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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 孟徳さんと花ちゃんです。
 
 今週は更新これだけかも知れませぬ、申し訳ありません!
 
 


 
 
 
 孟徳は寝台に横になっていた。花が畏まった顔でその横に座っている。彼女が書いた簡が敷布の上にざらりと広がっていた。
 夜は更けた。だが孟徳は、よほど遅くならない限りは、どんなに短い時間でも花と話すことにしていた。それで昼間の出来事が遠のく。彼女と話したり接したりしていると頭痛が和らぐことを、花は孟徳の世辞だとまだ思っている節もあるが本当のことだった。寝室をともにするようになってからは背を撫でてくれたり、肩を揉んでくれたりするので、それも嬉しい。
 簡に書かれた字を、孟徳は指でなぞった。最初はおぼつかなかった手蹟もずいぶんしっかりして、孟徳の詩が丁寧に書かれていた。彼女の手に為ると自分の詩もずいぶん柔らかく思える。
 「…どう、でしょう」
 孟徳がさんざんねだってしぶしぶ見せているから、花はことさら心配そうだ。孟徳は笑って妻の頬を撫でた。
 「上達したね、花ちゃん」
 「良かった! 文若さんも褒めてくれたんですよ」
 「文若?」
 あ、と花は首を竦めた。孟徳は大げさにため息をついた。
 「俺より先に文若に見せたんだ…」
 「ちらっとだけです」
 「でも先に見たんでしょ。」
 花は頬を膨らませた。
 「孟徳さんはいつもわたしを褒めるばっかりなんですもん」
 「ふうん、花ちゃんは文若のほうを信用するの?」
 「そういう聞き方は意地悪ですっ」
 「俺は花ちゃんの何でも独占したいの。花ちゃんも知ってるでしょ」
 花は今度こそ言葉に詰まって、あわあわと唇を動かしていたが、じきにしゅんとうなだれた。孟徳は短い息を吐いてその手に髪を置いた。
 「今度、花ちゃんに恋の詩を送るよ。それを書いてくれる?」
 花は顔を上げ、微笑んだ。孟徳は、月と酒を歌った詩を取り上げた。
 「これ、貰ってもいい?」
 「…まさか、また執務室に飾るとか言わないですよね?」
 孟徳の名を初めて簡に書いた時、彼が有頂天で執務室に飾ると言い出した時、彼女は涙ながらに止めた。そのことを思い出したのだろう、彼女がしかめ面になる。
 「しないよ。勿体ないから見せない」
 「それならいいですけど…」
 また文若さんに叱られちゃう、と花は呟く。孟徳は身を起こした。
 「また、って、何を叱られたの?」
 「文若さんはわたしの先生ですから、叱るのは当たり前です」
 妬心に先手を打つような言い方に、孟徳はため息をついた。
 「俺も丞相じゃなくて、君の先生になりたい。そうしたらずっと一緒にいるのに」
 「もうずっと一緒ですよ」
 花が苦笑して孟徳の手を取った。孟徳は唇を尖らせた。
 「でももっと一緒に居たい。」
 「文若さんも、あと少しでいちいち点検しなくても良いだろう、って言ってくれてますし。そうしたらもう少し長い時間そばに居て孟徳さんが出す命令を口述筆記したりできますね。」
 「そうしたら花ちゃんの膝枕でしようかなー」
 「書きにくいから駄目です!」
 「真面目なんだから。花ちゃんは頑張りすぎなの。俺を甘やかしてくれるだけでいいのに」
 「またそんなこと」
 花がふくれる。
 自分のためだけに笑っていてくれればいいと、孟徳は今でも思う。ただそれでは花のこころがおさまらなかった。孟徳の身の回りの世話、というのは彼の苦し紛れの案だったが、花は意外にも、きちんとこなそうとしている。「愛される」のは彼女の仕事ではなかったということだ。孟徳を目指す女たちはみな愛されることを目的としたというのに、それは花の意識せぬ最大の能力であり、欠けない力であるということは、孟徳にとって未だに驚きだ。
 今だって彼は、年の離れた妻を日がないちにち、抱きしめていたい。そのためにただ柔らかく在って欲しいという素振りをわずかでも見せると、まだ分かっていない、と花に拗ねられる。ただその表情もいいと思う自分は、いつまでも怒られ続けるだろう。
 「孟徳さんが少しでも楽になるように頑張ってますから。やっと孟徳さんのためのお仕事が分かってきて嬉しいんです。それを楽しみに帰ってきてくださいね」
 「分かったよ、奥方さま」
 孟徳は花の笑顔に両手を上げてみせた。彼女が簡を束ねて脇にどけ、孟徳に抱きつく。
 「じゃあこれでお仕事の話はおしまいですね? 今は孟徳さんの奥さんでいいですよね」
 「いつだって君は俺の奥方さまだよ」
 額に口づけると、花はくすぐったそうに笑った。
 美しく羽ばたこうとするのも、甘くさえずろうとするのも自分のために。
 それが確認できるなら、これからも何だって許してしまうだろうなと思いながら、彼は花のうなじに口づけた。
 
 
  
(2010.12.7)

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