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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 リクエストありがとうございました!
 「公瑾さんと花ちゃんで、幸せなの。」です。
 キーワードひとつしか入れられなくてスミマセン…ごめんなさい。せめて一端なりとお気に召して頂けますように。




 ふむ、と公瑾が小さく言って、花は顔を上げた。彼が微笑んでいる。
 「とても似合っていますよ」
 「本当ですか!」
 「こんなことで嘘は申しませんよ」
 花の勢いに公瑾は苦笑して、花の髪飾りを指でなぞった。
 「これも、小さいが愛らしい」
 「あの、あんまり大きいと船遊びには向かないって侍女さんが」
 「このようなつくりでしたら、そうでしょうね」
 リボンのような細布を花びらに似せて束ねたそれはごく薄い布で作ったせいで僅かの風にも揺れる。侍女たちが揃えた、目に鮮やかな金細工のものには気後れがしてしまい、花が元居た世界を思い出して作ったものだ。花さまの雰囲気によくお似合いでございますよと微笑んだ侍女の口ぶりに嘘は無かったと思う。
 「この衣も」
 公瑾の指が花の襟元に降りる。
 「以前に差し上げた上衣のような色目だ」
 「あの色合いはわたしも好きなんです。いまの季節にも感じがいいですって侍女さんが言ってくれました。わたしは、もう少し濃い色でもいいかなって思ったんですけど」
 「…そうですか」
 あれ、と花は彼を見直した。彼の指は襟元をゆっくり往復している。なんだか返事が遅れたように思ったけれど、気のせいだろうか。
 「濃い色とは」
 「あ、あの、商人さんが持って来てくれたものの中にきれいな、目の覚めるような青があって。それもいいかなって思ったんですけど、わたしには強すぎるって言われて」
 公瑾は大きく頷いた。
 「あなたには強い青は似合わないと思いますよ。何であれ、濃い色はね」
 「そうですか? 残念です」
 (あ、また)
 花は瞬きした。公瑾が少し、唇を噛んだように見えた。
 彼の手が襟元を離れる。側の椅子に掛けてあった外套を手に取った。
 「これは?」
 「それは、この季節でも船の上は肌寒いことがあるからお持ち下さいって言われて。外套なら公瑾さんから貰ったのがあったんですけど、あれでは暑いかもしれませんからって教えてもらったんです」
 「そうですか。良い生地です」
 「はい!」
 公瑾は外套をゆっくり広げた。何も言わずに生地をなぞっている指に、花はにわかに不安になった。袖口を握る。
 明日の船遊びに着ていく衣をこの手で選びたいと言ったのは自分だ。こういうことはいつも公瑾が上機嫌で選んでくれていたが、たまには自分でしたい。それにまさか(花は考えて紅くなった)、結婚してからもこんなところまで彼に甘えきるのは如何なものかと思う。
 花は小さく首を振った。何も言わない公瑾に背を向けて、急いで隣室に行く。戻ってくると、彼がゆっくり振り向いたところだった。
 「どうしました?」
 本当はもっとあとで出すつもりだったのだが、仕方ない。花はずいとそれを差し出した。
 「あの、これ着て下さい! …というか、着てくれると、嬉しい、です」
 手がすっと軽くなった。さっきためつすがめつしていた外套と同じ色のそれを公瑾はさらりと広げた。
 「揃いで誂えてくださったのですね。」
 「はい、あの、裾模様だけ、侍女さんに教えてもらって、変えました。わたしと同じ色だと公瑾さんらしくないって。遊びに行く時なら、その、おそろいでもいいかなって…」
 仕事をしている時にはとても恥ずかしいけれど。
 花は、公瑾が外套をあんまりしげしげ見ているので花は隠したくなった。
 「あの…あんまり、そんなに、見ないでください」
 「何故です?」
 「わたしも、縫ったので」
 公瑾がせわしなく瞬きした。
 「あなたが?」
 「はい。是非、って侍女さんが言ってくれて。その…夫、になるひとの衣に手を入れるのは、わたしの特権だって…」
 公瑾は黙ったままだ。花は組み合わせた指を落ち着き無く動かして俯いた。
 「針目は、その、揃ってないと思うんですけど、こういうのっていいなって。友達が、好きなひとのためにマフラー編んだりするのを見て大変だなあって思ってただけなんですけど、こういうことをしている時って本当に大好きなひとのことしか考えられなくて、そういうのってすごく贅沢で、とても楽しくて嬉しくて…」
 …わたしの衣を選んでいる時もそうですか、とは聞けないけれど。
 顔を上げる前に、ふわりと袖が体に回った。熱い顔が、彼の首に当たってしまう。
 「ありがとうございます」
 声が、息がじかに伝わるようだ。この距離にはまだ慣れないけれど、動きたくない。
 「着てくれますか」
 「もちろんです」
 「…これからも」
 「あなたが嫌と言わない限り」
 「言いません!」
 (わたしの、恋人)
 あまりにきらきらしているひとだから、つい心は一歩、下がってしまうけれど、このひとはわたしの唯一のひとだ。
 「出かけるのが惜しくなりましたね」
 自嘲するように彼が言う。自分もいま、そう思っていたところだったと、花は抱きしめられたまま笑みを零した。


(終。)
(2012.8.1)

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