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☆ご注意ください☆
この「幻灯」カテゴリは、chickpea(恋戦記サーチさまより検索ください)のcicer様が書かれた、『花文若』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『花文若』は、最初に落ちた場所が文若さんのところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。 雑駁設定なのは のえる の所為です。
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
花文若さんと孟徳さん。
庭には花が咲き乱れる。
女あるじは咲かぬ花と陰口をたたかれているが、庭の前にはみな、黙る。そして不承不承、褒める。
馬鹿なことだと孟徳は思う。女と同様、美しいと思うなら称えればいい。心惹かれたなら手折ればいい。異なる次を待つなら待てばいい。活けることで引き立つものもあるし、野に居ることで誇るものもある。そのどれもが新鮮で醜悪、いずれ目前を過ぎるものばかりとしても惹かれる心を折るのはまったく納得がいかないというものだ。
寛ぐ彼を、芳しい風が抱く。それを当然と彼は受ける。
庭の中で庭師だろう、しなびた老爺と何か話していた女が顔を上げた。老爺が指さす方向を見て、微笑む。まるで祖父と孫のような親密さだ。ふと、老爺が軽く頭を下げてその場を離れる。ほどなく、彼は手に花束を持って現れた。女は慣れた様子でそれを受け取り、微笑む。今度こそ老爺は去り、女は佇んだ。
戻ってこない。
彼女はいつもの濡れたように濃い色の衣ではない。寛いだ休日に相応しい、素っ気ないかたちだが淡い色の衣を着ている。
ひとり佇んでいるのが似合う女というのは、確かにいる。
彼の大切な女たちが居る別邸、あそこを束ねる女はひとりが似合う。多くの客を相手にしていた女には珍しく、客が居ようと居まいと灯りがあろうがなかろうがずっとそこに佇んでいるような気配があった。それは孟徳とつきあうことで身についたものかもしれない。
侍女が茶を運んできた。彼が手を触れもしなかった一杯目が下げられ、また薫り高い杯が置かれる。新しい香りに、考えを邪魔されたように思う。考えというほどのものではないはずなのに、己の意見をよく汲むと自負する他人たちに取り囲まれて過ごしているのに、今だけはこの香りはいらない。でもそれも、あの女がいれるならころりと評価を変えるのだろう。
女はゆっくりと歩いてきた。孟徳のいる東屋まで来るとかすかに頭を下げる。
「白い花か」
「はい。ようやく咲いたと、彼が」
「爺からの花は素直に受け取るんだな」
「わたしが願って植えてもらいましたので」
細かな花が群れたように咲いている。香りはまるで感じない。女は年齢のわりに少しこけた頬を寄せてそれを見ている。
「嬉しいか」
渾身の力がこもってしまったようで羞恥を覚える。
「ええ」
「見る暇があるのか?」
「どなたかのおかげで、少のうございますね」
「ではなぜこんな庭を好む」
お前が女あるじだからとは言うまい。お前は女の目で男を動かす。細腕で誰もかなわぬ行く先を作り出す。
女は目を上げた。
「逝く者が多い世に花は似合いでしょう。」
透き通る瞳に、足下が溶ける。
「では俺は俺の花を選んでおくとするか」
かすかに女が笑う。その片隅に閃いたのは憐憫だろうか慈愛だろうか。
立ち止まる男と踏み出さない女のまわりで、花が咲き乱れている。
(2013.12.01)
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