二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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赤い人だいすき。
というわけで書きました。
というわけで書きました。
「あ、孟徳さん」
寝台から半身を起こした花が、笑った。それに笑みを返しかけた孟徳は、彼女の側にいる男に気づいて一気に笑顔の温度を下げた。
「なーんで文若がここにいるのかなあ?」
「お見舞いに来てくださったんです」
彼女が文若を見て微笑う。孟徳の姿を見ると同時に立ち上がっていた文若はいちど視線を下げ、孟徳に一礼した。
「見てください。ほんとうに綺麗な布なんですよ。」
上掛けに置いてあった布が彼女の手で開かれると、西の文様があらわれた。孟徳には珍しくもない。だが唐草文様を彼女の白い指がなぞると、急に生き生きとして見える。
「あの、孟徳さん」
指の動きに気持ちを取られていた彼は、はっと花を見返した。彼女は申し訳なさそうに孟徳を見ていた。
「孟徳さんは有名な詩人なんですよね? 文若さんから聞きました」
「ああ…うん、そうだね」
有名かどうかはともかく、詩は好きだ。よく作る。
「孟徳さんの詩を、見せて欲しいなと思って、文若さんと話していたんです。」
孟徳さんは、彼女にもわかりやすいように、怖い笑顔をつくった。
「なんでそれを俺に最初に言わないの?」
「ごめんなさい、いま思いついたので」
本当に申し訳なさそうに言われると、追求するのもためらわれて彼は息をついた。
「どうして?」
「この国の字を、ちゃんと覚えたいんです」
孟徳は瞬きした。
「…どうして」
花は顔を紅くし、俯いた。髪がさら、と動く。
「あの、笑わないでくださいね?」
「俺が君のことを笑ったことがあるかな?」
「ありません!」
きっぱりした返事をした瞳がとても真剣で、孟徳はひどく安堵したことに我ながら驚いた。
「…そうすれば、何より孟徳さんの書いたものを自由に読めるようになりますよね?」
孟徳は曖昧に頷いた。彼女の言葉の先は彼にはもう分かっていたが、心から聞きたかった。
彼女が目を上げる。孟徳と視線が合う。こんなたびごとに、新鮮な驚きが自分を襲う。
「孟徳さんがきれいだと思うものを知りたいです。」
孟徳は、口をあいて、また閉じた。無言のまま寝台に寄り、花を抱きしめる。文若が顔をそらすのが目に入ったが、かまわない。
きっと彼女は、(あなたのことを知りたい)というだろうと思っていた。それならいつも聞いていたから。そのたびごとに、内心では嗤っていた。誰が自分を知ると言っても、気にしなかった。分かったと言われるたびに、その女性を遠ざけた。
だが、花は違った。
きれいだと思うものを知りたいと言った。
自分は、まだそんなものをこの手につかめるだろうか。手から離していなかったろうか。今このとき、彼女以外にはきれいなものなんて思いつかないと言えば、この子はまた真っ赤になるだろう。
「…ねえどうしよう花ちゃん」
かろうじて彼女の傷を思い出し、ゆるく抱きしめて頬をすり寄せた。それでも恥ずかしがって身じろぎする彼女の背を、ゆるりと撫でる。
「ど、どうしようって、何ですか?」
慌てた声が、尻すぼみに消えた。
「俺ね、君が可愛くて可愛くて可愛くて仕方ないよ。」
「孟徳さん」
「君は俺の想像の上を行くなあ…いつも」
「そ、そんなことないです。わたし、いつだって孟徳さんにわたわたさせられている気がするし」
「俺なんて、たいしたことない」
本心から言って、孟徳は彼女を離した。寝台に腰掛けると、顔をそらしたままの文若を見る。
「雰囲気の読めない男は嫌われるよーぶ・ん・じゃ・く?」
「あ、あの、文若さん、ありがとうございました。…約束したこと、お願いします」
「ああ、分かっている。…丞相、失礼いたします」
「待った。約束ってなんだ?」
文若が口を開くより先に、花が慌てた様子で言った。
「地図をお願いしたんです。行ったことのある地名なら、文字も覚えられるし、国のことも分かりますから」
「…ねえ、花ちゃん」
孟徳はわざと顔を彼女に近づけた。落ち着いていた彼女の顔色が、また一気に紅くなる。
「なん、なんでしょう」
「気のせいかなあ。君は俺より、文若を信用してるように思うんだけど」
彼女が、不思議そうに首をかしげる。
「だって、文若さんはとても有能な官だって、孟徳さんが言ってましたよ?」
