二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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うちの時間軸で言うと、「唯、 」の後あたりになるのかな…
文若さんと花ちゃんです。
文若さんと花ちゃんです。
文若は、非常に機嫌がよく見える上司をうさんくさい思いで見上げた。孟徳は腕組みをして子細らしく頷いている。
「そっかあ、お前もついに嫁を貰うのかあ。相手が花ちゃんとはなおさら感慨深いな」
まんざらでもなさそうな声に、文若は目を伏せた。
過日、花には正式に求婚した。彼女の部屋には朝に出向き、今日は部屋から出るなと言ってある。この面会のあと孟徳に会わせようものなら何を言われるか分からない。明日になればほとぼりも冷めるだろう。手習いの手本を山のように置いてきたので目を白黒させていたが、分からないながら頷いていた。
「つきましては、吉日を選び、婚儀を執り行いたいと存じます」
「あー、うん。分かった分かった。なるべく早くにしろよ。ただでさえ花ちゃんを待たせてるんだから」
ひらひらと孟徳が手を振る。文若は眉間の皺を隠すように深く礼を取った。まさか、過日の自分たちの言い争いを知っているのではと疑いたくなる。文若さんに何かあったら孟徳さんのところに行きますから、という台詞は劇薬だった。
「それでは」
踵を返す後ろ姿に、軽い声がかかった。
「あ、花ちゃんを今日中に俺のところに寄越せよ。」
文若は眉間に皺を寄せて振り返った。
「…なぜでしょうか」
「決まってるだろ。花ちゃんの花嫁衣装を見立てるんだよ。お前は金だけ出せ」
「お断りします」
即座にたたきつけるように言った文若に、孟徳はくす、と笑った。
「お前は確かに趣味がいいけどさ、選べないんじゃないか?」
「何を仰っているか分かりかねます」
「だってどれも花ちゃんに似合って見えるだろ。それが恋人ってものだよ。その点、俺ならまったく関係ないし、冷静な判断ができる。」
どの口がそう言うか。
文若はじろりと孟徳を見た。愛しい娘を可愛い可愛いと舐めるように抱きしめるこの男を何度、蹴飛ばしたいと思ったことか。
「お言葉ですが、花はわたしの妻になるのです」
「分かってるよ。嫌がらせだから、これ」
にたあ、と孟徳が笑う。
「お分かりでしたら、話は早うございます。そのお話は受けかねます」
「じゃあ、婚儀は派手にやれよ。これは丞相命令。」
文若は拳を握った。先程までの話と、どこがどう違うのだ。
「…派手な宴は、花が好みますまい」
「俺が楽しみたい。それ以外に、三人分かかっているからな。」
「は?」
「お前と、花ちゃんの父親と母親の分。」
静かに言われ、文若は目を見開いた。孟徳が目を細めてこちらを見ている。
…彼は本当に、どこまで分かっている。彼女の両親に会うすべがないことを知っているのか。あの優しい娘に育てた恩を述べる日が永遠に来ないことを。
初めて花に会ったのは彼だ。自分の部下に付けたのも彼だ。
文若は背を伸ばした。
「そういうことであれば、宴の手配りに関してはお受けいたします」
「よし、決まりだな」
力強く言った孟徳が立ち上がり、身軽に文若の横をすり抜ける。引き留める間もない。
「丞相、どちらへ」
「花ちゃんに祝いを言わないとな。ああ文若、さっき元譲が呼んでたぞ。早く部屋に行けよ」
丞相、と呼びながら追いすがる文若の鼻先で扉が閉じる。彼は手荒に扉をこじ開け、紅い衣を追いかけた。
「いい加減になさってください!」
「文若、仕事しろよ」
「あなたに言われたくありません」
「あー花ちゃん!」
孟徳が、執務室が見えた途端、姿も見えないのに声を上げる。ふん、と鼻を鳴らした矢先、花が窓から顔を出し、頭を下げた。何故そこにいる、と文若は叫び出したくなった。花に問えば、文若さんの顔が見たかったんですとか何とか、大した理由ではないに違いない。
「孟徳さん。どうしたんですか?」
「婚儀を挙げるんだってねーおめでとう!」
城中に響くような声で祝いを告げられた花が、一気に紅くなる。
「あ、ありがとう、ございます…」
「宴はこいつの家柄と地位と矜恃に掛けて盛大にやるからねっ」
「あの、わたしは文若さんが居てくれればそれで…」
「ああもう、なんて健気なんだ!」
伸ばされた腕と花の間に、体を素早く割り込ませる。ほとんど文若を抱きしめかけた孟徳はにやにや笑いのまま、手を引っ込めた。
「そうでなくちゃ人妻の掠い甲斐がない」
「言語道断です」
「わたし、掠われたりしません」
重なった声に、うふふ、と孟徳が笑う。文若は花と顔を見合わせ慌てて逸らした。互いの顔が真っ赤になっているのが、どうにも恥ずかしい。今からこんなことでどうする、と己を叱咤してみるが、顔は上がらない。
「やっぱり可愛い!」
「きゃ、あっ」
悲鳴に慌てて顔を上げ、窓から引きずり出されるように孟徳に抱きしめられた花を見るや、文若はまったく礼儀を忘れ孟徳の袖を掴んだ。
「いい加減になさってください!」
孟徳の袖越しに花と目が合う。そんな状況なのに彼女が蕩けるように笑う。つい腕が緩みそうになってしまい、文若は必要以上に孟徳を引っ張る手に力を込めた。
(2010.10.15)
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