二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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花はおずおずと公瑾を見た。彼が実に美しく微笑む。美しいものは本当は危険なものだ、と言ったのは誰だったか。
「なんですか」
「あの…わたしどうしてここに」
「不満ですか」
「あの、そうじゃなくて純粋に疑問だなあって」
公瑾は深々と息をついた。美人が物思わしげなため息をつくと、男性でも絵になる。
「わたしは日々、あの姉妹にからかわれます」
「はあ」
「へそまがり、意地っ張り、素直になれ素直にならないと花ちゃんが逃げるぞと、日々、からかわれます。」
少しだけ姉妹の口調を真似て見せた公瑾に笑みがこぼれそうになるが、笑うところではない、というのは花にも分かった。公瑾はまたため息をついて花を見た。
「ですから、素直になってみようかと思ったのです。わたしは、ひとときもあなたと離れていたくないのですから」
言うと同時に、花の腰を抱き直す。
「で、でも公瑾さんの膝の上、というのは」
「いい匂いがしますね。」
まったく聞いていない様子で、自分の膝の上の花を抱きしめ、髪に頬をすりつける。
…落ち着かない。ぜんぜん落ち着かない。
公瑾は確かにすこぅし意地っ張りかもしれないしかなり意地悪かもしれないが、外側は一級品だ。通った鼻梁に優雅に微笑む唇、上品な香りのする上等な衣をまとってそれに負けない風格。琵琶をたしなむ貴公子かと思えば優秀な武人であることはその佇まいが証明している。
それが、昼日中、これほど近くにある。
(ひ、久しぶりに純粋にどきどきしてるかも)
「何を考えているのです?」
「公瑾さんって格好いいなあって…あ、すみません」
「どうして謝るのですか。妻に好かれてよい気持ちのしない夫はいないと思いますが」
一級品だと思うその顔が嬉しそうに輝くのだ、花の顔がまた紅くなった。そのひとと夫婦である、ということがいまさらに鼓動を早める。
そう、あの唇が自分の肌を辿り、髪が胸を掠め、指が自分を絡め取り。
花は慌てて首を振り、公瑾を見上げた。夫の笑顔のきらきら度が増した気がする。
「その言葉も、素直になる一環ですか」
「そうです。さて、本題に入りましょう。」
「まだあるんですか!?」
「何も始めていませんよ。そう、玄徳のことです。あなたは玄徳に衣を掛けたことがある、と言っていましたね。」
「あ、はい」
公瑾の手が、少し笑顔になった花の頬をむにゅ、と引っ張った。
「いたい! なにをするんですか公瑾さん!」
「素直になると言ったでしょう。あなたと他の男の話をしなければならないのが非常に憎らしいだけです。それで、どういう場面で衣を掛けたのですか?」
花は頬をさすりながら俯いた。
「えっと、こちらに来たばかりの頃で…最初の戦に勝ったあと、なんだかいろいろ考えてしまって。戦の意味とか考えていたら眠れなくなって廊下に出ていたら、執務室から灯りが見えたんです。誰か起きてるのかなと思ってのぞいたら玄徳さんが机でうたたねしてて…偉い人って勝っててもすることたくさんあるんですね。声を掛けたんですけど起きないから、着ていたものを掛けて部屋に戻りました。」
話すにつれ、公瑾の顔から目盛が減るように笑みが消えていく。花は心底逃げ出したくなった。玄徳も夜出歩くものじゃないとたしなめながら嬉しそうに衣を返してくれたし、いいことだと思っていたのに。
「…花」
「はい」
「それ以外は誰にしましたか。」
「えーと…さっきの仲謀だけ、かな?」
「ではこれ以後、そういう行為をするのはわたしだけにしてください。それにそういう時は、頬に口づけと、起きてください、と優しく、いいですか、妻としての愛情をもって優しく声を掛けることをわたしのみに追加すること。いいですね」
「い、いいですねって」
「当然の要求です。」
公瑾の指がまた頬を引っ張る。
「公瑾さん!」
「不満なのはわたしのほうです。なぜあなたはここに最初に来なかったのでしょうねえ…そうしたら玄徳とか玄徳とか玄徳とかに一目たりとも合わせはしなかったのに」
慨嘆され、花は少しむっとした。
「玄徳さんは公瑾さんが思うようなひとじゃないです」
目が、花を伺うように細められた。
「それではわたしがどういう風に玄徳を思っているというのです」
「えーと、女の子にすぐ手を出す、とか」
「女の子、ではありません。わたしの花に、です。いまだ、あなたの心に『兄のように』添っているというだけで許し難い。」
声が一段と低くなり、花は公瑾の膝の上から逃れるべく身をよじった。途端にまたきつく体を密着させられる。
「花」
低く、この上もなく甘い声が耳に注がれる。声があまりに熱くて、喉が詰まる。
「わたしがあなたに衣を贈るのは、あなたとひとつになりたいという思いです。あなたの肌のいちばん側であなたの体温をうつし、恋しい人を見て高鳴るあなたの鼓動を聞き、あなたの匂い立つような肌を可愛い顔を乞うような紅い唇を他の男から隠し、恋しい男の香りを肌に染みこませ、そうしてまたひとつになるために剥がされる。…あなたはその衣を仲謀様に掛けた。肌身を与えたようなものです。わたしが怒るのも当然でしょう?」
頭がくらくらする。褥の中だって、たいていからかうような口調を崩さないのに、この声はただひたすら甘く、昏く、深い。花は身のうちをかき回すような衝動に公瑾の胸元に体を丸めた。おくれ毛を公瑾の指が絡め取り、放す。
「こ…うきんさん」
「素直になる、と言ったでしょう?」
花はようやく首を横に振った。
「いじわる」
「なんです?」
「いじわる、です…公瑾さんはいつだって」
耳元を笑い声がくすぐる。
「これで姉妹に会っても胸を張れます。…妻も、そういう自分がいいと言っていたと」
「きゃ!」
すいと膝裏をすくわれ抱き上げられて、花は公瑾にしがみついた。やっとのことで夫を正視する。
「公瑾さん」
「何です」
「わたし、公瑾さんのどこだって何だって好きです。」
必死で口にすると、ふと公瑾の表情が無くなった。その顔に笑みがにじんでいく。
(なんてきれいな――獣)
唇を寄せると息まで奪うように口づけられた。
(2010.07.05)
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