二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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孟徳さんと花ちゃんです。
リクエストありがとうございました~!
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花は孟徳の前に、酒を入れた瓶を置いた。どうにかここまで零さずに持ってこれた。息をついて孟徳を仰ぐと、彼はずいぶん蕩けたような眼差しでこちらを見ていた。それが褥の彼を思い出させて、花はつとめて穏やかに尋ねた。
「孟徳さん?」
「ああ、ごめんごめん、花ちゃんがあんまり可愛くて見とれちゃった」
照れもせず言われ、頬が熱くなる。
「も、孟徳さんも、格好いいです…」
視線を彷徨わせながら言うと、彼は両袖を広げた。
いつもの鮮やかな緋ではない、いっそ文若のように濃い色の衣だ。部屋に少なめに立てられた灯りでもじゅうぶん、深い深い緑の地に織られた大型の吉祥文様はきらめくけれど、昼間のように威圧的な感じはない。
「これ花ちゃんがぜんぶ考えてくれたんでしょ? だったら俺に似合うに決まってる」
いつも以上に自信満々に断言され、耳まで熱くなる。
「ねえ、でも、どうして? いつもなら公式の宴だって出たがらないのにふたりきりで宴をしましょう、なんて」
花は顔を上げた。孟徳は興味深そうにこちらを見ているだけで、何かを懸念している色はない。花は呼吸を整えた。
「あの…今日は孟徳さんの奥さんになって、一年経ったんです。だから…その、孟徳さんが忙しいのは分かってるんですけど、一緒にお祝いしたかったんです。」
花の視線はだんだん下がっていった。
孟徳と居ると浮き立つような幸せと一緒に、どうしても埋められない年齢差がもどかしくなる。孟徳の手のひらから出られないような気がして俯いてしまう。このこともそのひとつのような気がしてきて、花は裳を握りしめた。
孟徳には、過去にもたくさんきれいなひとがいた。花も会ったあの艶っぽい女性だってそうだ。その誰かがこんな風に、孟徳と祝ったことだってあるだろう。でも自分にとっては初めてだ。こんなことを女官に相談するのはかなり気が引けたけれど、もうこの日は二度と来ない。だから我が儘を言って衣も新調した。
膝の上で握りしめた手に、大きな手が撫でるように重なった。ゆっくりと体温が近づく。
「ありがと」
頬に唇が触れた。少し荒れた唇だ。最近はゆっくり会う時間も無くて、いっとき、お昼ごろ押しかけるようにして一緒に休憩を取った。目の下の隈が濃くなっていく孟徳を見ていられなかった。
孟徳は子どものように嬉しそうに花を上から下まで見た。
「その衣も新調だね。」
「はい」
花は袖を持ち上げた。クリーム色に近い濃い白を上着に、だんだん濃いピンクに近づくように袖口と襟元に衣を重ねた。この土地の長い冬の終わりを告げる梅を思って作ったものだ。袖と襟の金糸刺繍はつたないけれど自分で施した。
「俺には君がいつも以上にきれいな一輪の花みたいに見える。合ってる?」
「あ、合ってるも何も、孟徳さんがそう思ってくれたならそれで」
「花ちゃん!」
全身で抱きつかれ、花は息を詰めた。
「孟徳さん…」
「俺はね、毎日毎日、花ちゃんと同じ寝所で起きて、仕事に行ってあのいかついのと細目とにらめっこして疲れた時に君がお茶を持って来てくれて、夜は君の体温で暖まった寝床に入ってたまには花ちゃんと愉しいことをする日が続いてることに、すごく感謝してた。君も同じ気持ちだったなんて、すごく嬉しい」
頬ずりされて、長い髪飾りがうるさく鳴る。孟徳ははっとしたように手を放した。心配した顔でのぞき込まれる。
「ごめんごめん、せっかくきれいに着飾ってくれたのに」
花はかぶりを振った。
「孟徳さんが見てくれたから、それでいいです。あとは…その、孟徳さんの好きにして…くれれば……それ、で」
顔を見て言い終わると、頬に手が触れた。
「うん、そうする。」
まるで子どもを抱き上げるように腰を抱かれ、膝の上に乗せられる。後ろから抱きしめられて頬を合わせられた。密着するとどうしても褥のことを思い出して頬が熱い。花は孟徳の膝に手をついた。
「花ちゃんはあったかいねえ」
「孟徳さんも」
「ね、お酒、呑ませて」
うす緑の石を薄く薄く削りだした杯を孟徳が差し出す。花は頷いて、不自由な姿勢だったがどうにか酒をついだ。孟徳はゆっくり飲み干し、長い息を吐いた。
「誰に注がれるよりおいしい。」
嬉しげな孟徳に、花も笑顔になった。
「良かった。…あの、贅沢してしまいました」
「花ちゃんの可愛さは俺のやる気に直結するからいいの。文若に感謝される」
「孟徳さんってば」
「ねえ花ちゃん、毎月この日はこういうことしよ?」
「孟徳さんはそのうち、毎日こういうことしよう、って言うような気がするので反対します」
軽く睨むと、へらりと笑顔を返された。
「花ちゃんが可愛いのが見たいもん」
「もん、じゃありません」
「ちぇー、最近は簡単に頷いてくれないな」
「孟徳さんの奥さんになって一年、ですから」
花が胸を張ると、孟徳は心底おかしそうに笑った。
「そうだった」
そのまま深く抱き込まれる。嬉しいなあというしみじみとした呟きに、どれだけの安堵が込められているだろうか。それはそのまま花の気持ちに重なっているに違いない。泣きそうになって、花は力を抜いて背を預けた。
(2011.2.15)
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