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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 都督連続更新週間、これにて終了いたします。
 おつきあいくださいまして、ありがとうございました。
 
 
 
 


 
 
 
 そのあくる朝から、奥様は順調に回復なさいました。
 お風邪をひいたり熱を出したりすることはだいぶ減って、一年を通じてお健やかにおなりでした。
 次の年に、わたくしはご主人様から直々にご縁談をいただき、いまの夫のもとに嫁ぎました。夫は実直なだけが取り柄の真面目なひとですけど、決して他人の悪口は言わない方です。婚儀を挙げた次の年には夫がこの土地に赴任いたしましたので、奥様にお暇を申し上げ、ご主人様と奥様のことは風の噂に聞くだけになりました。このたびお子様がお生まれになったとか。きっと、ご夫婦どちらに似ても幸いなお子にお育ちでしょう。
 奥様はどれほど幸せでいらっしゃいましょう。ふふ、なぜそれほど確かに言えるか、というお顔をしていらっしゃる。
 …これを、ごらんくださいまし。不思議なものでございましょう? 今までどなたにも見せたことはありません。これが、あの中庭を流れる水の中に落ちていたのです。
 ええ、奥様のお持ち物だったのでしょう。
 こんな、親指の爪の先ほど小さいのに、軍の徽章のようなとても精巧な文様が彫られ、美しい色が乗せてある。裏は針になっていて、同じ大きさの爪で何かを挟んで留めるものですね。奥様にお聞きしたら何に使う物か分かったかも知れませんが、不思議とお聞きする気にはなれませんでした。
 いまはまったく見えませんけれど、あのお屋敷を去る前は、これを手のひらに乗せるとあの夜と同じ「絵」が見えました。ゆらゆらとか細く、しかしすぐそこに在るように見えるあの「絵」が浮かんできたものです。
 いまは一度も見えません。女は情でその人に留められるもの。きっと奥様も落ち着かれたのでしょう。
 …これを譲って欲しいと仰るのですか?
 分かりました、差し上げますわ。わたくし、思い出はもうじゅうぶんいただきました。どうぞお持ちになって下さいませ。あなたも奥様に繋がる方なのですから。
 ええ、最初から察しはついておりました。でなければ、都から離れたわたくしのところまでこんな子どもが好むような話を聞きに来るはずはありませんもの。それに、奥様が、あの心根の素直なお優しい奥様が、お世話になった方々のことをお側近くに仕えていたわたくしに話すのは当然とお思いになりませんか? 
 はい、もちろん。どなたにも申しません。ただ、疾くこの国をお出なさいまし。わたくしとて呉の民。それにこのようなところまでおいでになっては、わたくしどもの大都督様の要らぬ疑いを招きましょう。…ほほほ。そんなことは恐ろしくないと言いたげなお顔をなさって。本当に、奥様が仰っていた通りのお方。
 
 
 
 …そのあなたに申し上げることをお許しください。
 どうか、そんな寂しそうなお顔をなさらないで。どうぞいつでもあの天の星で奥様の光を確認なさってくださいませ。
 奥様は幾久しい幸いを手に入れられたことを、いつでもお確かめになられるでしょう。
 
 
 
 あちらの都は遠うございます。どうぞ、道中ご無事でお戻りくださいませ。
 …花様の、お師匠様。
 
 
 
 
(おわり。)
(2010.7.16)

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