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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 「さくらんぼの枝を舌の上で結ぶとナニかが器用」という、あの都市伝説っぽいお話から。
 孟徳さんと花ちゃん・文若さんと花ちゃん・公瑾さんと花ちゃん・です。
 それぞれ花ちゃんが違いますが、それでも許して下さる方のみ、ごらんくださいね。




 「はい」
 花がちょんと出した舌の上のそれを見て、孟徳は可笑しそうに笑った。
 「本当だ、できるんだね」
 「はい。練習しました!」
 「練習? なにかいいことがあるのかな?」
 にこにこと聞かれ、花は赤くなった。これを誇っていたあの頃の自分が急に恥ずかしくなる。
 「えーと、いいことっていうか…」
 「ん?」
 教えてしまったらこの恋人は、きっと確かめようとか言うだろう。それはもっと恥ずかしい。でも嘘は言えない。
 「…笑わないって約束してくれますか?」
 孟徳の笑顔がいたずらっぽいものに変わった。
 「ふうん」
 なんとなく察したような表情と思うが、確かめようも無い。だいたい、これができない孟徳がキスが下手だとかそういうことはいっさい、無いのだから。
 「遊びです」
 そう、他愛ないこと。比べようもないこと。花は立ち上がって、孟徳の隣に移動した。その肩に頭を預ける。
 「俺も練習してみようかなあ」
 独り言を言う彼にそんな暇があればいいと思って、花は微笑した。


※※※


 思い切り怪訝そうに見返され、やっぱりねと花は力なく笑った。
 「なぜそんなことをする」
 「遊びです。」
 瑞々しいそれをつまみ上げ、噛む。自分が覚えているよりずいぶん酸っぱくてかたいけれど、新鮮な果物を食べられる喜びがそれに勝る。種を出すときは恥ずかしいけれど。
 文若は、さっき自分が皿に置いた枝をしげしげと見ている。
 「文若さんってば、遊びですから」
 声を掛けても、彼は枝から目を離さない。
 「紐状だからな、そんな遊びを思いついたとしても仕方が無いが、口の中というのが何らかの鍛錬になるのか?」
 たんれん、とうその行為と最も遠いような真摯な言葉に花は瞬きした。これができる前とできたあとでキスが違いましたなんて話は聞いたことがない。
 「鍛錬、じゃないと思いますよ」
 「しかし、お前は練習までしたのだろう」
 「遊びだと思うと必死になっちゃうことってあるんですよ」
 キスが上手、という言葉にただはしゃいでいた。本当に口づけをしたときは、うまいとか下手とかじゃなくて、息って温かいんだなとか抱きしめられている相手の鼓動が自分のもののようだったとか、あとから思い出して寝台を転げ回った。
 「文若さん」
 ちゃんと力を込めてほほえみかけると、やっと彼の視線は皿の食べかすから離れた。
 「なんだ」
 花は皿にひとつだけ残っていた果実を、文若に笑って差し出した。
 「どうぞ?」
 文若が瞬きして、かすかに唇のはしを持ち上げた。
 「最後のひとつだ、お前が食べなさい」
 半分にすると言っても小さすぎるそれを、花は見つめた。
 「じゃあ、次は文若さんがひとつ多く食べていいですよ」
 文若は苦笑して、分かった、と言った。


※※※


 公瑾が袖で口元を隠しながら取り出して皿に置いたそれに、花は目を丸くした。
 「うわー、実際にやったひとは初めて見ました…」
 枝はきれいに結ばれている。彼はさも不思議そうに花とそれを見比べた。
 「これくらいでそんなに感動していただけるとは」
 「だって、わたし、できませんから」
 公瑾はくすりと笑って新しい茶をついだ。
 「他愛のないことだ。」
 「公瑾さんはどうしてこれをできるように頑張ったんですか?」
 「いつの間にかできるようになっていただけです」
 花は目を細めた。何度か出たことがある宴や、花が足を踏み入れない――興味はあるけれど許してもらえないだろう、夜に男が集う場所ではこんな遊戯も嬌声とともに受け入れられるだろう。もしかしたら、そういう時に覚えたのかもしれない。
 「なんですかその顔は」
 渋い声に、花は慌てて意識を目の前に戻した。
 「本当に器用ですね」
 「こんなことで感心されてもかえって困ります」
 公瑾は軽く咳払いした。
 「なぜこんなことを思い出したのですか?」
 それは恋人が万事に手慣れているように思うからです。
 そんな台詞をさらりと言えるような経験値はない。まして、あの唇がこの唇を頬を滑っていくことを思い出すことさえ、身体が焼けるようだ。
 「これがおいしかったからです」
 残った一粒を手に笑ってみせると公瑾はまだ怪訝そうな顔をしていたが、やがてさも素晴らしいことを思いついたような笑顔を浮かべた。
 「あなたもしてみせてください。この実がなっているうちに」
 「できませんって言ったじゃないですか!」
 「あなたならできますよ。なにしろ、りんごの皮を途切れずに剥けるほどですから」
 「関係ないですし、騙されませんよ!」
 「これは心外だ。いつわたしがあなたを騙しましたか」
 「…だ、騙してはいないですけど」
 「では、頑張ってください」
 こんなつまらないことに憎たらしいぐらいきれいな顔、と花があきらめて笑みを浮かべると、相手は意外にもとても楽しそうに笑い返したので、反論は立ち消えになった。


※※※


(2013.8.27)

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