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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花文若』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
 掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
 
 
 
 『花文若』は、最初に落ちた場所が文若さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
 
 雑駁設定なのは のえる の所為です。
 
 何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。

 
 
 
 回廊に佇む人に、孟徳は足を止めた。
 白い面差しに黒橡の衣が浮き上がって見える。いまは冬だから、さすがに厚手の衣を上に羽織っているが、それすらも黒い。孟徳の足音も聞こえていないのか、娘は雪の舞う凍える回廊に白い息に巻かれるようにして佇んでいた。
 「文若」
 呼ぶと、大きな鳶色の目をゆっくり瞬かせ、娘はこちらを振り向いた。
 「なにしてるんだ」
 彼女はふわりと笑った。寒さで真っ赤になった頬が少女のようだ。
 「雪を見ておりました」
 「珍しいものでもないだろ」
 「ええ。でも今年は雪が多うございますから気に掛かります。備蓄食料の消費状況を再考せねばなりますまい」
 すっと仕事のことを話し出した彼女に、孟徳は笑った。
 「たまには風情のあること言えよ」
 「それは丞相がおっしゃること」
 いつもの通りの答えが淡々と返る。
 「この雪は俺の涙だよ」
 文若が眼を細め、何を言うかというように胸を心持ち反らした。孟徳は芝居気たっぷりに言った。
 「お前の冷たさに触れて雪になったんだ。積もっているのは俺の嘆きだ。」
 娘は白一色になった中庭を時間を取って眺め、袖で口元を覆い微笑んだ。
 「安心いたしました」
 「なに?」
 「春になれば無くなりますもの。」
 孟徳は天を仰いだ。
 「お前は本当に冷たい」
 「恐れ入ります」
 「…褒めてない」
 孟徳は近づいて文若の手を取った。娘は目を伏せ、手を引こうとする。
 「冷たくなってる。筆を取れないんじゃないか」
 「湯がございますので問題ありません」
 「…なあ、文若」
 孟徳は小さい手を撫でた。簡を削る小刀のあたるところが硬くなった、文官の手だ。
 「雪を溶かすのは雨だろ?」
 彼女はゆっくり顔を上げた。
 不思議な目の色だ。いつまで経っても娘のような。
 「そうしてまた冬が来る。嘆きがまた巡るのですね。」
 「なんでそういうふうに考えるかなあ」
 「雨が降っても溶けない雪もございますもの。」
 冷静な声に、遠くに煌めく白い山並みを見ながら遠征したことを思い出した。あの山は年中白いのですとその地方出身の武将が言っていた。…溶けない雪。動かない山。
 「でも俺は溶けない雪もきれいだと思う。」
 文若は瞬きし、大仰なため息をついた。
 「丞相の前向きさには感服いたします」
 「嬉しいなあ」
 「…褒めておりません」
 渋面を作った娘の顔をつくづくと見ていると、かつて聞いた話が甦った。
 (雪は硬いように見えて、その上を歩いていると突然大きな亀裂が開き飲み込まれることがあります。そうなれば二度と這い上がれぬのです)
 孟徳は娘の手を取ったまま歩き出した。丞相、という慌てた声とともに、後ろに強く引っ張られる。構わず歩き出そうとすると、また引かれる。
 「執務室はそちらではありません」
 「だってそっちに行かないし」
 「そこより他に行くところはございませんよ」
 「文若の手が温まるまで仕事しない」
 「丞相!」
 (文若、お前の身はどこで凍っている?)
 雪氷に眠る姿が浮かぶ。自分はただ氷の面を撫でるばかりで柔らかな頬に届かないのか。黒橡に黙す娘はその衣を纏ってさえ透き通って見えるというのに。孟徳は指に力を込めた。握っていれば暖かくなるこの手は夢ではない。
 そのまま立っていると、諦めたように力が弱まった。
 「いっときだけでございますよ?」
 弱々しい呟きに笑みが浮かぶ。
 自分の緋はきっと氷を溶かす。…溶けずとも良い、墜ちてお前の側に行くなら。ともに眠るなら。
 彼は大股に歩き出した。
 
 
 
(2011.3.1)

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