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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 「玄徳さんちの花ちゃん」「孟徳さんちの花ちゃん」「文若さんちの花ちゃん」「公瑾さんちの花ちゃん」「仲謀さんちの花ちゃん」が集まっておしゃべりしている、コネタです。
 
 

 
 
文若さんち。
 
 
 文若は僅かにため息をついた。あのにやけた「孟徳」に力押しはかなうまい。踏み出すと、いちばん殺気をもって笑う公瑾の腕に袖を重ねる。彼の目がちらりと流れた。
 「お待ちください。」
 仲謀が吐き捨てるように言った。
 「これが待てるか!」
 文若は仲謀に深々と礼をした。彼が若干ひるんだように見えた。それは「公瑾」の眼差しにも理由があったろう。彼は自分を止めた文若に、殺気を向けていた。
 文若は声を張った。すだれの向こうには確かにざわめきがある。…愛しい妻が、いる。
 「花。…花! 聞こえているのだろう、返事をしなさい。」
 「孟徳」が、確実に悪役の顔でせせら笑った。
 「声を出さないように言ってあるもんねー!」
 睨み付けたい衝動を堪える。ここで我慢を切らしては、愚かな遊技に参加させられるばかりだ。
 「花、わたしはこれまで、お前を妻として慈しんできたつもりだ。お前もわたしを慕ってくれていたと自惚れている。そのお前が、このような戯言にうかうかと乗ってしまったことは信じられぬ。おおかた、丞相に惑わされたのであろうが、このようなことをしてわたしを試さねばならぬほどわたしは不誠実を働いただろうか。…花、答えてほしい」
 言い終わるより僅かに早く、激しい音を立ててすだれが押しのけられた。黒い衣を着た花が飛び出してくる。「孟徳」が口を開いた。
 「あっ、花ちゃん!」
 娘はまっすぐ駆けてきて文若に抱きついた。しがみついてくる力が揺れる。柔らかい髪に挿した簪の花は白く、文若は口元を歪めそれを抜き取って床に投げつけた。
 「よく戻ってくれた、花」
 「文若さんが不誠実なんてことは絶対にないです! あの、ただの遊びだって…つい」
 弱々しく声を揺らした妻を、ことさらいかめしく見据える。彼女には見慣れた、仕事の顔で。
 「気心の知れた友との遊びだ、そうだな?」
 花が少し息を呑み、そうして笑った。
 「はい!」
 泣き笑いを浮かべる妻の頬を、文若はそっと包んだ。
 
 
公瑾さんち。
 
 
 公瑾は文若とその妻の様子を横目で見、弓を下ろした。「孟徳」は眉間に皺を寄せているが、もう一角は崩れた。遠慮する必要はない。
 「花、わたしの花。怒りませんから出ていらっしゃい。」
 声を張ったが、すぐ返事はなかった。
 「…花」
 重ねて呼ぶと、自分でも意外なほど、声が揺れた。
 「嘘です! もう怒ってます!」
 可愛い妻が、怯えたように叫び返してきた。公瑾は太い息をついた。文若の「花」は素直に駆けてきたというのに、なぜ一手間掛けさせる。
 「失礼ですね、わたしのどこを見てそういうのです」
 「唇の角度です!」
 言い切られ、公瑾はむっと黙った。
 怒っているのは当たり前だ。「孟徳」には、呉に来る前も捕虜となっていたというのに、どの「花」も彼への対応が甘い。
 「ごめんなさい。」
 ようやく漏れ聞こえた細い声に、公瑾は眉をしかめた。
 「そういう言葉は顔を見せて言ってほしいものですね」
 「おんなじ格好するのが楽しくて…ほんとうに、ごめんなさい」
 よろよろと言い訳が壁の向こうから零れてくる。
 そんなことが聞きたいのではない。妻が「花」たちと居る時間を大切に思っているのは知っている。だから譲歩する努力をして、毎回連れてきているのだ。
 花、花。言い訳などいらない。あなたが見たい。抱きしめたい。
 「いいから、出ていらっしゃい。」
 「本当に怒ってませんか?」
 公瑾は拳を握って笑みを浮かべた。
 「そうですねえ、あと五つ数えるあいだにあなたがわたしに抱きついて口づけて愛していると言ってくださらなければ一ヶ月外出禁止としたうえで、怒るかもしれませんね」
 途端に、乱暴に掴まれたすだれが落ちた。それを踏みしめ、彼女が慌てて走ってくる。
 「公瑾さん、公瑾さん公瑾さん!」
 連呼しながら駆けてくる娘を抱きしめ、何という趣味の悪い黒をわたしの妻によくも着せたものだ、と彼は「孟徳」を睨み付けた。
 
