恋人になったらしたいこと。バージョン２。
　今回は公瑾さんです。
　
　

　
　
　花。
　…花！
　は・な！！
　やっと起きましたか。ええ、ここはわたしの寝台です。顔が紅くなったところを見ると、思い出したようですね。では、なぜあなたがここにいるのか教えなさい。
　わたしが帰ってくるのを待っていた？
　あなた、馬鹿ですか。年頃の娘がこのような時刻に男の寝所で待っているというのはどういうことになるか、さんざん教えたと思いますが。
　公瑾さんは大好きなひとですから、ですって？　…何の答えにも解決にもなっていません。
　それで？　今度は何を、あの姉妹に言い含められて来たのですか。
　おや、珍しい。あの姉妹絡みではないのですか？　なにしろあなたときたら、あの姉妹の言うことはすぐ飲み込んでしまうのですからね。わたしに抱きつけとか誘惑しろとかきれいな衣を着ろとか化粧をしろとか、まったくあなたは、あのふたりに言われないと思いつけないのかと思っていましたよ。
　それで、珍しく自分で思いついたこと、とは何です？
　…ここに寝て下さい、ですって？
　あなた、目を開いたまま眠る習慣でもあるのですか。寝言にしか聞こえませんよ。
　起きているなら、なおさら言語道断です。未婚の女子がそのようなことを男子に向かって言うなどと！
　公瑾さんに言いたかった？　公瑾さんは大好きなひとだから？　…それは先程も聞きました。それで、何が狙いですか。
　こうきんさんにうでまくらを、したい……？
　…い、いえ、わたしは仕事をしすぎのようですね。よりにもよってそんな幻聴を聞くとは…明日いちばんに、医者に診て貰わなければならないようです。
　こら、腕に縋り付くのは止めなさい。重いでしょう。
　好きな人ができたら腕枕をしてあげたかった、とは…
　では、二三、確認したいことがあります。
　あなた、腕枕を他人にするのは初めてですか。…ああ、友人にはしたことがある、と。友人は女性でしょうね。…結構。
　それ以外に、恋人ができたらしてみたかったこと、とは何ですか。
　「デート」。ああ、想う相手とふたりで出かけることでしたね。
　「手を繋ぐ」。それは説明するまでもありません。
　「作った食事を食べて貰う」。…
　なんというか…本当にあなたの世界は平和なようだ。あなたのような娘ができあがるのですからね。馬鹿になどしていませんよ。
　さて、では、送っていきましょう。決まっています、あなたの部屋です。
　…まったく、うるさいですよ。では、こうしましょう。落とされたくなければ大人しくなさい。荷物みたいだ？　心外ですね、ちゃんと両腕で抱いているでしょう。
　とにかく、花。
　こうして…ほら、口づけただけで、長江の日暮れより紅くなるあなたが、男に腕枕などと考えるのはずいぶん早いと思いますよ。わたしはあなたの「師匠」とやらと違って、強引に膝枕をねだったりしませんからね。
　さ、着きました。ゆっくりお休みなさい。
　いつになったら腕枕をしていいですか、ですって？
　…ご自分でゆっくりお考えなさい。では、また明日。
　
　
　
　花。
　わたしは言葉をも操る軍師なのですよ。
　そのわたしを、あなたは何度その言葉で止めをさすのでしょうね？
　
　
　
（２０１０．９．１３）

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