「うーん、そうじゃなくてさ。…ねえ、なんで俺に頼まないの?」
花が視線を泳がせ、文若を見る。孟徳の後ろで、文若がため息をついた。
「丞相に申し上げたほうがいい」
「でも…」
「お前なら、きちんと伝えられるだろう」
自分を置いてけぼりにしたやりとりに、孟徳の笑顔が固まる。だが、「失礼いたします」という声とともに文若が退室すると、花は覚悟を決めたように孟徳を見返した。
「わたし、ずっとここで寝ていますよね」
「まだ傷が癒えていないからね。」
「そうすると、色々な話が耳に入るんです。」
「そうなの?」
「はい。…わたし、毒を飲みましたし、傷を負いました。…あの、お医者さんは処罰されたと聞きました。」
「うん、そうだね。」
「わたしは…わたしは、孟徳さんの気に入りだから処罰されないのだと、言っている声が多いのだそうです」
一気に言って、彼女は顔を歪めた。
「きょ、共犯、だから、と」
「花ちゃん、花ちゃん」
「わたしのせいで、孟徳さんが、悪く、言われるのは、嫌です」
泣きそうに顔を歪めながら孟徳から目をそらさない彼女の手を、孟徳はきつく握りしめた。
「もう少しだよ。」
「…なにを、ですか?」
「君が俺の奥さんになってくれたら、そんな噂は止むから。」
少女の顔が一気に真っ赤になるのを、孟徳は面白く、しかし喜びを持って眺めた。
「おおおお奥さんって」
「あっれー、まだ冗談だと思ってた? 」
こつん、と額をあわせる。
「俺は知っているよ。」
なにを、と声にならない声が耳元をかすめた。
「君が俺を大好きで居てくれること。大好きだから、身を挺して俺を助けてくれたこと。…俺も君を大好きなこと。ね、君も知ってるよね?」
はい、と、今度は少しはっきりした呟きが聞こえた。
「俺は、それをきちんと分かっているよ。それじゃいけないかい?」
「もう、とくさん」
「そういう真面目なところも、俺は好きだけど。ねえたまには、俺の声だけ耳に入れてよ。」
文若とか要らないからさ、と言うと、笑う気配がした。
「文若さんがかわいそうですよ」
孟徳はため息をこぼして、彼女の体に腕を回した。
「それよりもさ」
「え?」
「君が、教えてよ。君がきれいだと思ったものを。」
「…はい」
(それでまた詩にしよう)
嬉しそうな声に、孟徳は彼女の髪に頬ずりした。
(2010.4.10)
寝台から半身を起こした花が、笑った。それに笑みを返しかけた孟徳は、彼女の側にいる男に気づいて一気に笑顔の温度を下げた。
「なーんで文若がここにいるのかなあ?」
「お見舞いに来てくださったんです」
彼女が文若を見て微笑う。孟徳の姿を見ると同時に立ち上がっていた文若はいちど視線を下げ、孟徳に一礼した。
「見てください。ほんとうに綺麗な布なんですよ。」
上掛けに置いてあった布が彼女の手で開かれると、西の文様があらわれた。孟徳には珍しくもない。だが唐草文様を彼女の白い指がなぞると、急に生き生きとして見える。
「あの、孟徳さん」
指の動きに気持ちを取られていた彼は、はっと花を見返した。彼女は申し訳なさそうに孟徳を見ていた。
「孟徳さんは有名な詩人なんですよね? 文若さんから聞きました」
「ああ…うん、そうだね」
有名かどうかはともかく、詩は好きだ。よく作る。
「孟徳さんの詩を、見せて欲しいなと思って、文若さんと話していたんです。」
孟徳さんは、彼女にもわかりやすいように、怖い笑顔をつくった。
「なんでそれを俺に最初に言わないの?」
「ごめんなさい、いま思いついたので」
本当に申し訳なさそうに言われると、追求するのもためらわれて彼は息をついた。
「どうして?」
「この国の字を、ちゃんと覚えたいんです」
孟徳は瞬きした。
「…どうして」
花は顔を紅くし、俯いた。髪がさら、と動く。
「あの、笑わないでくださいね?」
「俺が君のことを笑ったことがあるかな?」
「ありません!」
きっぱりした返事をした瞳がとても真剣で、孟徳はひどく安堵したことに我ながら驚いた。
「…そうすれば、何より孟徳さんの書いたものを自由に読めるようになりますよね?」
孟徳は曖昧に頷いた。彼女の言葉の先は彼にはもう分かっていたが、心から聞きたかった。
彼女が目を上げる。孟徳と視線が合う。こんなたびごとに、新鮮な驚きが自分を襲う。
「孟徳さんがきれいだと思うものを知りたいです。」
孟徳は、口をあいて、また閉じた。無言のまま寝台に寄り、花を抱きしめる。文若が顔をそらすのが目に入ったが、かまわない。
