二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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都督リクエスト、最終回その2 です。
読んでいただいてありがとうございました。
読んでいただいてありがとうございました。
三、
公瑾は店に入った。突き当たりに小さな窓があるだけの薄暗い店舗だ。両側の棚には蓋付きの籠が整然と置かれ、それぞれに方々の輝石の産地が書かれた簡が付けられている。籠はきちんと中身が入っているようで、編み目がたわんでいた。何が入っているか知れたものではないが、と公瑾は薄く笑った。
「おいでなさいませ」
うっそりとした声にそちらを見れば、奥で、小太りの男が礼を取っていた。公瑾は袂から青い石の髪飾りを取り出して男の前にある机に置いた。
「これに見覚えがありますね。」
男は無言でそれをちらと見た。公瑾は口元を袖で隠した。
「こちらに支払うべき金額が足らなかったと、これを買ったものから相談を受けましてね。どうもそう高価なものだと思ってはいなかったようです。あなたにはたいへん迷惑をかけました。くれぐれもわびておいてくれと、言付かってきました。」
それはそれは、と男は地べたに付きそうなほど頭を下げた。
「こちらに否のあること、痛み入ります」
「それで、いくらほど」
「お代は結構でございます。お客様に足を運んでいただきましたこと、かえってこちらが恐縮いたします」
「しかしそれでは、あなたの利は出ますまい」
男はのそりと顔を上げた。表情は、商人とも思えぬほど平坦だ。ただ、大剣を腰に下げた公瑾とふたりきりで向き合っていることを思うと、その落ち着きは不審だった。
「わたくしどもは、本日限りに店を畳みます」
「…ほう」
「これは、そのままお持ち下さい。…似合っておいででした」
言葉に紛れもない感嘆を聞き取り、不愉快になる。公瑾は相手を見据えた。
「では、この店は無くなるのですね。」
「さようでございますな。わたくしどもは、どこにでもお客様がおいででございますので、どこででも商売ができます」
ちら、と何か面白がっているような口調がのぞいたが、公瑾はそれを無視した。
「それにしては、ずいぶん強引な客引きをしているようですが」
「心外でございます、あの方がたいそうお可愛らしかっただけで。そのことでこのようなお客様のご訪問があろうとは、夢にも思わぬこと。」
暗に、公瑾が誰か分かっているような口調だ。
すらりと薄闇に光が流れた。男の肩に、公瑾の剣の切っ先が触れている。男はそちらを見もせず、身じろぎもしない。
お前のような鼠に、何が分かるものか。素直なゆえに何もかもその腕に抱こうとするあの「花」を枯らさずに、溺れさせずにいることのどれほど難しいか、誰にも分かってたまるものか。矯めることは容易い、しかしそれは知識や勉学で補えない、彼女の得難い資質なのだ。
昨夜のことを思い出すと胸が震える。「そんな道」は取らせないと彼女は言った。彼女が見たのはいったいどんな道だろう。己の血に濡れているなら何も案ずることないはずなのに、それが痛いのだと告げる妻が見た道。
公瑾は流れるような動作で剣を収めた。
「それでは、失礼しましょう。」
「お気を付けて。」
外に出れば陽光が眩しい。ちらと振り向くと、あの男が暗がりに白目を光らせてこちらを見ていた。
非常に剣呑な男だ。相当な修羅場を踏んでいるだろう。奥に群れていた剣呑な気配を見事に押さえた。あの男は確かに店を畳む。準備が無駄にならなかったようだ。
彼が小さく腕を振ると、入れ替わりに城下の警備兵たちが店へなだれ込んで行く。怒号と剣戟の音が一段落する頃には、公瑾の姿は見えなくなっていた。
四、
「へええ」
仲謀が感心したような声をあげ、公瑾は振り向いた。
「どうかなさいましたか」
仲謀が、さきほど上がってきたとおぼしき簡をかるく振ってみせた。
「城下で、凶賊が捕まったらしい。あたりの村を襲い回って、捕まえられなかったヤツだってよ。ったく、兵はいままで何をしてやがった」
「それはようございました」
「これには、都督のお力添えにより、と書いてあるぜ? 何をしたんだお前」
仲謀の上目遣いに、公瑾は袖で口元を隠した。
「わたしなど、何事も。」
「嘘つけ」
「そうですね…強いて言えば、妻のおかげでしょうか」
「ああ? 花のおかげ? なんだそりゃ」
公瑾はにっこりと笑った。
「花を見つけたのが運の尽きだったのです。」
その笑顔に何を見て取ったのか、仲謀がうへっと言って首をすくめる。
「お前はホント、あいつのことになると見境ねえな」
「そうかもしれません」
「頷くなよ…」
まあいいや、と呟いて仲謀が政務に戻る。公瑾はもういちど微笑んで、部屋に入ってきた子敬に向き直った。すぐに軽い足音が近づいてきて、入り口で失礼しますと頭を下げる。
「追加の簡をお持ちしました」
「こちらへ」
簡を手渡す時に指先が触れあうと、花は嬉しそうに笑った。
常と変わらぬ、呉の景色である。
(おわり。)
(2010.8.9)
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