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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 オリキャラ独白。 公瑾さんと花ちゃんのむすめさんです。
 お嫌いな方は回れ右してくださいね。




 わたしは父様に似ていない。似ていれば、もうちょっとやさしくしてくれるのかしらとこっそり泣いたことがある。いまはそんなに小さくないから、泣いたりしない。
 いつも叱られてばかりだ。
 女性らしく、この家の娘らしくと言われてばかりで、兄様が心配したくらい、父様が大嫌いだった。乗馬に弓に剣と、父様が眉をひそめるようなことばかりやった。
 わたしはずっと、兄様がうらやましかった。外へ出たかった。ほんとうに小さい頃に連れて行ってもらった北の国、母様のお師匠のいる国は確かに父様の言うようにわたしたちの国に比べると光も色も乏しく見えたけれど、皆、やさしかった。それは、わたしがいつも感じている、父上の子だからという待遇ではないようだった。特に玄徳さまはたいそう偉い方なのにいつもわたしを構ってくれて、毛布みたいにあたたかくしてくれた。だからわたしはいっとき、本気で玄徳さまの奥方になりたかった。それもまた、はしたないと父様に叱られるもとになったのだけれど。あのときの父様ときたら、おかしいくらいに怖かった。
 そりゃあ父様はおきれいで何でもできて、若いころはすごくもてたのよと母様が苦笑しながらいうのもうなずけたけれど、だからこそ、わたしは父様がけむたかった。
 だからあのころのわたしには、母様が、父様のいいなりになってばかりいるように見えて歯がゆくて、悔しかったのだ。


 母様には、気の置けない友人、というものが少なかったように思う。父様は家で騒ぐのが嫌いなのよと母様は言っていたけれど、わたしたちが歓声を上げて遊んでいても特に叱られたりしなかったのだから、母様がそういうひとなのだと思っていた。
 わたしは父様に注意されるほど様々な友人が多い。賑やかな交遊関係というのはお前のことだと兄様にも言われるくらいだ。大きくなってみると、母様のそれは、父様の地位に関係してやってくる「有象無象」(これは父様が言っていたのでわたしの悪口ではない)を少しでも遠ざけておくための策だったとわかるのだけど、それまでは、うちはずいぶん静かで母様はさびしくないのかしらと単純に思っていた。もちろん、騒がしいのがいいと思っていたわけではないし、辛気臭い家というわけではない。あの父様がいて、辛気臭くなりようがない。
 母様が家に呼ぶ女性といえば、母様のお師匠の兄上の奥方や父様の部下の伯将軍の奥方、そのかたふたりが、いつも変わらない顔ぶれだった。そのおふたりの子たちとは、いまも行き来がある。あとは母様のほうがそのお家に出かけていく喬姉妹という、わたしには伝説のようなかたがたがおいでになったけれど、その方たちは家に来るということは、わたしたちが大きくなってからは聞いたことがない。
 家にそういった友人を招いていても、ごく一部の身分ある奥方がしているようなきらびやかな、そして見目良い若者をはべらせたりする怪しげな酒宴はせず、ゆっくりお茶を飲んだりお菓子を作ったり書物を紐解いたり、せいぜいが連れ立って城下のお店に出かけていくといったふうで、それも頻繁ではない。ひとりでいるときのほうが母様はよく家を抜け出した。わたしや兄を連れて、船着場や、川が一望できる崖まで行った。父様が教えてくれなかったからと笑いながらいう乗馬はへたで、わたしのほうが上手だった。
 ほんとうに、何かといえば、母様は父様父様と言っていた。
 遠くへ行かないように父様が言えば、笑ってうなずく。
 刺繍の色遣いが少し悪いと言われればそんなものですかと笑う。
 どうして父様ばかりなのと言ったことがある。
 母様はわたしがそういうと、困ったような顔をした。父様はああいうひとなのよというばかりだった。
 母様はお師匠のようになろうとしなかったのと言うと、なろうとしたわ、と微笑した。なろうとしたからよと笑う。どうしても母様の大事なものというのが父様のこととわかったので、わたしはなんだかむしゃくしゃしてそれ以上聞かなかった。
 わたしが父様とやりあっているとき、母様はどっちの味方もしなかったように思う。ただ、怪我をしたときはひどく悲しそうな顔でわたしを見た。わたしが、どうして刺繍なんて織物なんてしなきゃいけないのと言うと、できることはできたほうが意見を通しやすいのよと微笑する。それになんとなく丸め込まれて、どうにかわたしは、家を飛び出さずにすんだ。
 母様の教えてくれたじゅもん、というものもある。
 とても前、子どものころ、母様の怖いものはなあにと聞いたことがある。兄様は父様が怒らないのが怖いと言って、わたしはそんなもの怖くないと言った。本当は母様に怒られるのが怖かったけどそんなのは言わないで、夜中に厠に行くのがこわいって、近所の女の子のようなことを言った。母様はひとしきり笑って、お前にはわからないといわれるのが怖いかな、と言った。
 わからないことだらけだ。父様が怒るのだって分からないし、兄様がわたしを邪険にしてお友達とばかり遊びに行くのだって分からない。でもそう思うたびに母様がそう言ったときのとても寒そうな、寂しそうな顔がいつも目に浮かんで、わたしは口をつぐんだ。
 父様がわたしをとても叱るのも、いつか分かるようになるという。分かりたいような、分かりたくないような気がしている。


 
(2013.9.1) 

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