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この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花公瑾』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花公瑾』は、最初に落ちた場所が公瑾さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
雑駁設定なのは のえる の所為です
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
幻灯15・18・20・22・27と同じループっぽい、閑話休題。
響きを残して彼女が撥を置く。仲謀は大きく息をついた。
「凄かった」
「ありがとう存じます」
仲謀は、どこかに行ってしまった言葉をかろうじて引き戻したが、もうあとが続かない。大河かと思えば風のような、雪が荒れ狂うと思えば花が舞っている。自在で透き通ったさまがまるで本人だ。仲謀はひとつ、らしくない咳払いをして公瑾を見た。
「それにしても、そんな激しいのを宴に弾くのかよ」
「違います。この曲は仲謀さまを思って出来ましたから、聞いて欲しかったのです」
仲謀は口をただ何回か開け閉めした。
「お喜び頂けて嬉しゅうございます」
袖を口元に当て、いかにも良家の子女然として笑う彼女に仲謀は目を半眼にした。
「お、おれ、かよ」
「ええ」
美しいばかりの曲ではなかった。ただ、凄い曲ではあった。自分の曲と言うのだったら礼を言わねばならないだろう。小声で礼を言った仲謀に、彼女は、どちらがあるじか分からない鷹揚さで頷いた。
「…じゃあ、お前、兄上の曲はあるのか?」
公瑾は笑みを深くした。
「仲謀さま?」
間近で向けられると背筋が伸びる。
「あー、悪ぃ。兄上さしおいて聞く言葉じゃないよな」
「常にも似ず、察しが宜しくて」
「常にも似ずって言ったな!?」
ほほほ、といかにも上品なだけの笑い声に、仲謀は脱力した。
「…まあ、いいけどよ。兄上がその曲を聞いても俺だって思うか?」
「思います。」
公瑾は眩しそうに眼を細めた。
「仲謀さまのお若い光は何事もなし得ますわ。」
静かな確信が込められた言葉に、仲謀は瞬きした。いたずらで言っているのではない、公瑾の優しい眼差しはそれこそ、常にないものだったから彼は身じろいであさってのほうを向いた。
「なあ、兄上の曲ってほんとに在るのか?」
公瑾は琵琶を抱きしめるように持ち直した。
「どうしてそんなに気になるのですか?」
「質問に質問で返すなよ。」
「失礼いたしました」
「お前は…その、兄上の、さ…だからさ」
どうにも、言いにくい。兄とこの女がそういう仲だというのが、もはや自分のまわりの常識であっても気恥ずかしい。
「仲謀さまらしいお尋ね」
さらりと彼女が笑ったので、仲謀はそれ以上顔を紅くせずに済んだ。彼女の手がゆったりとその青い衣で覆われた膝に伸びているのを見る。幾多の争いを兄と共にした手は、仲謀に仕える侍女や言い寄る娘たちに比べるまでもなく荒れている。指輪ひとつない、だが仲謀の欲しいものをくれるその手が好きだ。兄に差し伸べられる手だけれど、それは仲謀の望むところだから。
「…伯符、は」
仲謀ははっと目を上げた。彼女は琵琶の首を撫でていた。
「伯符はいつもわたしの胸の中で話したり暴れたりで、曲になる暇など与えてくれません。それが伯符なのです。わたしも、伯符とはどのような方かとよく聞かれますけれど、あの陽を指さすだけにしています。雲があってもその上には照っているし、嵐はいずれ晴れます。照りすぎる夏も降りすぎる冬も、すべて陽の所為と…そんなひとなのですから、わたしにとって。」
何かを書くように衣をもてあそんでいる白い指と、問わず語りのように動く唇を交互に見て、仲謀は落ち着く思いがした。彼女の言う兄は仲謀にとっても最もだったし、曲になる暇がないというのは、いかにも恋する娘の言いぐさに思えた。だから彼は、琵琶の首を、その節が白くなるほど握りしめていた彼女の指に気づかなかった。
(続。)
(2011.12.19)
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