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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 ちびっこ公瑾さん、な話です。
 
 
 (…なんか大人に戻るのが遅くなりそうな気配がする…ごめんなさい都督。汗) 
 
 


 
 
 花は窓にもたれて外を見ていた。
 空が暗い。公瑾ほどに天気が読めない自分でももうすぐ雨と分かる。水の匂いもしてきた。戸を下ろさないと雨が吹き込むだろうが、花はそのまま動かなかった。山から駆け下りてくる雲の動きを見るのは好きだった。公瑾にも呆れられながら見いったものだ。
 花は室内を見回した。「公瑾」はまだ着替えから戻っていない。小さい子というものがよく動き、よく汗をかくということを彼女は彼に接して初めて分かった。公瑾との子でも居たら知っていたけれど、と花は顔を紅くした。いまは侍女が軽い湯浴みをさせて着替えるために別室に連れて行っている。最初は花がやるつもりだったのだが、何故かずいぶん抵抗されてしまった。男の子ですわね、恥ずかしいのですわきっと、と微笑った侍女の言葉は大げさと思うけれど、夫も湯浴みを手伝うのを嫌がるから同じではないだろうか。
 ぱたぱたと足音が聞こえてきて、公瑾が回廊の角から花を見付けてふわっと笑った。大人の公瑾にはない柔らかい笑顔のまま、彼は花の膝にとびついた。花は微笑んだ。
 「さっぱりした?」
 公瑾がうなずく。彼女の膝によじのぼりたそうに裳をきつくつかんだので、花は彼を抱え上げてやった。膝の上におさまると花を見上げて公瑾は安心したように笑った。花は窓の外を指し示した。
 「雨が来るみたい」
 「あめ」
 「うん。ずいぶん風が唸っているし、嵐になるかもしれないね」
 公瑾は目を細めて山を見た。花の襟元を握る手に力がこもった。
 「どうしたの?」
 「…かみなり」
 花は瞬きして彼の小さな頭を抱えた。
 「雷はきらい?」
 かすかに、ほんとうにかすかに首が縦に振られ、非常に不本意そうに公瑾は唇を曲げた。
 「…うるさいから」
 言い訳であろうそれを、花は笑って聞き流した。
 「そうだね、ここの雷は大きい音がするもんね。」
 「あなたはへいきですか」
 花は小首をかしげた。
 「ちょっと苦手かな。」
 公瑾が少しばかり満足そうな表情になった。それに笑うと、なにがおかしいのですかと言われる。花がなんでもないと言おうとした矢先、かっとあたりが白くなった。すぐ、大きな音がする。
 「ずいぶん近いね」
 ささやいて彼の顔をうかがうと、目を真ん丸にして固まっている。花は公瑾の体を抱えて窓から離れた。やってきた侍女に戸を下げるように言うと、部屋は瞬く間に暗くなった。彼女は寝間に入り、彼を抱いて掛け布をともにかぶった。
 「…おひるねはもうしました」
 続く雷鳴に花の衣の裾を離さず、びっちりと体を寄せてくるくせに、彼は呟いた。
 「そうだね、でも、雷が過ぎる間くらいはいいんじゃないかな。」
 こくん、と公瑾がうなずいた。
 戸の間から白い光が漏れてくる。そのたびに彼の背が強張った。
 「…雷はね、田んぼの稲を育てるっていうひとがいるよ」
 「どうしてですか」
 「雷の獣がおりてきて、何かしてくれるんだって。」
 「なにか?」
 「そう、なにか」
 問い返した彼があまりに不思議そうで、花は小さく声を上げて笑った。
 「なにをするのでしょう」
 「なにをするんだろうね。」
 「おとななのに知らないのですか」
 「知らないや。ごめんね」
 ふと、会話が途切れた。
 雷は少し逸れたようだ。音がわずかに遠くなった。
 「ほんとうは、はずかしいのです」
 小さな小さな声で彼が言う。花は顔を寄せた。耳に暖かな息が被った。
 「なあに?」
 「かみなりが、こわいのは、はずかしい」
 花はそうっと微笑んだ。夫が彼女にしてくれるように、その体を抱きかかえる。
 「わたしには、うんと抱きついていいよ。」
 「…笑いませんか」
 「笑わないし、怒らないよ。いつだって守ってあげる。」
 普段なら、なかなか言えない。公瑾のほうが地位も力も勝っている。けれどいつも、思っている。彼を守りたいと、ともに立ちたいと願っている。花は小さな「彼」を抱き直した。彼の背中から少し、力が抜けた。
 「わたしよりあなたのほうがたかいです」
 「そうだね。」
 「かみなりは高いものにおちるから…だめです」
 握られた手に、手を重ねる。
 「じゃあ雷のたびに、ふたりで一緒に隠れようね。」
 いっしょ、と彼はささやいて笑った。
 
 
 
(つづく。)
(2011.1.25)
 

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