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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 いまの土地に移ってからこんなに寒いのは珍しいです。新しいニット帽、買っておいてよかった~。
 みなさまも新型インフルなどお気を付けて。
 
  
 今日は、孟徳さんと花ちゃんです。
 拍手お返事、たくさんありがとうございます。ちびっこ都督にたくさん嬉しいです。お返事はまた改めまして!
 
 
 

 
 うつらうつらしていた花の耳に、忍ばせた足音が聞こえた。花は目をこすって起き上がった。
 「もうとくさん」
 半月を背負って立つ彼は、困ったように笑った。夜目にも白い顔が分かる。
 「ごめんね、遅くなっちゃった」
 「いいえ、ありがとうございます」
 花は立ち上がって頭を下げた。孟徳は花が座っていた長椅子に、身を投げ出すように座った。隣に腰を下ろそうとする花を無理矢理に膝に乗せる。
 「ほんとごめん、遅くなっちゃって」
 耳元で囁かれて熱くなる頬をもてあましながら、花は静まり返った回廊をちらと見た。暗いけれどもそこには元譲が手配した護衛の兵たちがたくさんいるはずだった。
 こんな風に孟徳と二人きりで会うのは何日ぶりだろう、と花は思った。
 孟徳は花に贅沢をさせたがる。それは彼の身分にふさわしいものかもしれないが、花には戸惑うことばかりだ。豪奢な衣や髪飾りを辞退し続けていたら、ついに彼がへそを曲げてしまった。東屋に立てこもるという分かりやすい拗ね方をする孟徳に、「好きな子に特別なことがしてあげたいんだよ」とすがりつかんばかりに言われ、花は半日、考えた。孟徳の後ろで無表情にこちらを見ている文若の目力に負けたせいもある。
 花は孟徳に簡を書いた。この東屋でこの時間に待っていますから来て下さい、と、文若に文面を習った。文若は、子どもが書いたような必死さだとちらりと笑い、それでも孟徳に届けると言ってくれた。
 そうして侍女に、月光や灯火に映える衣を着たいというと、侍女は孟徳の贈り物のなかからたちどころに花の望みにふさわしいものを見繕ってきた。侍女は、お仕えする方が着飾るのはわたくしどもにも張りが出ますのよと、妙に迫力のある笑顔で言い、花を恐縮させた。事実、昼間は決して着られないような煌びやかな衣装は花をふわふわした気持ちにさせてくれたが、これに負けてはいけないと拳を握った。
 そうした花の努力を、孟徳は一瞥して理解したようだった。軽い口づけが頬に落とされる。
 「俺の贈ったもの、やっと着てくれたね。かわいい。すごくきれい。」
 「特別です」
 「ねえ、花ちゃん。これが花ちゃんの望む特別なこと?」
 「はい。だって、夜に外に出たい、って言ったら孟徳さんは反対しますよね?」
 「する」
 孟徳は真面目な顔で即答した。
 「君の躰を夜露にぬらすなんてとんでもない」
 「わたし、怪我はもうすっかりいいんですよ?」
 「万が一ってことがある」
 花はため息をついた。ここでいつもなら反論するのだが、いまはこらえる。言い合いをしたくて孟徳に簡を出した訳ではないのだ。孟徳は花の肩に顎を乗せた。
 「あの簡は意外だったなあ。文若に教えてもらったの?」
 「はい。孟徳さんに聞いたら、届いても驚かせられないでしょう?」
 「それだけが残念だなー。秘密の逢い引きって訳じゃない」
 「それだけじゃないです。こんな風に孟徳さんを呼び出したから、眠れないひとがたくさん居ますよね」
 「まあ、そうだね。夜はただでさえ危険が多い。まして、君が外に出るんだから護衛は増えるね」
 さも当然、という表情の孟徳をじっと見つめる。
 「だから、今夜だけ特別、です。」
 孟徳が深く息をついた。それがいらだちを含んでいないことに、花は安堵した。
 「特別ってのはいい響きだ。君の寝台に招待、じゃないのが残念だけど」
 「し、寝台」
