二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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文若さんリクエスト企画、ひとまず最終となりました。 cicerさま、お待ち頂き、申し訳ありません。月をまたがなくて良かった~。
みなさま、今回はご協力ありがとうございました。
また次回があれば、どうぞご参加くださいませ。
みなさま、今回はご協力ありがとうございました。
また次回があれば、どうぞご参加くださいませ。
「文若さん、文若さ~ん」
遠くから手を振りながら花が駆け寄ってくる。文若は眉間にしわを寄せた。
「なにをしている、はしたない」
自分は帰宅途中であり、彼女は挨拶をして先に自分の部屋に戻ったはず。それ以前に、ここはまだ職場だ。その庭できらきらしい笑顔で自分を見つめて、走ってくる恋人。そこまで考え、文若は赤面した。
「ああ、すみません」
文若に抱きつくように止まった花が、笑顔で彼を見上げた。
「あの、明日はわたし、お休みをいただいてましたよね?」
「…そうだな」
「じゃあ、出かけてきてもいいですか?」
「どこに」
「近くに大きな木がある泉があるんだそうです。とてもきれいなんですって。そこまでなら、昼食を持って馬で出かけて日が暮れるまでに帰って来られるから、って」
「…丞相か」
「はい!」
「駄目だ」
たたきつけるように言うと、花はぽかんとした。ことん、と首を傾げる。
「駄目、ですか?」
純粋に不思議がっているような花に、文若のなかで、建物の木組みが合うような、かちっ、という音がした気がする。彼はぐっと頭を上げた。
「なぜ、丞相とお前が出かけねばならん」
「誘ってくれたのが孟徳さんだからです」
文若は咳払いをした。
「では、わたしも誘おう。昼食を持って馬で出かけて日暮れまでに帰れる距離に、美しい泉とよく茂ったかたちのいい巨樹がある。地元の者たちも大切にしている美しい木だ。よい風が吹く場所でもあるし、ともに馬で行かないか?」
花が再度、ぽかんとした。文若は目をそらさず、息がかかるほど彼女に顔を近づけた。
「丞相とわたしと、どちらを選ぶ。」
彼女の表情がかっと赤くなった。
「ど、どちらを選ぶ…?」
「花。わたしはいま、久しぶりに真剣に怒っている。まず第一に、お前が自分の失意を恋人であるわたしより先に丞相に言ったこと。第二に、そこで恋人であるわたしではない男とともに出かけることを了承したこと。第三に恋人であるわたしの申し出に即答しないこと。第四に」
「わかりましたごめんなさい! 一緒に行ってください!」
花が一息に言って勢いよく頭を下げる。文若は大きく息をついた。
「よろしい」
彼女がちら、とこちらを見てちょっとだけ笑った。それを見て文若は目を細めた。
「…まさか今の流れは、お前の策略ではあるまい?」
唸るように言うと、花が上目遣いで彼を見上げた。その目つきがまさに正解だと告げている。
「策略、っていうか…その、孟徳さんに協力はしてもらいました」
「協力、だと?」
「これで文若が折れなかったら、ホントに俺と出かけようね、って約束をしました」
「言語道断だ」
「そうです、よね」
花はうろうろと視線をさまよわせた。
「…文若さんを、誘いたかったから」
「なおさら」
「でもなかなかお休みが合わなくて、ずっとひとりでお休みしてて、着飾って文若さんの執務室まで行ってみたこともあったけど…その、やっぱり、一緒に出かけたくて」
「それで、丞相をだしに使おうなどと考えることももってのほかだ。」
「だしじゃないです! いつでも協力するよ、って孟徳さんも言ってくれてるし」
文若は僅かに息を吸った。
「だからと言って甘えていい相手ではない。借りを作ってもならん。それは臣下ではない」
「馬鹿だなあ文若。花ちゃんはただの臣下じゃないぞー。」
「きゃ」
小柄な娘にのし掛かるように後ろから抱きしめている孟徳を、文若は苦々しく見た。いつもどこから沸いて出るのだ、このあるじは。花を構い倒す為なら手段は選ばないらしい。
「最初からご覧になっていましたね…」
「花ちゃんは、臣下という枠を超えた可愛い子だ!」
朗らかに断言する権力者を、このとき文若は真剣に案じた。
「意味が分かりません」
「あ、あの、孟徳さん。ありがとうございました」
慌てて言った花に、孟徳はへらりと笑った。
「俺が負けちゃったね。じゃ、君の申し出通りに、文若と花ちゃんに休みをあげるよ。」
「ありがとうございます!」
「丞相!」
思わず怒鳴る。その途端ぴしりと突きつけられた人差し指に、文若は息を詰めて孟徳を見返した。
「久しぶりの遠乗りだろ? うっかり彼女を落とすような真似するなよ?」
「有り得ません」
語気を強めて言えば、孟徳は物わかりのいい老人のように頷き、踵を返す。まったく腹が立つ笑みだ、とその背を睨み付けていると袖が引かれた。
「あの…本当にごめんなさい」
文若はうなだれた花を見、そっとため息を落とした。
最大の障害になり得る男をさらりと盾にして挑んでくる。守らなければならないほど幼いいとけない娘、と思っていたのに。
ただ、彼女とともにでなければ、美しいものを見るためだけに足を運ぶなど、思いもしない贅沢だ。ふと彼は、若い日を思い出した。ただ馬を走らせることだけが楽しかった日の熱さが、胸の内を掠める。
「…そうだな。わたしも、お前と馬に乗った記憶があの騒ぎだけではつまらぬかも知れぬ…」
「わたしも、そう思ったんです」
微笑む花に、もう一度ため息をつく。
「それならそれで素直に言いなさい。」
「そう、なんですか?」
小首を傾げる花の髪に、手を添える。途端に花の頬が色づく。
…お前は、丞相とわたしの言い合いをただの戯れ言だとでも思っているのだろうか。
ともに立ち働くことを願ったお前に、お前の意志を尊重する、字を覚えるのも必要だなどと臆病な言い訳で逃げた男に、お前は礼さえ言った。真実、この許可を、お前はわたしと丞相の好意だと思っているだろう。だがそれ以前に、いつも好奇心に溢れ、まっすぐなお前がお前でなくなってしまうことが恐ろしくて仕方がなかった。だのに、好きと告げる唇が日に日に艶めいてくるのが眩しくて仕方がない。今でさえ、この手の行く先をどうしたらいいか分からぬのに。
そのとき、文若の手に花が手を重ねた。嬉しそうな笑顔に、彼は肩の力を抜いた。
「…敵わぬ」
「何がですか?」
「何でもない」
「あ、ずるい…」
尖らせた唇を素早く盗み、彼女の表情を確認せず踵を返す。すぐに後ろから華奢な、温かい腕が回されるのを感じ、彼は目を閉じた。
(2010.8.31)
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