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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
 
 
 (流れは、幻灯 8→11→13→16となります。なお、特に どろり としています。ご注意ください。)


 
 
 
 いつの間にか返答が聞こえなくなり、彼女は瞬きして傍らを見た。柔らかな寝具の山に突っ伏すようにして、文若は眠りに落ちていた。
 「…珍しいこと」
 傍らに落ちていた自分の衣を引っ張り上げ、彼に掛ける。若草色の衣を掛けられた彼は、静かな寝顔と相まって年相応に見えた。花は微笑して、解いた彼の髪にそっと触れた。
 「文若」
 彼の瞼はぴくりともしない。
 彼がここで眠り込むのは珍しい。
 最初に褥をともにした時は、花の躰にどう触れていいか迷っていた風だったのにと思うと、自嘲ともなんともつかない笑いが浮かぶ。女を知らない訳ではないけれど、あるじであり恋ではなかった躰を抱くことなど久しくなかったのだろう。しかしそれゆえに自分は彼の中に深く残った。
 無理もないと、花は眼を細めた。昼間はずいぶん神経を使う話し合いだったのだろう。孔明と公瑾、どちらも笑顔が上手な手合いだ。
 それに、公瑾に対して無駄な意識を持たせてしまったと、花は唇を歪めた。恋敵、ということになるだろうが、ずいぶんと不毛な恋敵だ。
 「駒」となってからはなおさら、変わらぬことなどないと思うようになった。輪のはじめは何も変わらぬと思っていたけれど、こうして文若が己の傍らで眠っている。これは己が望み、変わった「今」だ。
 公瑾は、自分に何を望んでいるだろう。何を思って褥に来ない。風評だけで実を望まぬ相手など、駒としても女としても暇つぶしにもならぬ。花はそっと寝台を出ようとした。
 手首を強く捕まれる。驚いて振り返ると、炯々とした目がこちらを見ていた。
 「起きて、いたの?」
 「…どちらへ」
 「どちら、というほどもないわ。」
 文若は腕を掴んだまま起き上がった。強く引かれ、その胸に倒れ込む。
 「痛い…どうしたの」
 「沓音が聞こえます」
 花は息を止めた。彼の心臓の音の合間に、忍んだ沓音が外を行く。彼女は微笑んだ。
 「また、彼かしら」
 「ええ。昼間、丞相のご機嫌はいかがかと問われました」
 花は微笑した。
 「都督は、自分で伺いに来てはくれないのね。まるで初めて恋をした高貴な娘のようだわ。」
 「…わたしは、都督殿が嫌いです」
 花は苦笑した。
 「文若ったら」
 「丞相のことを、色恋でしか見ない」
 彼の腕が強ばった。
 「…わたしは、ここでばかりあなたを待つ身ではありません。それでもここに足が向きます。あなたがこの白い布に埋もれている様を、昼間の幻に見る。不埒です。…未だ三国鼎立の話し合いはきちんと終わっておりません。彼は、おのれの国へ帰る気などないのではないかと思うほど悠然と構え、あなたの機嫌など聞いてくる。腹立たしくてならない。…いっそ、とさえ思います」
 花は文若の首に顔を埋めた。
 「都督を殺すの?」
 「あなたを言い訳になど、してやらぬ」
 花は口元だけで微笑み、目を閉じた。
 「このあいだ申し上げたことは嘘ではありません。」
 「…わたしと、あなたの子?」
 「はい。」
 彼の暖かい、たくましい腕が背に回る。
 「あなたはきっと大事にしてくれるわね。わたしの子にふさわしい教えをくれるでしょうね。」
 「わたしの思いにふさわしいすべてを捧げるだけです」
 こういうことを、愛されている、というのだろうか。花は唇を噛んだ。
 (孟徳さん)
 あなたはどんな気持ちを恋だと思っていたでしょうか。相手から何を差し出されれば愛されていると思ったでしょうか。その中で、丞相の位を忘れるほどの恋をしたことがあるでしょうか。
 わたしは容易く折れてしまいそうです。丞相の位など、この誓いのために投げ捨ててしまいそうです。…あなたの幻に許しを乞うてしまいそうです。そういうわたしを都督はあざ笑いどこまでもわたしを傷つけるでしょう。わたしに「炎」を決して忘れさせない彼は、あなたを裏切ったあの男と同じように、わたしを傷つけるために居るかのようです。
 あなたはわたしが傷つけられるのを望んでいますか。「あなた」を奪ったわたしが苦しむことを望みますか。
 丞相としてのあなたと孟徳としてのあなたが、今のわたしには混沌として遠いのです。
 「いい加減、待っているだけも面白くない」
 「…いま、そのようなことをおっしゃらないでください」
 「都督はわたしを滅する大義名分を探しているのかな。」
 文若が、くく、と喉の奥を鳴らした。
 「都督は恋にまで大義名分が要るのでしょうか」
 「まあ文若、おまえらしくもない、すてきなことを言うのね」
 花は身をおこして文若を見た。彼が皮肉げな笑みを消してこちらを見上げた。
 「都督と、蜀の丞相を招いて宴をしましょう。もうすぐ、西の庭の白い花が咲くもの、きっと美しい宴になるわ。」
 彼が息をのんだ。唇が、眉間が白くなっていく。
 花は寝台から降り、ゆっくり衣を羽織った。
 公瑾、と呟く胸のうちが、甘いのか苦いのか、すぐには判断ができない気がした。
 
 
 
(2011.2.8)

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