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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 孟徳さんと、花ちゃんです。
 
 
 


 
 
 
 孟徳は窓辺にもたれて外を見ていた。
 少しやわらかな色合いの白い石を壁に使った中庭はとりわけ日差しが明るく見える。その中庭に、花と、彼女に近い侍女たちがいるのだ。ようやく春の欠片がやってきた日差しのなか、密やかなしかし華やかな笑い声と話し声が泡のように上がってくる。
 「…孟徳」
 聞き飽きた声が背後から唸った。孟徳は笑みを崩すことなく口を開いた。
 「見ろよ元譲。花ちゃんにあの白と緑の衣の映えること。侍女たちも揃いにして正解だったな。かわいい鳥の群れみたいで和むなあ」
 返事のかわりにため息が聞こえた。
 美しく笑い、いい声で歌う鳥なら、これまでもたくさん掴まえた。しかしそれらはすぐに歌わなくなってしまった。花が教えてくれた、「きかいじかけ」の鳥のように決まった言葉と顔を作るだけ。
 花は違う。いつも、いまになっても孟徳に全力で笑い、怒り、甘える。
 孟徳は短い息をついた。
 「どうして花ちゃんは俺の奥さんになってもああ簡単に庭に出るのかなあ。困るよなあ」
 「そのために今回、お前は侍女の衣を揃いにしたんだろうが」
 孟徳は頬杖をついていた腕を組み替えた。
 「ああ。花ちゃんと間違えて誰か殺されれば、この戯れは俺の勝ちってとこだ。」
 元譲が息を殺した。
 「いちどきりしか使えぬ手だ」
 「いちどで十分だ。どうせあとからあとから湧いてくる。俺の根気を試しているのかな、なあ元譲?」
 「彼女に関する限り、お前の根気など無かろう」
 「まあな」
 花が孟徳に気づき、嬉しそうに笑って手を振る。それに手を振り返している自分の顔はどれだけ緩んでいるかと思うが、気にしない。
 「お前の思いつきは、また毒が仕掛けられたからだな」
 「そうだ」
 芽吹き始めた柳を手に取り、女たちが春を言祝いでいる。と、花が何か見付けたような笑顔で窓の下に駆け寄ってきた。
 「あっちの木にちいさな花がたくさん咲いてます」
 孟徳に中庭の隅を示す。そう、と孟徳は笑顔で頷いた。後ろで元譲がひっそりと首を振った。
 「これでお前の遊びは終わりだ」
 「小鳥ちゃんたちを見られたってだけでいいじゃないか」
 軽い調子の声は、それでも底冷えがする。
 「いい匂いですよ~」
 花の声は陽の光のように弾ける。孟徳は首を傾げた。
 「じゃあ、そこに行くよ」
 「はい!」
 花が子犬のように何度も頷く。孟徳は窓から見えない場所まで来て、元譲を見やった。
 「俺が花ちゃんと遊んでいる間に片付けろ」
 片目の男は黙然とため息をついてみせた。念を押すでもなくかたわらを通り過ぎ、石壁の間にある隠し通路を抜けていく。狭くて、あかりと言えば積んだ石のところどころにわざと開けた僅かな隙間から漏れる陽の光だけ。そこから出ると、明るさに目が眩んだ。それはそのまま、いまの自分だ。
 何度抱きしめても口づけても、花の存在を水中から眺めているような気がしてしまう。水から出たら、一瞬たりとも呼吸ができなくなるような生き物になったような気がする。
 その時、彼に何かが降り注いだ。息を止めた孟徳の前に、花が両手を差し出していた。
 「春ですよ」
 嬉しそうに笑い、まるで彼女の爪のようなうす紅の花弁を、花はもういちど手を上げて宙に散らした。彼女の手から零れた「春」が、孟徳の髪に肩に、降りかかる。孟徳は淡く笑って、彼女の躰を引き寄せた。
 「甘い匂いがするね?」
 囁けば、途端に花は顔を紅くし口元を押さえた。
 「さ、さっき、お菓子を食べました…」
 変わらない幼い言いように、孟徳は顔を綻ばせた。
 (ひかりのにおいがするんだ)
 むかし聞いたおとぎ話のように、自分は水中でしか暮らせないと戯れに言ったなら。彼女はその柔らかい手のひらに水を汲んで、この唇に運んでくれるだろうか。
 孟徳は花の髪についた花弁を、彼女から見えないように捨てた。
 君に降るものは俺の声だけでいい。君がまるで容易く運んできてくれる光が俺を暖めるように。
 甘い息をねだりながら、うっとりと孟徳は目を閉じた。
 
 
 
(2011.4.5)

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