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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 先日募集いたしました、幻灯リクエストの返礼となります。
 「花公瑾×伯符+仲謀」で「ほっこりできるお話」とのことでした。ご期待に添えるものになっていますように。
 参加、ありがとうございました!



 どうしてお前が居るんだ、という、今日何回目かの視線を、仲謀は黙って無視した。悪いのは兄だ。昼日中から女の楽で寛いでいる兄が悪い。まわりの頑固爺の声が聞きたくないからと言ってこんなにわがままにしていていいものか。
 公瑾はただひたすらに楽を奏でている。聞き慣れた俗曲をただ心地よく弾いている。風の穏やかな陽気に似合いの調子だ。
 彼女が撥を置いた。伯符が笑顔になる。
 「いい楽だ」
 「ありがとうございます」
 いかにも姫のようなしとやかな礼をした公瑾は、仲謀に笑顔を向けた。
 「どうぞ、仲謀さまもおくつろぎくださいませ。」
 仲謀は唸った。
 「俺はせっつかれて兄上を連れ戻しに来たんだ」
 「ええ、ですから。どうせこうなると動きません」
 「どうせとか言うな」
 伯符が不満そうに唇を曲げた。
 「俺はこの国の行く末について沈思黙考しているんだ。この国いちばんの知恵者の横でだぞ、効果的だろうが」
 「お褒めいただきありがとうございます。そしてご立派です。さ、仲謀さま。この菓子はわたしが作りました。どうぞ」
 白い手で皿の上の柔らかそうな菓子を示した彼女に、仲謀は驚いた。
 「お前、菓子なんか作れるのか?」
 「気分転換に。でも内緒にしてください。あまり上手ではありませんし」
 親しげに微笑みかける彼女の、これがくせ者なのだと言い聞かせる。
 「上手でないものを俺に食わせるなよ」
 「俺は好きだぞ」
 横からすいと手が伸びてきて、いかにも男らしくわしづかみでかっさらっていく。あとには屑しか残らない。
 「兄上」
 公瑾がため息をついて手を打った。すぐに、あるじの分まで着飾っているのかと思うほど美しい侍女が扉を開いて現れる。次のものを、と言った公瑾に礼をして風のように、という比喩が的確なほど素早く再び現れ、湯気の立った白い大ぶりの饅頭を置く。してみると、別に伯符が菓子を独り占めしなくてもこれは用意されていたのだろう。突然押しかけた男たちに、手厚いもてなしだ。伯符が、仲謀が嫌がる過剰さのない、ごく親しい間柄を強調するような温かさ。兄がこの邸に入り浸っているのは噂として聞いているが、それを見せつけられる。
 湯気に、自然に喉が鳴る。
 「うまそうな匂いだなあ」
 「仲謀さまのような年頃には、きっと好んでいただけますよ。肉が挟んであります」
 なるほど、食欲をそそる。伯符が感心したように目を見開いた。
 「お前、ずいぶん世情に詳しいな。これって最近はやりの食いもんだろ」
 「手軽でよいですよ。中に詰めるもので味も変えられるし。行軍にも良いかと思ったのですが、熱いうちに大量に提供するのは難しいですね。さあ、どうぞ」
 仲謀が手を伸ばした先に、また横合いから手が出る。と、その手が饅頭を取り落とした。
 「熱!」
 大げさなほどの熱がりようをみせる伯符に、公瑾は楽しそうに笑い転げた。
 「きっとそうするだろうと思っていました、伯符。さあどうぞ、仲謀さま」
 仲謀は横目で、手を押さえる伯符に濡れた布を渡す公瑾を見た。それから、皿の上の饅頭をつかんだ。確かに熱いけれど、かぶりつくとそれがいい。口の中を火傷したような気がするが、かなり味濃く煮てある肉がひどくうまくて、仲謀は夢中で食べた。公瑾がほれぼれしたような目で見ているのが恥ずかしい。
 「公瑾、おまえ、こいつの母親みたいな目をするなよ」
 本当に、兄はよく見ている。
 「伯符みたいな子どもなんてお断りです。あら、失礼」
 「わざとらしいな!」
 公瑾は哀しげな表情になると床に頭を垂れた。
 「申し訳ございません、文台さま。わたしのあるじは意地汚くて。すべてわたしの責任です…顔も武芸も頭も良いのに」
 兄の目元が一瞬緩みかけた。公瑾がゆるくかぶりを振る。
 「食い意地と向こう見ずとわがままさえなければ」
 「…だいたい同じこと言ってるぞ」
 「自覚がおありなのですから何度言ってもよいでしょ?」
 「そのたびにむかつく」
 「繰り返されるほうはもっとむかつきます」
 ふたりの口は良く動く。動きながら伯符の手はせわしなく公瑾の菓子をつまんでいる。公瑾は彼の茶を入れ替えている。仲謀は息をついて立ち上がった。
 「仲謀さま?」
 「公瑾、次はさ、兄上のいないところで食わせてくれよ」
 「ぜひ」
 見慣れた微笑みだ。母より素っ気なく、街の女たちより温かく、兄に対してより気安い微笑み。伯符が見せつけるように剣呑に目を細め、弟を見上げた。こちらも、見慣れている。
 仲謀は兄に礼をとってその場を後にした。とりあえず、出直そう。自分をうるさくせっついた臣下たちには、兄が言ったことをそっくり返してやる。そのことで後で何か言われても堪える兄でもないし、公瑾でもない。ふたりがしれっと言い抜けているところを想像して仲謀は何となく愉快になった。


 
 
(2014.2.16)

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