 
玄徳さんち。
 
 
 全身で安堵の息をつき、まろやかな躰を抱きしめる。
 「ああ、本当に花だな。」
 黒を着た彼女は見たことがない。しかし、その生地は無駄に艶やかで彼女のかよわさや肌の白さを際だたせている。黒が威厳や剛毅といった強ばった印象でないものをもたらすなど、今の今まで彼は考えもしなかった。
 妻は小さく頷いてすぐ、玄徳の胸に顔を伏せた。
 「はい、玄徳さん」
 彼は息を整えた。
 「もう二度と連れてこないぞ」
 それはかなり本気だ。
 部下を危険な目に遭わせてやっと連れ帰り、かろうじてつないだ糸によって妻となった娘の無邪気さは、愛してあまりある。しかし容易くつけ込む輩がいることも確かだ。妻はしおしおと頷いた。 
 「はい…」
 「その衣はやつの見立てだろう。早く脱いでしまえ」
 手荒に襟元をくつろげると、花は悲鳴を上げて身をよじった。
 「玄徳さん、こ、ここ外です!」
 「ならば帰ろう」
 焚きしめた香は誰のものだ。子を成してからより甘さを増したその肌に、他の男の見立てなど許してなるものか。
 玄徳は細い体を抱き上げて大股に歩き出した。玄徳さん、と叫びながら背を叩く手は、じきに大人しくなった。
 
 
仲謀さんち。
 
 
 仲謀はすだれを払いのけた。大きな目が彼を見、すぐ逸らされた。
 「なにやってんだ」
 「…ごめんなさい」
 花は深々と頭を下げた。
 「遊び、のつもりだったの。」
 「遊びでかっ攫われてたまるか」
 「ほんとだね。ごめん」
 白い項を、痛々しいと思った。
 「言っておくが、今回のことを大小に教えんじゃねえぞ。」
 花が、ぱっと顔を上げた。
 「言わないよ!」
 「自慢でも、だぞ」
 途端に花は口元を小さく尖らせた。
 「…自慢でも?」
 仲謀は彼女の頭をかるくこづいた。いたい、とわざとらしく睨んでくる彼女を見据える。
 「当たり前だ。あいつらのことだからな、お前と背格好の似たのを見付けてきておんなじことをやらかすだろ。こんなのは、二度とごめんだ」
 そうだ絶対にあいつらはやる、と仲謀は妙な確信を持って頷いた。
 「うん…ごめん」
 「もういい。帰るぞ」
 手を掴むと、ゆっくりと握り返される。
 「怒ってない?」
 「…怒ってる」
 「何をしたらいい?」
 「何もするな。…お前の詫びは、過剰だからな」
 「何を思いだしてるのよ、仲謀」
 すかさず言った妻に、仲謀は遠い目をした。仲直りをするたびに儀式のごとく繰り返されるあれやこれやの甘い出来事が頭の中を過ぎるので、大人しく並んで歩いてなどいられなくなる。
 「何でもねえ」
 「仲謀のすけべ」
 「…それ以上言うと、手ぇ放すぞ」
 声を低くすると、指がしっかりと絡められた。
 
 
孟徳さんち。
 
 
 孟徳は上目遣いで妻を見た。
 腰に手を当ててこちらを睨んでいる妻の姿は、ずいぶん可愛らしい。
 「孟徳さん。どうしてわたしが怒ってるのか、分かってますよね」
 「俺だって怒ってるんだけどな?」
 「ホワイトディの件なら、もう謝りました。許せないのは、わたしたちを同じ格好にさせたことの理由です!」
 口を尖らす花に、孟徳は明後日のほうを見た。
 「…遊びだもん」
 「戦が起こる理由が遊びだなんて、最も愚かです! わたしの孟徳さんはそんなことしません。もう当分、この場は設けません」
 孟徳は慌てた。ひと枝に咲く花弁がすべて異なるように、同じ「花」でもその愛らしさは様々だ。できることならそれぞれに似合う離宮を建てて己の場に留めておきたいと思う。
 「それはないよぉ、花ちゃん」
 「何が、それはないよ、ですか。」
 花の顔がくしゃりと歪んだ。
 「確かにわたしは荀花ちゃんみたいに落ち着いてないし、劉花ちゃんみたいに胸は柔らかくないし、周花ちゃんみたいに色気もないし、孫花ちゃんみたいに若くもありません。」
 「いや、みんな年齢は同じでしょ?」
 余計なことを呟いた孟徳を妻はまた睨み、小さく地団駄を踏んだ。
 「でも、孟徳さんが好きなのは誰にも負けません!」
 子どものように叫んでこちらを見据える妻に、孟徳は少しの間を置いて笑み崩れた。近づいてその小さな体を腕の中に収める。膨れながらも、花は大人しくしている。
 「みんな、すぐに帰ると知ってたよ。」
 「…わたし、あのひとたちが孟徳さんに剣を弓を向けたのを見て心臓が止まりそうになったんですからね」
 「しゃくだけど、若さは買えないね。」
 「孟徳さんはじゅうぶん格好いいです」
 「やっぱり俺の花ちゃんに言われるのがいちばんいいな」
 「…それ以外がいい、とか言ったら、こうです」
 ぱく、と温かい唇が首に噛みついた。孟徳は苦笑して腕に力を込めた。
 
 
(2011.4.1)

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