きっと彼女は、(あなたのことを知りたい)というだろうと思っていた。それならいつも聞いていたから。そのたびごとに、内心では嗤っていた。誰が自分を知ると言っても、気にしなかった。分かったと言われるたびに、その女性を遠ざけた。
だが、花は違った。
きれいだと思うものを知りたいと言った。
自分は、まだそんなものをこの手につかめるだろうか。手から離していなかったろうか。今このとき、彼女以外にはきれいなものなんて思いつかないと言えば、この子はまた真っ赤になるだろう。
「…ねえどうしよう花ちゃん」
かろうじて彼女の傷を思い出し、ゆるく抱きしめて頬をすり寄せた。それでも恥ずかしがって身じろぎする彼女の背を、ゆるりと撫でる。
「ど、どうしようって、何ですか?」
慌てた声が、尻すぼみに消えた。
「俺ね、君が可愛くて可愛くて可愛くて仕方ないよ。」
「孟徳さん」
「君は俺の想像の上を行くなあ…いつも」
「そ、そんなことないです。わたし、いつだって孟徳さんにわたわたさせられている気がするし」
「俺なんて、たいしたことない」
本心から言って、孟徳は彼女を離した。寝台に腰掛けると、顔をそらしたままの文若を見る。
「雰囲気の読めない男は嫌われるよーぶ・ん・じゃ・く?」
「あ、あの、文若さん、ありがとうございました。…約束したこと、お願いします」
「ああ、分かっている。…丞相、失礼いたします」
「待った。約束ってなんだ?」
文若が口を開くより先に、花が慌てた様子で言った。
「地図をお願いしたんです。行ったことのある地名なら、文字も覚えられるし、国のことも分かりますから」
「…ねえ、花ちゃん」
孟徳はわざと顔を彼女に近づけた。落ち着いていた彼女の顔色が、また一気に紅くなる。
「なん、なんでしょう」
「気のせいかなあ。君は俺より、文若を信用してるように思うんだけど」
彼女が、不思議そうに首をかしげる。
「だって、文若さんはとても有能な官だって、孟徳さんが言ってましたよ?」
「うーん、そうじゃなくてさ。…ねえ、なんで俺に頼まないの?」
花が視線を泳がせ、文若を見る。孟徳の後ろで、文若がため息をついた。
「丞相に申し上げたほうがいい」
「でも…」
「お前なら、きちんと伝えられるだろう」
自分を置いてけぼりにしたやりとりに、孟徳の笑顔が固まる。だが、「失礼いたします」という声とともに文若が退室すると、花は覚悟を決めたように孟徳を見返した。
「わたし、ずっとここで寝ていますよね」
「まだ傷が癒えていないからね。」
「そうすると、色々な話が耳に入るんです。」
「そうなの?」
「はい。…わたし、毒を飲みましたし、傷を負いました。…あの、お医者さんは処罰されたと聞きました。」
「うん、そうだね。」
「わたしは…わたしは、孟徳さんの気に入りだから処罰されないのだと、言っている声が多いのだそうです」
一気に言って、彼女は顔を歪めた。
「きょ、共犯、だから、と」
「花ちゃん、花ちゃん」
「わたしのせいで、孟徳さんが、悪く、言われるのは、嫌です」
泣きそうに顔を歪めながら孟徳から目をそらさない彼女の手を、孟徳はきつく握りしめた。
「もう少しだよ。」
「…なにを、ですか?」
「君が俺の奥さんになってくれたら、そんな噂は止むから。」
少女の顔が一気に真っ赤になるのを、孟徳は面白く、しかし喜びを持って眺めた。
「おおおお奥さんって」
「あっれー、まだ冗談だと思ってた? 」
こつん、と額をあわせる。
「俺は知っているよ。」
なにを、と声にならない声が耳元をかすめた。
「君が俺を大好きで居てくれること。大好きだから、身を挺して俺を助けてくれたこと。…俺も君を大好きなこと。ね、君も知ってるよね?」
はい、と、今度は少しはっきりした呟きが聞こえた。
「俺は、それをきちんと分かっているよ。それじゃいけないかい?」
「もう、とくさん」
「そういう真面目なところも、俺は好きだけど。ねえたまには、俺の声だけ耳に入れてよ。」
文若とか要らないからさ、と言うと、笑う気配がした。
「文若さんがかわいそうですよ」
孟徳はため息をこぼして、彼女の体に腕を回した。
「それよりもさ」
「え?」
「君が、教えてよ。君がきれいだと思ったものを。」
「…はい」
(それでまた詩にしよう)
嬉しそうな声に、孟徳は彼女の髪に頬ずりした。
(2010.4.10)
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