 改めて言われると心臓が痛い。顔が紅くなる花を、孟徳が満足そうに見た。待つからね、と微笑ってくれる割には、こうしてせかすようなことも言う。そのたびに花はくるくる回る。いっそ自分から孟徳の寝所を訪れればすっきりするのだろうかとも思うが、そんなふんぎりはとてもじゃないがつかない。
 「孟徳さん、お茶を入れますから腕を放して貰えませんか」
 「それが君の考えた…えーと、『でーと』、だっけ、そういうもの?」
 「はい。月を見てお茶を飲んで…」
 花は首を傾げた。
 「孟徳さんにはお酒のほうがいいですか? それだと、あんまり特別な感じがしなくなっちゃいますね。月見の宴は孟徳さんはよく催すでしょう?」
 孟徳がくすくす笑った。
 「花ちゃんに酔うからお酒はいい。」
 「またそういうこと!」
 孟徳が明るい笑い声をあげ、花がひら、と振った袖から体を反らした。改めて抱きしめられ、花は彼の肩に頬を乗せた。
 「孟徳さん」
 「ん?」
 「いろいろわたしのために考えてくれる孟徳さんの気持ちは嬉しいです。でもわたしにとって孟徳さんがいてくれるだけで特別で、孟徳さんが好きって思うだけでとっても特別だから、それ以上は…その、あんまり無理しないでください」
 なんとか言葉を紡ぎ終わると、孟徳はしばらく無言でいた。花が不安になって顔を見ようとしたとき、彼の体から力がすっかり抜けて花の肩に額が押し付けられた。
 「花ちゃんはずるい」 
 「え?」
 「花ちゃんは俺を甘やかすのに、俺が花ちゃんを甘やかすのは許してくれない! 絶対にずるい。」
 「わたし、甘やかすなんて」
 「俺はね、花ちゃん。」
 きらきらした目を寄せられて呼吸が止まる。ちゅ、と唇にやわらかいものが触れた。
 「誰が相手でも負けるのはいやなんだ。」
 「ま、負けとか勝ちとか、ないと思います」
 「いーや、ある。」
 ふいとそっぽをむくと孟徳は両手で大きな円を描くように腕を回した。
 「俺はこれくらい花ちゃんを好きだ。だからいっぱいいろいろしてあげたい。絶対、俺のほうが花ちゃんを好きだ。」
 花は小首をかしげた。それから、孟徳に抱き付いた。
 彼は自分のことを細身だ痩せていると気にするけれど、自分にとっては何よりたくましくて頼りになってそしてこれからもっと深くまで知ることになるだろう、愛しい体温を心を込めて抱きしめる。
 「わたしは、これくらいです」
 囁くと、ゆっくりと彼の両腕が下がった。
 (孟徳さんに比べたら、何の力もない)
 好きだということしか差し出すことしかできない、その気持ちに嘘がないというだけの自分の存在の小ささに眩暈がする。だから孟徳が示してくれる、身分に伴う様々な煌びやかさがあまりに大きすぎて怖い。それに立ち向かうちからはまだ少ないけれど、その心の元がこの腕におさまるぬくもりにあることは忘れてはいけないと思う。
 「…花ちゃん」
 「はい」
 「花ちゃん、大好き」
 「わたしも大好きです」
 ありがとうと答える声が震えているように思ったけれど、花は何の言葉も重ねず目を閉じた。
 
 
 
 「なあ、元譲。花ちゃんってすごくかわいいよなあ。なんであの子は俺を好きになってくれたんだろう」
 「…」
 「俺が好きになっても、あの子が振り向かない可能性だってあったのに。今までの俺じゃ全然想定できないけど、あの子だからそんなこと考えるんだけど、でも、そういう可能性もあったわけだよな。権力とかまるで関係ない子だし」
 「…」
 「うわ、考えたくない! っていうか、ありえない! ぜったい、何としても俺を振り向かせてみせる! いまだって玄徳に出し抜かれたようなものだけど花ちゃんは俺に振り向いてくれたし! うん、ぜったいに振り向かせる!」
 「具体的にどうするのだ」
 「えー、愛のささやきとか贈り物とか夜の技術とか?」
 「贈り物は、花がいちばん辞退するものだ。あ、愛のささやきや夜の技術などは、言語道断だろう」
 「…」
 「なんだ」
 「元譲のくせにわかったようなこと言ってる…」
 「うるさい!」
 
 
 (2011.1.27)

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