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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
 この「幻灯」カテゴリは、最初に落ちたところが隆中以外の場所で展開する特殊ループです。
 今回は、『花献帝』です。
 最初に落ちた場所が献帝のところ・本は焼失・まったく同じループはない、という超々雑駁設計。
  雑駁設定なのは のえる の所為です。     
  何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。


 花献帝と孟徳さん。




 囀りが喧しい。
 米粒をつついている鳥は、小さいの大きいの、茶色いの黒いの、様々だ。それをじっと見ている少女がいる。
 このところ彼女が庭に来る鳥に餌付けしていることは聞いていた。その小さな手のひらに乗るわずかな量の米のぶんを自分の食事から減らすように言いつけ、決まった時間に決まった石の上に置く。やってくる鳥が増える日もあるようだが、彼女が提供する餌はいつも決まった量だということだった。これから本格的な冬になるこの土地では集まる鳥も多くなるだろうが、むやみに費えを減らす心配はなさそうだった。
 彼女は幼いころからそんなところがあった、と孟徳は思う。娘に甘い親のように美しい衣を、甘い菓子を、愛らしい子犬をと分け与えても、およそ溺れない。どこかで、それらと線を引く。それは、「ご寵愛」を逆手に取り、商売なり追従なりに生かそうとするものたちに期待外れの感を抱かせてきた。それを賢さと言うには深遠な理由があると思うのは孟徳の勘でしかない。
 孟徳が彼女を見ていると、侍女が彼に気付いた。孟徳にその餌のことを告げた侍女だ。彼女が少女に深く頭を垂れ告げると、少女が頭を巡らせてこちらを見る。瞬間、孟徳は侍女を深く憎んだ。あらゆる人の上にいる彼女は、人前では常に無表情で、無心であるさまをゆっくり眺められる機会はそうない。無心でいる彼女は近寄りがたく美しい。少女というほど年若ではないはずなのに彼女はいつも「少女」に見える、その不思議を彼は愛していた。それが際立つのがそういう時なのだ。
 大股に孟徳が近づくのを、少女は無表情で見ている。
 「やあ、陛下。」
 丞相、と唇が吐息のように動いた。
 「陛下は鳥が好きなの?」
 彼女は答えずに庭先を見た。最後の一粒を、少し大きめの黒い鳥がついばんで去る。
 「なぜ?」
 「可愛い陛下が愛でるならそんな小鳥でもいいけれどね、南の孔雀でも献上しようか?」
 彼女はまた、孟徳に目を戻した。
 「孔雀」
 「そう。羽がとても美しくてね、濡れたように光る。その尻尾には目だまのような模様がついていて、とても長いそれを盾のように広げることもできるんだ。たいそう珍しいものだよ」
 「お前のところにはあるの」
 「あるよ。」
 「じゃあいらない。」
 言い捨てて、彼女はまた庭を見た。鳥は、米粒がなくなった庭に、未練がましく群れている。
 孟徳は大げさな落胆の表情を作ってみせた。
 「この俺が贈り物に困るなんて滅多にないんだよ? 陛下が欲しいものはなんなのかなあ。」
 「お前がまだ贈っていないものよ。」
 こんな手管を、彼女は誰に習っただろう。
 「それは難題だね」
 彼女は孟徳を横目で見、うすらと微笑ったようにみえた。
 「ねえ陛下。どうして鳥に餌なんてやりだしたの? 可愛がるものが欲しいなら猫でもあげるよ? 女子は好きでしょう、ああいうの。」
 彼女は答えずゆっくりと庭を指さした。
 「何色の鳥がいる?」
 「え? ああ…小さい茶色と、大きい黒と、白い尾羽の黒い鳥かな」
 「じゃあそれぞれは何羽いる?」
 「うーん、茶色が五羽に黒が…ああ、飛んでいった。白い尾羽は二羽だね」
 「茶色の五羽の見分けはつく?」
 「え?」
 思わず叫ぶと、茶色の鳥はぱっと飛び立って見えなくなった。ちち、と甲高い囀りが尾を引いて、しかしすぐ聞こえなくなった。
 「ああ、飛んでいったから分からないな。」
 少女が身を翻した。
 「だからよ」
 彼女は滑るように回廊を進む。侍女たちが衣擦れの音をさせて立ち上がり、孟徳の動きを待っている。彼は次女たちを追い越して帝の後ろについた。
 「陛下は、見分けはつくの?」
 「いらない」
 「ああ、そうなんだ」
 突然、彼女が足を止めた。孟徳をふり仰ぐ。
 「何が、ああそうなんだ、なの」
 「陛下は見分けをつけたくないから鳥を可愛がるのかと思ったんだけれど。」
 「お前は」
 紅い唇が、ひとことひとこと、区切るように動いた。
 「そんなに朕のことを分かるくせに、朕が欲しいものは分からないの?」
 「そうだねえ、難題だ」
 顔を隠す飾りからそこだけ見える唇は、今度ははっきりと笑った。
 「お前が一番欲しいものを朕に献じなさい。」
 袖が大きく翻る。彼女と侍女たちが回廊を曲がるまで、孟徳はそこに立っていた。そうして、頸の後ろを掻いた。
 誰の入れ知恵だろうと思いながら同時に、それはない、とも思う。彼女は、孟徳の傀儡と見えるだろう。しかし、すべての出方が読まれているのではないかと思い、ひやりとするときがある。本当に怖いのは、彼女がもう少し成長した時だろう。
 そう思いかけて、孟徳は視線を上げた。庭の緑は鮮やかに、鳥のさえずりを宿している。さっき飛んで行った鳥だろうか、甲高い声は尾を引いて別の鳥の声と重なる。遠くで侍女たちの笑い声が一瞬上がって、止んだ。
 ――本当に少女だとでも思っているのか。
 孟徳はうすく笑って、反対方向に歩き出した。


 


(2015.1.27)

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