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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 七夕なのに、夢見がち更新ですみません。
 
 
 
 リクエストいただいた、文若さんと花ちゃんの現代高校生パラレルです。かなり夢見がちで糖度高め…だと思うんですけど…続かないと思う! あはは! 逃走!
 
 マジで壊れた夢見がちなので、心の広い方だけごらんくださいね!
 
 

 
 
 
 …ある日突然、お城から迎えがやってきたりとか。
 …ある日突然、子どもの頃からの婚約者が現れたりとか。
 そういうことと同じくらい、非現実的だと思ってた。
 仲良しの子には、花は夢見がちだと言われるけど、そんなわたしにだって分かってた。
 恋なんて、そうそう転がっていないって。
 
 
 
 「はーなー。まだあ?」
 向こうの書架から友人の声がして、わたしはメモを片手に小声で返事をした。
 「んー、もうちょっと待って」
 入学した高校は、県内でも一、二を争う歴史ある高校だ。そのせいか、ここの図書室は中学校と違ってやたら広く、蔵書量が半端なく多い。わたしはメモを片手にうろうろしていた。
 高校に入学して最初の課題が出た。新入生を図書室に慣れさせるためのようで、やたらと難解な課題が多い。仲良しのかなと彩と組んだ課題は、いくつもの本を必要とした。
 「えーと…あ、あれかな?」
 目指す本はよりによって書架の一番上にあった。
 古びた書架は耐震工事こそしてあるけれど、とても高い。わたしは見回して、三段のステップが窓際においてあるのを見つけた。下に車輪がついていて、上がると人の重みで全体が沈んで動かないようになるタイプのものだ。
 わたしはその踏み台を転がして目指す本の下に置いた。上ると、ぎい、と音がして踏み台が沈んだ。
 「よいしょ…っと」
 手を伸ばす。指が本にひっかかったが、欲しい本ではない。その少し横だった。そこに手を伸ばすと、体が斜めになり足が泳いだ。踏み台の片方が不自然に上がる。
 「え?」
 「危ない!」
 踏み台が倒れる派手な音がした。わたしはぎゅっと目を閉じた。
 …でも、床に叩き付けられる衝撃はいつまでも来ない。何か柔らかいもののうえに落ちる。ふわっと乾いた感触が口元を掠めた。
 (え?)
 おそるおそる目を開ける。
 最初に目に入ったのは、間近にある見開いた目だった。生真面目そうな顔、着崩していないブレザー、首の脇で結んだ少し長めの黒髪、学年がひとつ上であることを示すタイの色。
 何か話そうとして、唇が震える。
 (だって、いま)
 すぐ近くでケータイカメラのシャッター音がして、わたしは我に返った。顔を上げると、跳ね放題の茶色の髪の、大きな瞳をした上級生が、わたしに向かってウインクした。
 「いやー、文若が女の子に押し倒されてるところなんて二度とないだろうから撮っちゃった」
 「馬鹿者、先に助けろ!」
 わたしの下の人が怒鳴り、わたしは慌ててそのひとの上から退いた。その傍らに正座する。
 「あの、ありがとうございました」
 仰々しいくらい手をついて頭を下げると、そのひとは痛そうに起きあがりながら、わたしをちらと見た。
 「怪我はないか」
 「はい」
 「そうか、良かった」
 気むずかしそうな表情が少し解けた。怖いほど真面目そうな顔が、驚くほど柔らかく見えた。
 鼓動が高くなり、顔が紅くなるのが分かった。
 「文若が女の子の顔を紅くさせてる~」
 のんびりと茶々を入れたもうひとりの上級生の言葉に、耳まで熱くなる。
 「誤解を招くようなことを言うな」
 ぴしゃりと言った彼は、立ち上がった。わたしに手を差し出す。呆然とその手と顔を見比べていたわたしに、そのひとは眉間に皺を寄せてわたしの腕を取り、立ち上がらせた。
 「あ、す、すみません」
 「あの踏み台は危険だな。撤去しておく。君も今後気をつけてくれ」
 「…はい」
 そのひとが、かなり無理矢理に壊れた踏み台を引きずっていく。それをぼんやり見送っていると、じゃあね、ともうひとりの上級生が人好きのする笑顔を見せた。それに慌てて頭を下げる。
 そのひとたちが視界から消えると、自然と指が唇に触れる。
 (…乾いてた)
 キス、してしまった。
 あのひとは分かったろうか? ほんの一瞬掠めただけだから、分からなかったかもしれないけれど。
 「あ、花!」
 「もう、花ったら」
 後ろから、かなと彩に肩を叩かれて我に返った。
 「あ…」
 「あ、じゃないよ! 本、あった?」
 「うん…」
 「どれ?」
 「うん…」
 「花ってば! 生返事ばっかり」
 「なにかあったの?」
 わたしはふたりを振り向いて、笑った。
 「うん!」
 
 
 
 …そうなの。
 そんなこと、簡単にあるわけないと思ってた。
 でも、あったの。
 そうなの、わたし、好きになったの。たった一度だけ触れた、そのひとに。
 いつも眉間に皺を寄せてる、学年一、ううん、校内一真面目なそのひとに、恋をしたの。
 
 
 
(2010.07.07)

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