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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花文若』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花文若』は、最初に落ちた場所が文若さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
 
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
 
 

 
 
 
 暗闇の街路でひたひたと迫る。彼女の背を、自分はいつも見ているように思う。その足音に、文若が振り向いた。
 「どなたです」
 落ち着いた声だった。彼女の護衛についていた家人が腰の剣に手を掛けて身構え、もうひとりが高く灯りをかかげた。
 小さな光輪の中に歩み出ると、彼女はあからさまに呆れた顔をし、肩を落とした。家人を振り返る。
 「知人です。お下がり」
 落ち着いた声音に、怪訝な顔をしながらも家人が一歩下がる。孟徳はにやりと笑った。
 「いい護衛だ」
 その声に、家人がはっと背を伸ばした。彼女近くに控える者であるから、その声で分かったらしい。
 「このような時刻にどうなさいました」
 彼女の声に、孟徳は笑った。
 「部下の見舞いに行く立派な上司だ」
 「ご自分でおっしゃいますこと」
 孟徳はゆるりと歩き出した彼女に並んだ。家人がまた静かに付き添う。
 家並みが途切れるごとにうすい月光が二人の影を作る。足音は並ぶようでいて少しづつずれ、また重なる。
 「…奉孝はずいぶん悪いらしいな」
 「ええ」
 声は低かった。
 「それでも南征の策を練っております。南征に出るのはわたしだと言い張っています。」
 「お前を相変わらず口説くんだろう」
 「ええ。」
 「優しくしてやるんだろう」
 孟徳は女の横顔を見つめた。灯りにちらちらと陰る顔は表情が分からない。
 「お前とともに、俺の両輪とまで言われた男だからな。」
 「丞相のきれいな方のように上手に申し上げられれば、あのひとに心残りがないようにしてさしあげられるかもしれませんけれど…あのひとには無礼なことでしょう」
 優しいことを言う、と孟徳は思った。ならば、自分が死ぬとなれば彼女は優しくしてくれるのか。
 そう思った彼を見透かしたように文若は立ち止まり、孟徳を見上げた。灯火のせいで、瞳はいつになく昏く見える。
 文若はふいと何か言いさし、それから僅かに首を振ってその柔らかそうな唇を開いた。
 「ただ寂しいのです、会えなくなることが。丞相はそう思ったことはありませんか」
 子どものようなことをと見た表情は、意外なほど真摯だった。自分の覇道に欠かすことのできない女が、同僚の死ひとつでこれほどこころ弱るものか。他の男でこれを見たことがあるか? 思わず目を眇めた孟徳に、文若はふわと視線を揺らした。
 「庭に、奉孝さんがくれた桂花の木があるのです。結局、新しい花を一緒に見ることはできませんでした」
 奉孝、奉孝、と孟徳は苦く呼んだ。
 なぜ、桂花など贈る。彼女が好きだと、大切な花だといつも言うからか。惚れた女が大事ならば、新しい木を贈るべきだ。自分なら、それこそ彼女のように瑞々しく香る南国の花を贈る。その花が咲く間だけでも抱き合うことができるなら、冬に枯れてしまってもその花は彼女の心に新しい色を与えるだろう。彼女が着る黒橡の衣に一点、染みのように鮮やかに残してやろう。
 雲は早足で月を横切る。靡く彼女の衣を掴み、あの雲に乗り彼女の髪に飾るためだけの花を摘みに行ってしまいたいと孟徳は思った。
 
 
 
(2010.12.20編集)

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