二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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都督リクエスト、第二弾です。
すみえさま、リクエストありがとうございました! …おめがねにかなうでしょうか?
すみえさま、リクエストありがとうございました! …おめがねにかなうでしょうか?
柳の枝が、まるで夫の手のようにさらさらと頬を、髪を撫でていく。花はその一枝を戯れに掴もうとしたが、しなやかに枝はすり抜けていった。そんなところさえも夫に似ている、と彼女は微笑んだ。
「花ちゃん」
「花ちゃあん」
庭に響いた声に花は回廊を振り返ったが、誰も居ない。うふふ、と背後から笑い声が聞こえた。まさかと思って振り向くと、塀の上に似た顔が並んでいる。大喬が手を振る。花は慌てて立ち上がった。
「危ないですよ」
「こーきんみたいだよ花ちゃん」
花はえへへ、と笑った。
「公瑾さんなら、はしたないってまず言うでしょう?」
「そうだね」
姉妹は塀の上からするすると降り、花の隣に立った。花はふたりと手を繋いで柳の隣にある東屋に移動した。侍女を呼んで茶と菓子を言いつける。
初夏のことで、日差しが少しきつくなっている。柳の緑が日に薄い。
「花ちゃん、今日はお休みだったから寂しかったの」
「公瑾もからかいがいがなかったの」
「ごめんなさい。久しぶりに少し熱を出して」
揃って心配そうな顔をした姉妹に頭を下げ、花は運ばれてきた茶をついだ。
「しばらくぶりだったから、公瑾さんにずいぶん心配させてしまったんです。寝台から出てはいけません、の一点張りで。」
「でも出ちゃったね~」
「内緒にしてくださいね」
姉妹はこっくりと頷いた。彼女たちは際限なくいたずらを繰り返しているように見えるが、相手も加減もちゃんと選ぶ。花や公瑾をからかう時は公瑾の笑顔にひびが入る程度にしているし、仲謀相手にはひと回廊ぶん追いかけられる程度だ。
「でも、外に出てるってことはもういいの?」
「はい。お医者さんが来てくれたので安心しました」
花は言いながら首を傾げた。大喬が小杯を取り上げ口を付ける。小喬は小杯の口を手入れされた指でなぞった。
風が吹く。また柳が揺れ、葉がいちまい、庭を流れる水に落ちた。
「あの、大喬さん、小喬さん」
「なあに?」
「わたし、赤ちゃんができたんだそうです」
ふたりは、ゆっくり顔を見合わせた。それから花を見、そろって目を丸くし、それぞれ花の手をふたりで持って飛び跳ねた。
「すごいすごい」
「花ちゃん、おかあさん!」
おかあさん、という言葉が花の中でぐらりと揺れた。花は目を伏せた。
「花ちゃん?」
「…いえ、あの、慣れなくて」
「当たり前だよ、はじめてだもん」
小喬が言った。大喬が花の腕に縋り付く。
「ありがとう花ちゃん」
「え?」
大喬の目はまっすぐ花を見ていた。花を通して、違う相手を見ているかのように強い。
「公瑾が続いていく」
大喬さん、と言いかけた口が止まる。
「花ちゃんがこの世に留めてくれたひとが、伯符や公瑾が守ったここが続いて、変わっていく。」
小喬が姉の背にとりつき、頷く。
「それを見ることができるね、お姉ちゃん」
「うれしい」
花がしんみりして大喬の手を取ろうとした時、彼女はいつもの笑みを浮かべた。
「公瑾、たいへんだよー」
大喬が目を細くし、袖を口元に当てる。
「『仕事は止めていただきます。あなたの食事も特別に作らせましょう』」
「『いまから子のための教師を捜さねばなりませんね』」
花はくすくす笑った。大喬と同じように袖を口元に当てる。
「『この周家のあととりですからね』」
彼女のつたない真似に、姉妹は、花が一瞬、目を疑ったほど非常に年上に見える笑みを浮かべた。
「ちがうよーもう花ちゃんってば」
「『あなたとわたしの子どもですからね』だよ」
「だよねー」
花は瞬きし、俯いた。その頭の上を、声が歌い出す。
「花ちゃん、花ちゃんはひとりじゃないからね」
「あたしたちがいるし」
「ちゅーぼーだっているし」
「子敬も」
「あ、花ちゃんのししょーも」
「蜀さんちのみんなも」
「…公瑾さんが入ってませんけど」
「公瑾はもう花ちゃんだよ」
「花ちゃんが公瑾なんだよ」
にこやかに断言する姉妹に、花は俯いたまま目を見張った。このふたりは、どうしてこんなに鮮やかに居られるのか。医者に言われてからいままで、どうしても現実感がわかなかった事が、その言葉で心に降りる。肩の力が抜ける。
このふたりは、実は神様かもしれないと花は自分に苦笑しながら思った。「あちら」の遠い土地で語られている、家にいる子どもの神様だ。花よりよほどこの戦乱の世を知っているだろうに、いつも顔を上げている。そして自分の目を覚まさせ、公瑾の足を払い背を蹴る。
「あたしたちが先に知ったって分かったら公瑾、拗ねるね」
くふふ、と小喬が笑う。大喬も同じように笑った。花は娘たちの袖をとらえた。
「花ちゃん?」
「あの、もう少し一緒にいてくれませんか?」
姉妹は顔を見合わせた。そうして、花の手を握った。
「うん!」
「子守歌を教えてあげる」
「気が早いですよ…」
花は苦笑しながら立ち上がり、自分のお腹を見下ろした。
…まるで縁のなかったこの世界、公瑾が生きていく定めのなかったこの世界に、続いていくもの。
「責任重大。」
呟くと、侍女が怪訝そうに顔を上げる。それへ笑って首を振り、花はそうっと歩き出した。
(2010.8.4)
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