二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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☆ご注意ください☆
この「幻灯」カテゴリは、chickpeaのcicer様が書かれた、『シャッフル魏さんのところの公瑾さんの妹の花ちゃん』という設定をお借りして書かせていただいているtextです。
掲載に許可をくださったcicer様、ありがとうございました。
『シャッフル魏さんち』は、孟徳さんが丞相で、公瑾さんが尚書令です。
『公瑾の妹花ちゃん』は、公瑾の血の繋がった妹の花ちゃん。
雑駁設定なのは のえる の所為です。
何をよんでもだいじょぶ! という方のみ、続きからどうぞ。
小さな足音が近づいてくる。孟徳は目を閉じたまま、うっすら笑った。
頭が痛い、と執務室を逃げ出してきたのは本当だ。だが、柔らかい日差しは思いのほか心地よく、うとうとしていた。薬も効いてきたようで、頭の芯がぼんやりしている。
足音は、東屋の入り口で止まった。
「丞相さま」
思った通り、声は花のものだった。孟徳は目を開けた。趣味の合わない尚書令が溺愛する年の離れた妹が、緊張した表情で立っている。彼はとっておきの笑みを浮かべた。
「いらっしゃい、花ちゃん。どうしたの? 俺のところに来ると、こわーいにいさまに怒られるでしょ」
花は、おどおどと頷いた。孟徳が自分の膝を叩いてみせると、少女は嬉しそうに東屋に入り、孟徳の膝の上に上がった。
「それで、どうしたの?」
「丞相さまに、これを差し上げます」
鮮やかな青い紐だ。目の前の少女が三つに編んだものらしい。力が足りないためにきっちり締められておらず、いまにもほどけてしまいそうだ。
「これはなに?」
「にいさまが、紅い衣を着ているとわるいものになる、と言うのです。でも花は、丞相さまにわるいものになって欲しくない。だから、編んできました。」
孟徳は、ゆっくりと花の頭に手を置いた。
「じゃあ、俺の手首に結んでくれる?」
花が満面の笑みで頷く。孟徳の手首に、四苦八苦してどうにか通すと、彼女はまた笑った。
「これでもう大丈夫です」
「ありがと!」
花を抱きしめ、大仰に頬ずりすると花はくすぐったそうに笑い声を上げた。
「花ちゃんだけは俺の味方だね」
「にいさまもお味方ですよ?」
小首を傾げる花に、孟徳はわざとらしく嘆息した。
「どうかなあ。俺が花ちゃんをお嫁さんにしたいって言ったら怖いと思うけど」
花の顔がうっとりと綻んだ。公瑾の一族に最近婚儀を挙げた娘がいて、それがいかに美しくて素晴らしい姿だったか、公瑾が苦笑するほど少女が繰り返し語っていたというから食いついてくるだろうと思った。
「およめさま?」
「そう。」
「…でもにいさまは、怖いにいさまになるのですか?」
「そうだねえ」
「では、どうして怖いにいさまになるのか、にいさまにお聞きします。」
孟徳は少し目を細めた。
「聞いてどうするの?」
「ほんとうに花が丞相さまを好きなら、にいさまはきっと花とお話ししてくださいます。そうして、にいさまが怖くなる訳を教えて下されば、花は、にいさまが怖くならなくなるように、いっしょうけんめいお話しします。」
つかえつかえ言った花は、孟徳を見てにこ、とした。
「だって、にいさまは丞相さまのおためになることをなさるのがお仕事なのでしょう? 花が丞相さまのおためになるなら、きっと花は丞相さまのもとに参ることができます。にいさまは、聞き入れてくださいます。きっと怖くなんかなりません。だっていま花は、丞相さまにこの紐をさしあげたんですから。」
孟徳は少女が怪訝そうな表情になるまで、その顔を見つめていた。そうして、丞相さま、と不思議そうに呼ばれると瞬きして、その小さな体を今度は注意深く抱きしめた。こどもの甘い匂いがする。…そう、まだ、こども。
「花ちゃん」
「はい」
「…花ちゃん」
「丞相、さま?」
「じゃあ、大人になっても俺のことが好きだったら、きっとお嫁さんにきてくれる?」
「はい!」
何のためらいもない返事に、彼女を抱きしめたまま孟徳は苦笑した。顔をあげる。いつの間にか佇んでいた尚書令を見て唇を歪める。
「じゃあお前のことは義兄上と呼ばなければいけないなあ」
「謹んでお断り申し上げます」
花が身をよじった。公瑾を見て笑顔になる。
「にいさま」
「花。わたしは、ここへ来てはいけませんと言いましたね?」
少女相手にしては容赦ない声に、花は身を竦めた。
「…ごめんなさい」
「紅い衣に近寄ってはならぬとも言いましたよ」
「でも! これを差し上げたのでだいじょうぶ、です!」
花が孟徳の手をつかんで青い紐を公瑾に見せると、彼は忌々しげに首を振った。
「それくらいでは紅い衣の呪いは解けません」
え、と青ざめる妹を強引に抱き上げ、笑いをかみ殺している孟徳をにらみ据える。
「さきほどの件に関しましては、またのちほどじっくりお話しをさせていただきましょう」
「なにお前、話し合う余地を残してくれるの?」
「二度とさようなことを仰らぬためにも」
公瑾が身を翻す。その肩越しに顔を覗かせた花に、孟徳は手を上げた。花は公瑾の肩に手をおいて、身を乗り出した。
「丞相さま、次はもっと大きな青をお持ちします!」
「花!」
堪えきれず、孟徳は笑い出した。
「待ってるよ」
花が頷く。いい加減にしなさい、と叱る声が遠ざかっていく。孟徳は深く椅子にもたれた。
幼くして家を背負った自分が持つことを許されなかったものを、彼は妹にすべて与えようとしている。それこそが孟徳のような人間を魅了すると知ってなお、止められないだろう。彼にとって、彼女は既に作品なのだ。彼が弾く琵琶の音とともに、彼によってしか叶えられない色を持たせたいと望む少女。彼女が自分で咲こうとした時、あの男はどうなるだろう。孟徳は空を仰いだ。蒼い空にひと刷毛、雲が流れていく。…少女は、もっと大きな青をお持ちしますと叫んだ。
既に公瑾の腕の中を越えようとしている妹に、彼は焦っている。
「…馬鹿だなあ」
孟徳はくつくつと笑って目を閉じた。目の裏に白い雲の残像がいつまでも溢れるように思った。
(2010.11.12編集)
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