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なんでしょうか、この寒さは。冬用の布団をもういちど出してしまいました…セーターはみんなクリーニングしちゃったし。
いらしてくださるみなさま、拍手を、いつもありがとうございます。返信はまた改めてさせていただきます。ご容赦ください。
今回はリクエスト返礼になります。ちょっと長くなってしまいましたので、今回は「一・二」のみ。「六」までありますが、リアル生活多忙につき、もう少しお待ちくださいませ。
naoさま、リクエストありがとうございました。ご希望にすこしでも添えていたら、幸いです。
では、孟徳さん×花ちゃんです。
序
…不思議ね。
今日の月は、丞相のお目に似ている。さえざえとしているのに、不思議に人肌のぬくもりを感じるの。
丞相は、女なら好きにならずにはいられない方だわ。一対一になった時、あんなにも愛されていることを実感させてくれる方はいないもの。あまりにも誠実で、でも不実なの。
…そうかしら?
肌身を許した男と女は、いずれそういうものではなくて?
いいの。あの方を好きになったのはわたし。これはわたしひとりだけの恋。
一、
「お立ちくださいませ。」
うながされ、そろそろと立ち上がる。そっと上衣をたぐると、その裾にびっしり縫いつけられた紅いガラス玉がさらさら鳴る。
「丞相のお見立てはぴったりでございましたね」
ひと月ほど前に花付きに任命された侍女のうち、いちばん年かさの叔玉が満足そうに頷いた。髪に挿してある白玉の簪が光をとろりと滑らせる。
年かさとはいっても、おそれながら丞相と同じ年でございますわと悪戯っぽく笑った目が優しくて、花はいっぺんに好きになった。実際、彼女は孟徳に古くから仕えているらしく万事そつがない。いろいろな決まり事に右往左往している花を丁寧に導いてくれる。
婚儀が決まってから孟徳がじきじきに連れてきた五人の侍女たちは、みな、驚くほど花に優しい。むろん孟徳が言い含めているに違いないが、彼女たちの中では花は気兼ねしなくてよかった。分からないことは分からないと言えば教えてくれるし、花に対して差別するような気配はみじんもない。ドラマや小説で知る「有能な秘書」とはこんな感じかと思う。
控えていた他の侍女たちが、てんでに頷いて囁き合う。花は紅くなった。
「こんなきれいな服を着て、うまく動けるでしょうか」
花は心配になって、叔玉にたずねた。彼女がゆるりと微笑む。
「丞相がご一緒ですから、どうぞお心安く」
「はい…」
もういちど、花は自分を見下ろした。
花嫁衣装はきれいな紅で、地模様に鳳凰だろう、大鳥が咲き誇る木々の間を飛んでいる。帯の模様は婚礼に使用する伝統的なものだ、と叔玉が教えてくれた。側に置いてある冠は金の玉飾りが光の滝のように垂れ下がっている。
「賽香」
叔玉がかたわらの侍女を振り向いた。はい、と柔らかな声で賽香が腰を折る。銀の紐を編み込んだような模様の簪がぴかりと光った。
彼女を見ていると、生まれながらの美人というのは違うものだなと花は素直に感心する。立ち居振る舞いが匂いたつようだがあくまで慎ましく上品だ。ひそかに彼女のしぐさを真似たりするが、うまくいかずに落ち込むこともある。叔玉と同じ年齢らしいのだが、こちらは孟徳に似て、時が止まっているような若々しさだ。
「帯の幅が少し足りないようです。あとは、色目をもう少し押さえたものをお持ち」
「はい」
彼女がもう一度礼をし、部屋を出て行く。花が叔玉を見ると、彼女は微笑んで頷いた。
「丞相がお決めになられた衣は何通りもございますよ。違う物をお持ちしますので、もう少しお待ちください」
「ええ!? で、でも、一回しか着ないんですよね…?」
叔玉は、腰を落として花の裾周りを確かめながら、彼女を見上げた。
「丞相も、佳き日の晴れ姿を誰よりも楽しみにしていらっしゃるということです」
「いいのかな…」
「おそれながら花さまは、遠い異国よりいらっしゃったとお聞きしております」
叔玉の声音が控え目に沈んで、花はそっと頷いた。
「お母上、お父上なども、娘である花さまの婚礼を何より楽しみにしていらっしゃったことでしょう。しかし、お国のあまりに遠きゆえに参列がございませんことを丞相はとても気にしておいでです。そのお心の寂しさをせめて埋めたいとおっしゃっておられましたわ。」
「孟徳さんが…そんなことを」
花は俯いて両手を握りしめた。
「…孟徳さんは、いつもわたしのことを本当に大事にしてくれて、なんだか不安になるくらい」
叔玉は控え目に微笑んだ。
「花さまは欲が無くていらっしゃる」
「そんなことないです!」
ふふ、と声に出して微笑まれ、花は紅くなった。そのときちょうど賽香が戻ってきて、花は顔を上げた。捧げ持った濃い青と黄色の帯を、彼女は叔玉に恭しく差し出した。
「ありがとう。では花さま、もういちどお着替えいたしましょう」
「はーい…」
引きつりながら笑った花に、叔玉と賽香はいささかの同情を込めた微笑を向けた。
二、
「なぜ、実行まで待つのですか」
文若の、感情ない声が部屋に響いて、孟徳は目を開けた。
暗い部屋だ。花がいないせいだ、と漫然と思う。そうして、そう思う自分を戒める。実際はただ夜中というだけだ。星も光らない闇の夜。
「全滅を狙ってるからだよ。」
淡々と答えると、闇夜でも文若の眉間に皺が寄るのが分かる気がする。
「理解できません」
「珍しいね」
「全滅することはあり得ないからです。あなたが彼女だけを娶るというのなら、全滅することはあり得ない」
孟徳はひっそり笑った。
「分かってるよ。噂だけでいいんだ」
「丞相」
「噂でいいんだ。花ちゃんの命を狙うなら天罰が下るっていう、う・わ・さ。」
天罰だよと歌うように言って、孟徳は喉を鳴らして笑った。
「天でもどこの神様でも、花ちゃんを殺そうとするやつなんか滅してしまえばいい。それを俺がやるだけのことだ。」
「不遜です」
「何を言ってるんだい」
彼はいっそう笑みを大きくした。
「どうせ方便だよ。何だって使うさ。俺は、あの子を守る。それが俺の理だ。」
「…丞相」
「ああ、ああ、悪かったよ。でも言わせてもらうよ、他でもない俺だからね。大丈夫大丈夫。『彼女たち』はとても有能だし、優秀だ。…暗殺者と同じくらいに。」
「分かっております」
「俺はね文若。いっそ彼女たちが政をすればいいと思う時があるよ」
「お戯れを」
「本気さ。彼女たちは俺たちよりよほど無駄を嫌うし、まわりが見えない。こうと思いこんだらきっと俺たちより理想の国を作ってくれるよ。まるでひとつの家族のように突き詰めた国を。」
「…お褒めになっているとも思えませんが」
「褒めてるって。…まあ、もう少し待つんだ」
すれ違いざまに、孟徳は文若の腕をかるく叩いた。むかし、気安い仲間だった頃によくしていたように。「ちょっとやんちゃ」をする前のように。
「殺してみせるから」
ああ、花を早く抱きしめたいと孟徳は思った。
(2010.5.26)
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