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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花公瑾』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花公瑾』は、最初に落ちた場所が公瑾さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
 三回目るーぷくらいかな…と。


 
 
 
 大きな栗色の眼を細め、嬉しそうに公瑾は遠くを見ている。
 「よいところですね」
 「思ったより近かったろう?」
 「ええ」
 こちらに向ける表情が子どものように明るく、伯符は笑い返した。幼馴染の白い頬に夏近い日差しが滑っている。
 「海がこんなに近かったなんて」
 彼女は波打ち際に近づいては裳裾をたくし上げ、戯れてくる波の感触に笑みを零している。波が寄せてくると歓声を上げてよけるさまが幼子のようだ。髪飾りも引き抜いてしまうと、薄茶の髪が潮風になびいた。笑顔のまま彼女は振り向いた。
 「伯符、まだ水が冷たいです」
 「ほどほどにしておけよ」
 まるで、兄と妹のやりとりだと彼は思った。
 潮風はやや強く、彼の外套をはためかせる。遠くで、白い帆のようなものがちかりと光ったのが見えた。
 「伯符、伯符、あれは船でしょうか?」
 「ああ、そうだろうな」
 「呉に外洋の船はないですね?」
 「ああ。商船は来るがな。海はまだうちの戦場じゃない」
 「そうですね…魏もこちらからは来ませんし」
 難しい顔になった友人の肩を伯符は叩いた。
 「おい、俺たちはつとめで来たんじゃないぞ。」
 「…ああ」
 彼女はくすりと笑った。
 「わたくしの気鬱を宥めてくださるのでしたね。」
 「そうだとも。」
 「お許しください。何を見てもあなたの道を願ってしまうのは仕方がないのです」
 風にあおられ流れてきた女の髪の一筋を、手に取る。
 「お前の気鬱が俺の未熟なら、なおさら俺はお前を愉しませないといけないな」
 「まあ、そのようなことは」
 「いいから、言ってみろよ。お前は俺にいくさの我が儘は言うが、女の我が儘は言ったことがない。髪飾りも帯も突っ返す癖に、船は受け取るんだからなあ」
 うふふ、と公瑾が笑った。
 「伯符が思案して考え抜いたものが欲しいのですもの。帯や髪飾りは、あなたがあつらえたものではありませんけれど、船はあなたの思案の結果でしょう?」
 「贅沢な女だ」
 「だってわたくしは周の娘です」
 伯符の后がねと言われながら、戦以外では役に立とうとしない娘が誇らかに笑う。その手を伯符は握った。
 「俺は、戦のお前も褥のお前も両方欲しい」
 彼女の顔から表情が消えた。俯いてしまった娘の肩を引き寄せる。
 「どなたの入れ知恵ですか」
 怯えたような声が耳元で聞こえた。伯符は手に力を込めた。
 「好きな女を口説くのに、誰の知恵も借りるかよ」
 「わたしは、戦でお役に立つのが果報。伯符のお子を産むのにふさわしい方なら他に」
 「お前だけだ」
 断ち切るように伯符は言った。女の背が大きく喘ぎ、裳裾が強くはためいた。
 「子どもなんて関係ねえ。俺が欲しいだけだ。それじゃ駄目か」
 女の髪が、伯符の頬を強くなぶる。
 「…ご命令、とは仰らないのですね」
 「そんな真似は死んでもごめんだ。」
 「そうですね…わたくし、死ぬかもしれません」
 はぐらかそうとするような明るい調子に、伯符は唇を噛んだ。
 「俺は、お前がどこを見ているのか分からない時がある」
 「伯符」
 「お前の忠義を疑う余地はない。けれどお前の琵琶は俺を呼ばない。俺はそれが嫌になった」
 女の躰が大きく震えた。
 「朧夜の恋を嘆くばかりだ。…知っているか? お前は月と言われているんだぜ、誰にも靡かない公瑾」
 「臣として名誉と、思っては下さらないの?」
 途方にくれたような震える声だった。
 「思うものか。俺のためでなく死ぬ女に…公瑾」
 女が小刻みに首を振る。だめ、やめてと泣き声のように震える。
 「わたしは誰に靡くわけにもいかないのです」
 「何がお前に禁じるんだ」
 涙を零す女の頬に唇を寄せる。海のように塩辛い。彼女の中も荒れ狂うといい。
 ごめんなさい、とひどく幼い声で娘は言った。
 元から、すべてをぶつけてくるような幼い感情の持ち主ではない。だからこそ軍師もつとまる。
 伯符にとらわれてやまないとその瞳は訴えるのに、なぜ拒絶する。
 しかしだからこそ見たい。自分だけのものにしたくなる。
 「俺はここにいる」
 わかっています、と小声で彼女は言った。
 「伯符。わたしの琵琶だけは、どうか許してください。それ以外ならば、あなたに、すべて」
 ほんとうに、お前は、嘘をつかない。伯符は淡く、苦笑した。
 噛みつくように口づけると、幼なじみは初めて知る女の顔で目を閉じた。
 
 
 
(2011.1.28)

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