二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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公瑾さんと花ちゃんの、婚儀話です。
公瑾が満足して頷くと、花の側にいた侍女が大きく力を抜いた。
「たいへんよろしい。」
改めて口に出すと、花が嬉しげに笑い、ゆっくりと袖を広げる。
深い紅に金糸で大きな鳥が刺繍された衣は、金糸が深みのある色合いのせいで、けばけばしくはない。むしろ、幼げななかにもしっかりしたところのある花嫁を引き立てている。花はゆるり、と回って背を見せた。背中は大きく吉祥が象られていて、前から見た繊細さと後ろから見る大胆な違いが心地よい。
「公瑾さんってば、注文が細かいから」
「当然でしょう、あなたの晴れ姿です」
この日のために、どれほどの手を尽くしてきたか。花に言うことはないが、水軍の調練とはまた違った意味の神経を使った。
「公瑾さんは衣装合わせをしないんですか?」
美しい衣を注意して脱ぎながら、花が言う。公瑾は苦笑した。
「婿はあなたに合わせるだけです。」
「公瑾さんは何を着ても格好いいですもんね!」
頬を染めて言う花に、僅かに目を伏せる。婚儀直前になっても、こういうあけすけなところは喜ぶべきか。
侍女が衣を持って下がると、花はほっとしたように椅子に腰を下ろした。
「ああ、なんだかもう結婚式が済んじゃったような気がします」
なかば本心のような疲れた顔に、公瑾は苦笑した。
「困りますね、これからですよ」
侍女に茶を持ってこさせると、公瑾は花の向かいに腰を下ろした。花が小さな手に茶器を包むように持ち、ひとくち呑むと公瑾を見て嬉しそうに笑う。彼か軽く咳払いをした。
「…あなた、ずいぶんしまりのない顔になっていますよ」
「だって幸せなんですもん。さっき師匠や芙蓉姫から来た手紙を読んでたら、ああやっぱりわたし結婚するんだなあ、って思って。そのひとといま一緒にお茶を飲んでるんですよ? 幸せにならないはずがないじゃないですか!」
幼く抗議してくる花の頬をつつくと、彼女は笑み崩れた。
「わたしの世界では結婚の年齢ってもっと先だったんですけど、年齢って関係ないですね。」
ふわふわと花が言う。
彼女はいつも唐突に、「あちら」の話をする。公瑾はその話を嫌っている。それでもいまは、聞こうと思った。自分の妻になれば、簡を持って走り回っていればいいだけではない。「あちら」を思い出す間もなく忙しくなろう。
「二十歳くらいで大学…勉強するところを出て、就職して、だいたい二十代後半とかで結婚して、働くひとは働きつづけたり、家に入るひとは入って」
「あなたは、どうしたいですか」
そんなことが、口から滑り出た。花は目を丸くしてこちらを見ている。公瑾とて、驚いていた。
花を自分だけのものにしたいというのは真実、誰の目にも触れさせたくないということだ。花が聞けばきっと悲しむか怒るかするようなことだが、彼は自分が留守の時、花を絵かなにかにして懐に仕舞い、持ち歩きたい撫でていたいと思うことすらある。
「え…と」
花は正直に目尻を下げた。
「公瑾さんの奥さん、はとても大変そうなので、まだもう少し迷っていてもいいですか?」
「迷う、ということは、今のまま、わたしの側で文官のようなことを続けるということですか」
「…やっぱり、いけませんか」
「あなたの存在自体が破格なのですから、そんなことを言ってもいられないでしょう。」
花が茶器に目を落とした。
「公瑾さんの役に立ちたい、です」
「役に立つからあなたと婚儀を挙げるわけではありません」
「分かってます! でも、奥さんになるっていうことは、もっと公瑾さんの身の回りにいるということで…」
花はいったん言葉を切った。唇を強く結び、公瑾を見つめてくる。それは彼女に剣を突きつけた日を思い出した。
「わたしは、公瑾さんの奥さんになるんです。」
ひと呼吸おいて、公瑾は袖で口元を覆った。花の顔が紅潮する。
「笑うところじゃないです!」
「笑っていませんよ。わたしの妻になるというのはそれほど果敢なことかと、感心さえしています」
「他人事みたいに!」
公瑾は立ち上がり、花を後ろから抱きしめた。花がびくりと動きを止める。
「息を詰めていては、大事な局面を見逃します。…ゆるりと、見ていなさい」
「…公瑾さんが責任を取れとか言うから」
「一生言われそうですね」
「言いますとも!」
きり、とこちらを振り返って見つめた瞳が見事に女で、公瑾はくらりとした。そしてそれを隠そうと、彼女を胸元に深く抱き込んだ。
(2010.11.16)
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