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GWも終わりました~。旅行からも戻りました。体調崩したり怪我したり、一筋縄ではいかない旅行でしたが、念願のものをたくさん見ることができてうれしかった。でも体調崩したぶん、旅程がいちにちつぶれたので、また行かないと見切れない。贅沢な悩み。
馬鹿な小ネタにも反応してくださるみなさま、本当に感謝してます。あんなカンジのことを毎日考えていきてます。そのうちホントに書いたらごめんなさい。拍手おへんじはまた改めてさせていただきます。
以下は、都督さんのお話です。
回廊を歩いてきた公瑾は、前方に見慣れた背を見いだし、深いため息をついた。
角に、大喬と小喬がへばりついている。どうやら向こう側に、彼女たちの興味を引くものがあるらしい。
公瑾の目的地は、彼女たちを通り越さなければならない。しかし、切実に通りたくない。彼がきびすを返す前に、大喬が彼に気づいた。引きつった笑みを浮かべると、彼女は唇の前に人差し指を立てた。小喬が小走りに歩いてきて公瑾の腕をつかんだ。
「たいへん、大変だよ」
「申し訳ありませんが、わたしは仕事の途中です。」
「花ちゃんが大変なんだよ!」
公瑾の動きが止まった。
「どういう意味、ですか」
「こっちこっち!」
両方から腕を引かれ、回廊の角まで連れて行かれる。文書が手から滑り落ちて床にてんでに散らかったが、それどころではない。
「あれだよ」
「さっきから動かないの」
「ね、どうしたのかな」
姉妹が指さす先には、花の後ろ姿があった。
公瑾のかたわらに残ってから、最近やっと見慣れたこの世界の衣。もちろん、公瑾が何やかやと口出しして、色や生地を選んでいる。おかげで彼女の愛らしさを引き立てながらも必要以上に目立たない。人目にたつなど言語道断だが、似合う衣を選ばずにはいられない。美しい衣を着て、はにかんで笑う花ほどいとしいものはない。
「…泣いている、ように見えますね」
「見えますね、じゃないよ! 泣いているんだよ!」
花が立っているのは、井戸の側。人目を忍んで泣くには絶好の舞台だ。
彼女が泣く理由は、なんだ。にわかに鋭さを増した眼差しで、公瑾は考え込んだ。
今朝は笑顔で起こしに来てくれた。自分でも煮え切らないことだと思うのだが、まだ彼女とは臥所をともにしていない。だから毎朝、最初に見るのが彼女の顔というだけで我慢している。そのときは口づけだけで紅くなる頬を楽しんだだけだった。
(まさか、誰かに泣かされたとか)
「誰かにいじめられたのかなあ」
公瑾の心を読んだように、小喬が呟いた。
(誰だ)
例え、主君であろうと。…いや、主君であればなおさら。公瑾は皺になるほど服を握りしめた。どうやって復讐してやろうか。頭の中を不穏な手段がいくつも巡り、彼の唇の端がゆっくり持ち上がった。
ひそひそ話は続く。
「花ちゃん目立つからね」
「可愛いしねえ」
「ねえあたし、このあいだ、花ちゃんに付け文しようとした相手を突き飛ばしてやったよ」
「すごーいお姉ちゃん」
「付け文、ですって?」
花の後ろ姿から目をそらさぬまま、公瑾は地を這うような声で呟いた。
「うん。」
「だって花ちゃん、結婚してないもの。みーんな噂してるよ、あのかわいい娘は誰に嫁ぐんだろうって。」
公瑾は、ぐっとつまった。年頃の娘が言うことではありませんというおきまりの叱責より先に、顔が紅く、また青くなるのが分かった。
「…そんなことを、いったい誰が言っているんです」
「みんな言ってるよ?」
「子敬だって言ってたよ。」
「し、子敬どのまで?」
「うん。『公瑾どのも意外と純でいらっしゃる。婚儀まではけじめをつけるおつもりなのでしょうかな』って」
「『だっらしねえなー』って笑ってたひともいたしぃ。」
口まねは、すぐ誰か分かる。彼は拳を握りしめた。あなたに言われたくない、と切実に思う。
「花!」
大声で呼ぶと、見守る背が大きく跳ねた。走るように近寄る。
「公瑾さん?」
振り向いた白い小さな顔を素早く見回し、冷たい頬を両手で挟んだ。
「こ、公瑾さんっ?!」
目元が紅い。彼の行動のためではなく、なにか、他の理由で。ぐらり、と視界が歪んだ。
「どうしたのですか。誰に泣かされたのです?」
内心とは裏腹な平坦な声に、花の目が丸くなった。
「誰に…って」
「誰かに泣かされたのでしょう? 目が赤い」
「え?」
慌てて目をこする彼女の手を、両手で握りしめる。
「あなたを泣かせるような者は、ふさわしい罰を受けてもらいます。」
美しく笑う公瑾に、花は引きつった笑みを浮かべた。
「ち、違うんです」
「違う? 何が違うのですか。あなたは優しいから、その相手をかばい立てするのでしょうが、あなたが許してもわたしは絶対に許しません。わたしの恋しいあなたを泣かせるなど…さ、誰ですか? あなたをそんな目に遭わせた者の名前を教えなさい。」
「目にゴミが入っただけですっ!」
もはや真っ赤になって、花が叫ぶ。
「ご…み?」
「目にゴミが入ってなかなかとれないから、井戸に来て目を洗ってただけですっ。もうっ、笑いながら怖いこと言わないでくださいっ」
花は一気に叫び、俯いた。公瑾は彼女の両手をつつんだままの、自分の手を見下ろした。
「ごみ、ですか」
「そうです…もう手を、離してください…」
「…嫌ですか」
「いや、じゃないから、困ります」
「花」
はい、と、消え入りそうな声が答えた。
「早く婚儀を行いましょう」
「はあ?」
ぽかんと口をあいた彼女が、公瑾を見返す。彼女の手を握ったまま、公瑾は考えを巡らせた。
「さっそく、吉日を選びましょう。婚儀の衣装はわたしの家に代々伝わるものがありますのでそれを着ていただくとして、問題は花嫁の飾りですね。いまから職人を急かせますから…そうですね、最短で五日もあれば整います。安心してください。」
「こん、婚儀って」
「おや、不満ですか」
「不満じゃありません! …っ」
勢いで叫んだ花が、ぱっと口元を押さえた。公瑾は彼女を見下ろし、にっこりと笑った。
「了解していただけましたね。では、参りましょう」
「ど、どこに行くんですか? っていうか、手を離してくださいっ」
「嫌です」
「みんなが見ます!」
「見せておきなさい」
「お仕事、お仕事が!」
「婚儀の打ち合わせのほうが大切です」
(あなたは、わたしの唯一のひとだ)
どんな理由であれ、あなたに誰かが手を出すなど、絶対に許さない。
大股に歩きながら、公瑾はより強く彼女の手を握った。
「ねえ、おねえちゃん。花ちゃんって見る目あるよね」
「付け文を貰ったことをあたしたちに相談をしてきたことだね」
「早くまとまってくれないと、こっちがたいへんなんだもん」
「本当に子どもっぽいからね、公瑾」
「花ちゃんって苦労性だよね」
「公瑾を好きになったからね」
「…ねえ、でもね、おねえちゃん」
「幸せそうだね」
「うん、ほんとだね。」
(2010.5.6)
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