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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
   この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花孟徳』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
   掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。

   
   『花孟徳』は、最初に落ちた場所が孟徳さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
   
   何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
     
   (流れは、幻灯 8→11→13→16→21→23→24→25となります。)





目が覚めるような青と明るい花のような橙の衣が、きゃらきゃらとした笑い声に誘われるように翻る。青衣の女官が五人、橙衣が五人。低く刈り込まれた長方形の植え込みの中で、杖で鞠を打ち合う遊びをしていた。
孟徳はそれを二階の回廊から眺めていた。この球技場のために改装した回廊で、ちょっとした宴が開けるほどの広さがある。天候が悪い時には雨や風を遮るために長い庇を出すこともできるのだが、今日はうららかな日よりで必要ない。
孟徳の両側には侍女たちが並んでいる。しんと沈んだ黒衣を着ているのが外の景色とあまりに違って、その場所だけ冷えているように思えた。
彼女は空へ目を遣って、ああ今日は晴れていたのだったと思った。そうだ、だからこの遊びをさせたのだ。なんだか自分の上はいつも夜のような気がする。このところ、特にそうだ。
飽いているのだ。
恐ろしい飢えがまた襲ってきた。「輪」に居ると必ずそういう時がやってくる。
ひときわ高い声が上がって、孟徳は空から目を戻した。鞠が橙の侍女たちの後ろに放り込まれたところだった。孟徳は杯を上げた。
「青が優勢だ」
独り言に言うと、彼女のいちばん側で瓶を掲げていた侍女が慎ましく頭を下げた。
「楽しげで」
「ああ、可愛いものだね」
背もたれにゆったりと身を預けた彼女は、ふと回廊の向こうへ目を遣った。途端に悪戯っぽい目になって侍女に顔を寄せる。
「客だ。楽しい時間はここまでだな」
侍女はさりげなく振り返り、僅かに目を見張った。早口に囁く。
「警護をもそっと近くにお呼びせずともようございましょうか」
「ああ、いい。椅子と杯をもう一組、頼むよ。」
そのひとは、道を開いた侍女たちの間をいつにましてしずしずと歩いてきて、彼女を見て微笑んだ。
「令君が探しておられました」
孟徳は公瑾を見上げた。薄い笑みはいつもと変わらない。
「ほんとうにわたしが必要ならば彼が来る。あなたは、どうして?」
「むすめたちの笑い声を聞きましたので」
軽く礼を取った彼に、椅子が示される。自然に彼はそこへ腰を下ろし、侍女の杯を受けた。
「あれは、見慣れぬ遊びでございますね」
「子どもらの間で流行っている。ああして揃いの衣を着せて、女衣のように美しい軍旗で飾った中で戦うのは可愛かろう?」
「なにか、褒美を?」
「勿論。」
孟徳がちらりと視線を流した先に、若い武官が五人、並んでいる。いずれも見目の良い者ばかりで、公瑾はくすくす笑った。
「手練れでございますね」
「都督も並ぶ?」
「あなたが参加なさるなら」
孟徳は喉を鳴らして笑った。
「あなたと腕比べなら、他のものが面白かろうよ。侍女たちで船を仕立てて船いくさでもしようか。」
公瑾が僅かに険を含んだ眼差しを孟徳に向けた。
「…あなたは、なにゆえ、あの炎をそれほど軽い話にしてしまえるのですか」
彼の声はとても低い。孟徳は杯を見た。
「時は戻らぬ」
「あの戦のために魏が弱腰になり、この世を招いたと言われていても?」
孟徳は微笑した。
「そのようなことを言われる筋合いはないし、言う者はわたしの前に立つ気概もあるまいよ。あなたこそ、あれ以上の追撃が無かったであろう?」
孟徳は小首を傾げて男を見た。薄い硝子のような男の肌。
「わたしの使命はあなたを退けることでした。」
「そうだね、呉が荊州攻略にかかる前にわたしがこの話を持ち出したのだもの」
公瑾がふ、と息をついた。
「あなたはどこまで見えておられるのか。」
「なにも見えぬよ。こうしてしげしげと会いに来るあなたの心の内さえ分からぬ」
孟徳は杯を干した。公瑾がまた、息をついた。
「三国は、帝の裁量するところとなりました。行幸を願いたいものですが」
淡々と言われた言葉に、孟徳は首を傾げた。
「文若には言ったの?」
「はい。早すぎるとのご意見でした」
「わたしもそう思う。」
「そうでしょうか?」
「帝の行幸となれば、街道の整備とて進めねばならない。蜀はもちろん、呉にそれだけのちからが残っている?」
「蜀の税収は着々と増えていると聞き及びます。呉は水路がございます。」
「帝に海を渡らせるわけにはゆくまい。ああ、領土が広いとこういう時に貧乏くじを引く」
孟徳の笑いに、公瑾は横顔で苦笑した。
「わたしは、まだこちらに留まることになりました」
「おや、虎の若仔はあなたを置いていくの?」
「あちらでは若い武将も育っております。わたしはむしろこちらのほうが性に合うようです…いつか、あなたが仰った通りに」
孟徳は立ち上がった。地上では、どうやら青の衣が買ったらしい。侍女たちの話し声が階段を上がってくる。公瑾も立ち上がった。
「あなたと立ち合ってみたい」
呟きに、孟徳は小首を傾げた。
「何を賭けて?」
公瑾は、笑った。妖艶と言ってもいいほど柔らかく底光りするような笑い方だった。そして、端正な礼を取る。彼はそのまま侍女たちとすれ違い、去っていった。  
「…難儀なひとだ」
呟くと、孟徳はやってきた侍女たちをねぎらうべく、笑みを作った。

(2011.8.1)



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