二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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都督リクエスト週間、第一弾です。
リクエストくださいましたKさま、ありがとうございました。
お心にかなえば幸いです。
拍手おへんじ、お待たせしております。もう少しお時間ください…すみません!
リクエストくださいましたKさま、ありがとうございました。
お心にかなえば幸いです。
拍手おへんじ、お待たせしております。もう少しお時間ください…すみません!
しとしとと雨の降る日だ。
まして今日は朝から気の張る謁見ばかりだ、と仲謀は口をひん曲げた。豪華で大仰な言葉に隠された意味を探りながら会話するのは、正直、気持ちが悪い。仲謀は窓の隙間から雨を確認し、大きな息をついた。この様子では船で気張らしという訳にもいかない。
自然と視線は、横に立つ公瑾に流れる。美貌の大都督は、先程まで部屋にいた子敬と話をしていたが、その子敬も去ったいまは端然と立つばかりだ。そのさまを見、ふいに仲謀は片眉を上げた。
いま、公瑾が欠伸をした。衣の袖に隠して、品よく、しかし確実に。
彼はちらと仲謀を見て、悪びれない笑みを浮かべた。
「申し訳ございません」
「いや、休憩だしいいけどよ…お前が珍しいな」
「私事ですが婚儀が近づいておりますので眠る間も惜しいのです。」
彼の妻になる女性は、仲謀にも浅からぬ縁がある。というより、この三国すべてに縁がある希有な娘だ。
その娘と、先日、回廊で会った時の立ち話を思い出して仲謀は笑った。
「花のやつ、行儀よりは孫子を学ぶ方がましだって言ってたぜ? 孫子は理屈は通るからってよ。行儀作法は三歩が四歩でも構わないじゃないか、ってごねてた。まあ俺はそういうところにもとから居るし、そんなもんだとしか思わねえが、あいつに言われるとなんだかひどく面倒なことをしているような気になるな」
公瑾がくすりと笑う。
「ではわたしは果報者ですね」
「…いまの話の流れでどこがそうなるんだよ」
「そういう我慢をわたしのために頑張ってくれているのでしょう?」
さらりと言う公瑾に絶句する。どういう相づちも打ちにくくて、仲謀は乱暴に茶を飲んだ。控える侍女が心得たように茶を替える。
「そんなに…楽しいもんか?」
ぼそりと言うと、ふふ、と公瑾は笑った。
「楽しい、というのとは違いますね。不安です」
「はあ?」
まったく不安そうでない崩れない笑顔で言われ、仲謀は杯を取り落としそうになった。公瑾が芝居がかったため息をつく。
「不安で不安で止められないのです。花がどう喜ぶか、本当に気に入ってくれるのか、そればかり考える。」
吐きそうになったが、兄のことを考えて堪える。
「そう考えてばかりいたので、婚礼衣装が十着目になりました。」
「十…!? 一回しか着ないんだよな!?」
「当たり前です。」
公瑾が憮然とした。
「彼女がわたし以外の誰に嫁ぐというのですか。」
「いや、だから、十着…っていうか着なかったやつどうするんだ」
「売りますが、何か」
「なんだ、お前のことだから、ぜんぶ肖像画にして残すのかと思ったぜ」
公瑾がふむ、と頷いた。
「それも良いですね。」
「真面目に取るなよ…」
呟くなり、きりりと睨まれて仲謀は少し身をのけぞらせた。
「むろん、臣下としての分はわきまえております。ですが仲謀様もご存じでしょう? 婚儀とは、花嫁がより美しくあるべき場所。いいえ、婚儀ばかりではない、妻となるその前も、己の想い人は飾り立てたいものです。」
仲謀は頬をひきつらせた。
花は可愛いとおもう。着飾ればもっと可愛いと思うけれど、公瑾のそれはそんな純粋な思いだけではない。その美しい愛らしい妻のとなりに座るのが己であることを誇示するためだ。花はどうせ公瑾しか見ていないのに、と仲謀は内心でため息をついた。どんな短い邂逅でも潰そうと彼女を隠すいっぽうでいかなる些細な機会でも捉えて花を自慢する公瑾の面倒な性格は、もっぱら皆の苦笑を誘っている。
だが、そんな強欲も彼なら許されるし、そして自分も許したいと思う。物わかりのいいふりばかりして立ち止まっていた亡き兄の友の扉を、ただひとりこじあけた娘のために。
公瑾はゆるく首を振った。
「もしわたしが神ならば、当日はこの世のすべての花木に彼女のために咲くことを命じるでしょう。」
心底残念そうに言った彼に、仲謀は笑った。
「あいつが花じゃねえか」
その途端、公瑾は細い目をより細めてあるじを見据えた。…彼の妻となる娘を褒めたのに、なんだこの威圧感は。
「仲謀様にそこまで言わせる彼女はたいしたものですね」
「…俺は褒めたんだぞ」
「恐れ入ります。…ところで、謁見はこれで終わりのようですね。」
「お、おお」
「それでは御前を失礼いたします。婚礼用の飾りを仕上げねばなりません。やっと、これならば任せられるという工人を見付けましたので」
優雅に礼をして出て行く臣を、仲謀はほおづえをして見送った。
「好きな女がいるってのは、凄いもんだな。」
思わず漏らした独り言に、侍女がかすかに笑ったようだった。
(2010.8.2)
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