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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆

 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花文若』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 『花文若』は、最初に落ちた場所が文若さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。

 花文若さんと孟徳さん。
 
 




 部屋の中から、衣擦れの音がゆっくりと近づいてきた。それは扉のすぐむこうで止まった。
 「お見舞いをちょうだいしまして、ありがとうございます。」
 いつも低くてきっぱりしている声は、ふわふわと掠れている。年相応のむすめの声だ。本当に熱があるのだなと孟徳は思った。扉に額を押しつけると、古い木の匂いがした。
 「加減はどうだ?」
 「風邪でしょう。数日後には職務に戻れることと思います。侍女に言づてましたとおり、御身に風邪をうつすことが恐ろしゅうございますので、このままお目にかからぬこと、お許しください」
 「早く戻れ。お前がいないと逃げ出す張り合いがない」
 扉の向こうの彼女は、小さく咳き込んだ。
 「では、これで」
 …軽口につきあってもくれない。
 分かっている、衣をやつしていても己の身分を知る侍女に、一言ふた言でもじかに言葉を交わさないと帰らないと言い張ったのは自分だ。無表情ながら困り果てた侍女を押し返すのも面倒になったのだろう。こんなふうに居室の外で待たされることになったのはこの身分に対してあり得ない扱いだが、忍んできたいまの自分では文句も言えぬ。
 まったく、自分のすることではない。
 もし気に入りの女が病に倒れたと聞いたなら、瑞々しい花と美しいがゆえにすぐ枯れる言葉を綴った簡を贈るだろう。実際、妻たちにはそうしている。
 かるく扉に手を這わせる。そろそろ傾いてきた日差しが指先の影を長く伸ばす。
 「なあ文若」
 「なんですか」
 「見舞いの花を持ってきた。俺が摘んだ。お前の手にこれを渡せたなら、今度こそ俺はおとなしく帰る」
 扉の向こうで、すっと呼吸が静まった気配がした。
 「そんな要求ができる余地があなたにあるとお思いですか。わたしの侍女たちをさんざん困らせおいて。」
 「だってお前に会いたかったし」
 「なんのために休んでいると思うのです」
 「そうだったな。だから、早く」
 「…あなたは本当に機を逃さない」
 背が震えるような声を、こんな時ばかり無防備に口にするのだなと孟徳は微笑した。
 腕のなかで溶けているときより可愛い。なぜお前はそんなに姿を変えるのだろう。知り尽くすことは不可能なのに、あえてそれをしてみたくなるのはなぜだ。
 なんて甘い逢瀬だ。ただの男と女の逢瀬。もちろん、肌を合わせればそこにはそれしかないのだけれど、抱いている間だってお前と俺はただの仲になれない。お前が文若でなかったら俺はお前を見いだすことはあり得なかった。だから矛盾している。
 「そこに置いてください」
 「文若」
 「花はそこに置いて下さい。そして立ち去って下さい。それを踏みにじるところをあなたに見られたくありません。その時わたしがどんな顔をしているかなんて、あなたに知られたくありませんから」
 孟徳は目を細めた。
 彼女がどんな顔で言っているか、孟徳には見える気がした。天候や兵糧の話をするときと同じ静けさで立っているのだろう。その頬だけがふわと緩むのだ。いつも見ている者でないと分からぬ微かさで、しかし確かに火がきらめくような笑みを浮かべているに違いない。
 お前がそんなことをするはずがない。お前は生へ向かう者だ。俺とてそのはずだが、どうも滅のほうが強く喧伝されてしまった。そんな分かりやすいことを言うなんて、お前は本当に具合が悪いのだろうか。それともそれにかこつけて甘えているのか。
 彼は足下に花を置いた。よれた白い花弁は風にもなびかず床に這っている。
 「待っているぞ」
 衣擦れが聞こえた。
 あるいはもう彼女は居なくて、衣だけが風に靡いているのかもしれなかった。

 

(2013.6.4)

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