃないですか。…なんかいいですよね、そういうの」
 笑顔は照れくさそうだけれど、安心しているようでもあった。
 「そうですか」
 「はい。公瑾さんにはいちいち手を患わせてると思うんですけど、わたしも好きな色なのでいいんです。」
 とても澄んだ声できっぱりと言って、彼女は笑った。伯言はその顔をつくづくと見た。
 彼と彼女の口喧嘩のとばっちりをくらっても、数日後には彼のための茶を用意していそいそ回廊を歩いている彼女を見る。彼女と仲謀と尚香がきらめくような笑い声を上げて話しているそばを、ことさらに足音を立てて歩いて行く公瑾がいる。
 礼をして花が傍らを過ぎていく。その残り香に、見慣れた外套が翻るように思った。

 
(終。)
(2013.7.27)

 

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