忍者ブログ
二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 寒くて寒くてしょうがないのに、職場の暖房が壊れました! なんの罰ゲームだー!


 本日は、「きみ、去なば」の「三」です。残りは来週でしょうか。
 お待たせいたしますが、よろしくお願いします。

 


三、


 恋しい足音が聞こえてきて花は顔を上げた。叔玉たちがさっと立ち上がり、壁際に退いていく。
 「花ちゃん、入ってもいい?」
 孟徳の声に立ち上がり、扉を開ける。開けるなりきつく抱きしめられ、花は笑った。
 「おはようございます、孟徳さん」
 「文若に聞いたら、今日は休みだって言うからさー。俺もお休み取れば良かったよ」
 拗ねた口調に、彼女はくすくす笑いながら孟徳の手を取った。
 「お休み、というか…朝は少し熱があるようだったので、大事を取りました」
 「そっか、もう平気?」
 「平気です。孟徳さんに会えたし、大丈夫です」
 「そんなこと言われると舞い上がっちゃうなあ」
 踊るように孟徳が自分を抱き上げる。細いように見える彼の腕はしっかりと花を抱いている。そう言えば玄徳と打ち合った時も、少しも揺るがなかったと花はちらと思った。
 長椅子に寛いだ様子で腰掛けると、孟徳は笑顔で花の顔を覗き込んだ。
 「婚儀に着る衣装は決まったかな? 気に入ったのがあれば良かったんだけど」
 花は長々とため息をついた。朝一番に言わなければと思っていたことだ。彼の方から切り出してくれて良かった。
 「孟徳さん。婚儀に着るのは一着だけなんですよね?」
 「そうだよー。」
 「なのにあんなにたくさん…勿体ないです」
 「婚儀に着なかったのは君の儀礼用の衣になるんだから、ちっとも無駄じゃないよ。君は、いちばん気に入ったのを素直に選んでくれればいい」
 得意顔の孟徳に、花は目尻を下げた。
 「無駄にはならないんですね?」
 「もちろん。」
 「じゃあ…好きなものを選びます」
 「楽しみにしてる。」
 孟徳が笑う。安心したような目の色に、花も安堵した。きっと花があの十着の中に気に入ったものがなかったと言えば、彼はまた平然と追加するだろう。でもそれはさせてはならない。自分が異例ずくめだから、なおさら。どんな小さな「異例」でもこのひとの瑕瑾になってしまうのではないか、そればかり考える。
 「ねえ、花ちゃんの世界の婚儀ってどういうものか教えてほしいなあ。」
 「どういうもの、ってどういうことですか」
 我ながら馬鹿みたいな問いだと思ったが、孟徳の興味の範囲は非常に広いので、どういう受け答えをしたらいいか迷う。
 ふと、思うことがある。彼がもし自分とともにあちらに行っても、彼は社会的に成功しそうだ。ぱりっとしたスーツを着て、いい車に乗って、すごい広いマンションに住んで…花の想像力ではテレビドラマ程度にしか再現できないが、それでもその景色は孟徳によく似合っている気がした。
 孟徳は膝の上に置いた花の手をゆるく撫でながら小首を傾げた。
 「うーん、じゃあまず、どういう服を着るの?」
 「ええと、大きくわけて2種類でしょうか。白無垢、という着物と、ウェディングドレスという洋服です。」
 「色は?」
 「どっちも白ですね。」
 花も女の子だ。あちらに居たときは、結婚式にはこんなドレスがいいとか、海外リゾートウェディングがしたいとか、他愛ない夢を話し合ったものだ。
 孟徳は干した果物をつまみながらふうん、と相づちを打った。
 「色がないのかあ。こっちとはぜんぜん違うね。」
 「そうですね。でも、孟徳さんが選んでくれた服はどれも綺麗で嬉しかったです。それに、ああいうきれいな色づかいの服を着る場面もあるんですよ? お色直し、って言って、二回目のお披露目の時」
 「ふうん…」
 孟徳は目を細めた。
 「あ、駄目です、孟徳さん」
 「んー? 何が駄目?」
 「二回三回、衣装を換えることを考えてるでしょう…?」
 今のは分かりやすかった。花が聞くと、彼は清々しい笑顔になった。
 「当たり。」
 「駄目ですよ!」
 「いいじゃない。可愛い花ちゃんを俺が見たい。宴席で衣を換えればいいよね」
 「叔玉さんたちが大変ですからいいです!」
 「そういう優しさは俺にだけ向けてよ」
 「孟徳さん!」
 花は助けを求めて叔玉を振り返る。彼女は心得たように微笑んで小腰をかがめた。
 「花さま、どうぞ丞相のお気の済むようにおつきあいくださいませ」
 「叔玉、言い方が冷たいなあ」
 「あら、違いまして? ねえ賽香」
 「はい」
 「お前たち二人とも、ちょっと花ちゃんの味方しすぎじゃない?」
 「丞相がお言いつけになりました」
 賽香が済ました顔で言うので、花はおかしくなって笑ってしまった。孟徳が、そんな花を見ながら片手をひらりと振ると、ふたりは礼をして退出していく。
 「孟徳さん?」
 花が不思議に思って尋ねると、彼は胸の中に彼女を抱き込むようにした。顔が見えない、と花は少し不満を覚えた。彼がそのまま何も言い出さないので、花は少し息を整えた。
 「孟徳さん、父母のことまで気遣ってくれて、ありがとうございます」
 「…ああ、叔玉が言っちゃったのか。」
 「はい。」
 花の背を、孟徳の大きな手が撫でる。
 「寂しい思いをさせるね。…そんなことないなんて言わないでね」
 「言いません。孟徳さんには全部分かってしまうから」
 「そうだといいな。」
 「でもわたし、嬉しいです。孟徳さんと居られて…好きな人と居るって、こんなに幸せになるものなんですね。」
 ほんの少しの沈黙のあと、ありがと、という囁きとともに、額に唇が触れた。
 「花ちゃんが俺の夫人になる日まであと少しだね。楽しみだなあ。」
 子どもが遠足を待つような口調に、花は改めて孟徳の胸に顔を寄せて目を閉じた。
 温かい。それに、いい匂いだ。背を撫でられると、子どもに戻ったような気になる。
 「花ちゃん、寝るといたずらするよ?」
 笑う声がくすぐったい。花は身を縮めて微笑んだ。


(つづく。)
(2010.5.27)

拍手[46回]

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
プロフィール
HN:
のえる
性別:
非公開
メールフォーム
カウンター
アクセス解析

Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]