二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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昨日の続編、というわけではなく。リクをいただいたものでもないのですが。
文若さんと花ちゃんのお子さん話です。
今週末からしばらく、忙しくなりそうなので更新をば。
文若さんと花ちゃんのお子さん話です。
今週末からしばらく、忙しくなりそうなので更新をば。
「父上、できました」
妹が晴れ晴れと見せる簡を、父上はにこりとして受け取った。わたしからしてみればまだ落書きのような字だが、父上は大事そうに見て注意をしている。
今日は父上はお休みで、朝からこうしてわたしたちの相手をしてくださる。母上は、父上はお疲れなのだからあまり困らせないでね、と言ったが、わたしたちは父上が家にいるだけで嬉しい。だからやっぱり父上にまとわりついてしまう。妹にいたっては、父上の衣の裾を掴んで放そうとしない。
その時、母上が茶を持って入ってきた。
「ああ、もう茶の時間か?」
「はい」
母上は笑って、卓に茶を置いた。いい香りだなあと思った時、父上も「いい香りだな」と同じことを言うので、わたしはひとり顔を紅くした。
「ほら、こっちにいらっしゃい」
母上は妹を抱き上げようとするが、父上はそれを制して自分の膝に抱き上げた。妹が嬉しそうに父上の膝の上で跳ねる。母上がその頭を軽く叩いた。
「落ち着きなさい」
妹が唇をとがらすのを父上が苦笑して見た。
「そういう顔は本当に花に似ている」
「そんなところばかりですか?」
今度は母上が唇を尖らせた。わたしはこっそり笑った。父上は母上に渡された杯の香りを味わうように嗅いだ。
「やはり、花の淹れる茶は香りがいい」
母上が照れくさそうに笑う。父上はさも満足そうに言った。
「お前に子ができ執務室を去ってからずいぶん経つが、これだけは慣れぬな」
「これだけ、ですか?」
母上が軽く睨むようにすると、父上は咳払いした。
「丞相がうるさく来ないから、それだけでも良い」
「あら、ひどい」
わたしは母上の傍らの椅子に座った。わたしの前にも母上が茶をおいてくれる。子どもには贅沢なものだが、この家では普通に出される。
「父上、父上。」
妹が、小首を傾げて父上を見上げる。
「この間、おにいちゃんに、俺のお嫁さんにならないかって言われました。」
父上が不審そうに眉間に皺を寄せた。
「おにいちゃん?」
母上が慌てた様子で父上に耳打ちする。父上の表情が険しくなった。
「性懲りもなく!」
「すみません、わたしがおままごとを教えたら、最近、誰彼なく捕まえておままごとをしてるんです」
「いや、それはいい。しかし、ご自分の年齢を分かっておられるのか!?」
「もちろん冗談ですよ」
「相変わらずお前はあの方に甘い」
不満そうにぴしりと言うと、父上は妹の髪を撫でた。
「お嫁さん、というのはなんだか分かっているか?」
「母上のことでしょう?」
父上は目を細めた。
「少し違うな。母上は父上だけの妻だ。『おにいちゃん』のものではない。」
おにいちゃん、と言う時、父上は唇をひん曲げるようにした。妹は首を傾げた。
「ええと、じゃあ、おにいちゃんの奥様になるっていうこと…?」
「…意味としては、そうだ」
非常に苦々しそうに父上は眉間に皺を寄せた。ややあって、表情を和らげる。
「妻というのは誰よりも信じている、いつまでも味方だと、そういうことだ。だから、迂闊に了承をしてはならん。」
「…いつまでも?」
「ああ」
妹は反対側に首を傾げた。
「俺とずっと一緒にいるんだよ、って言ってました。そういうことですか」
「お前はその『おにいちゃん』とやらの言葉を信用できるのか」
信用、と妹は繰り返して俯いた。
「そういうものは分かりません…遊んでいては楽しいけれど」
「了解してはいないだろうな。」
「父上と相談します、と言いました。」
父上は目に見えて安堵し、肩の力を抜いた。
「宜しい」
妹は安心したようだ。また笑顔になった。無邪気に続ける。
「いつまでも、って…死んでも、ですか」
父上は瞬間、眉間に皺を寄せた。だがすぐ気を取り直したように息をつき、妹の頭を撫でた。
「死んでも一緒に、などとすぐ言う者を信用するな。そんな相手には生きてくれと言いなさい。ともに生きなければ添わぬと言いなさい。」
父上の表情は静かで、重かった。とても幼い妹に言う口調ではなかった。妹も、何かの厳粛さを感じ取ったらしく、唇をぎゅっと結んだ。
その時、母上が父上の肩に手を置いた。
「いまはお茶の時間ですよ。」
母上の声は優しく、父上の表情がほぐれた。父上はどこか恥じたように、母上の手に手を重ねた。
「…そうだった。」
はい、と母上が微笑む。妹は今度は母上の手をねだり、父上の膝から抱き上げられた。
父上は、それほどの思いをして母上を娶ったのだろうか。それとも、妻を娶るというのはそんな覚悟が要るものなのか。息子のわたしの目から見てもとびきり美人というわけではなく、係累さえも詳らかではない母上。けれど、父上を誰よりも信頼し尊敬しそれを隠さない母上。父上にとっては、あの眼差しだけで十分だったということか。
だが、妹を抱き上げた母上を宝物か何かのように見つめている父上を見て、わたしは口をつぐんだ。それだけで何か分かるような気がした。あとのことは、自分の将来に考えればいい。そんな女性が現れてからでいい。
わたしは気を取り直し、立ち上がって父上の前に進んだ。
「父上、あとでわたしの手習いも見ていただけますか」
父上はにこりとして、頷いた。
(2010.8.26)
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