二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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文若さんリクエスト企画、第二弾です。
cicerさま、リクエストありがとうございました。ご希望にかなえばいいのですが…どきどき。
文若さんと花ちゃんのお子さん話ですので、そういうお話がお嫌いな方はご遠慮くださいね。
コメントのお返事はまた改めてさせていただきます。どうぞご了承ください。
cicerさま、リクエストありがとうございました。ご希望にかなえばいいのですが…どきどき。
文若さんと花ちゃんのお子さん話ですので、そういうお話がお嫌いな方はご遠慮くださいね。
コメントのお返事はまた改めてさせていただきます。どうぞご了承ください。
「おかえりなさいー!」
走ってきて足にしがみつかれ、文若は思わず後ろに下がった。体当たりしてきた幼い愛娘は、妻によく似た笑顔でこちらを見上げている。彼は苦笑して小さな体を抱き上げた。この顔で微笑まれては、怒る気もなくなる。
「お帰りなさいませ」
愛息が真面目くさった礼をするのに、頷く。花が慌てた様子で走り出てきた。
「二人とも! もう寝なさいと言ったでしょう」
「いや! 今日は父上にお話してもらう日だもの」
体を揺すった娘は、期待に満ちた目で父を見た。文若は少し渋い顔をしてみせた。
「聞いたら、眠るのだな?」
「はい!」
「では、少し話そう」
小さく言うと、花が済まなそうな顔で文若の腕に手を置いた。
「大丈夫ですか?」
「わたしが決めたことだ。それに、お前から教えてもらった話もある」
妻に笑み返すと、花は娘の髪を撫でた。
「父上はお着替えをするから、そのあいだ母と居ましょう」
はあい、と今度は素直に母に抱かれる娘に、また目を細める。
寝る前に「お話」を聞かせるという習慣は、文若にはまったくの初耳だった。花の世界ではそれが日常のことで、親子の絆を育てるのだと言われ、考え込んだ。親子の絆など、彼にとっては「育てる」などというものではなく、あって当然のものだ。「お話」などはおんな子どもの愛玩するものという認識もあった。両親は自分に然るべき環境を与えてくれたし、自分も少しながら孝行はできたと思う。だが、花の言う「絆」は、彼が思っているのとは何やら違うようだった。
恋をしてからこのかた、花と自分の差違を考えさせられない日は無かった。自分より花に近しい年頃の男子と彼女が笑い合っていれば年齢差を考えたし、夜更けに花が故郷を思って泣けば彼女の居たはずの「あちら」を思いもした。そして今も、文若の認識からすれば年齢よりずっと幼いまま彼に嫁いだ妻は、ふっと不思議なことを望んで夫を戸惑わる。第一、文若ほどの高官の妻が、家令の老妻の助けがあるとはいえ、乳母も雇わずに自分で子を育てているというのはほとんど聞かない。
ただ、いまではそれで良かったと思う。自分は朝夕の挨拶くらいしか両親ときちんと話すことは無く、それで足りていた思いがあるが、それも同じ土壌に育ってこそだ。会議ならともかく、とかく口が重くなりがちな文若にとって、屋敷に帰れば妻と子たちが揃って笑顔で迎えてくれ、実に他愛ないことを競い合って彼に告げる時間は、気がつけばかけがえのないものになっていた。
今夜も、夜着に着替えた文若は、目を輝かせる娘の枕元に座る。自分に似ていつもしかつめらしい顔をしている息子も、実際はこの「お話」を楽しみにしているらしく、すこしあとになって、「お話」について考えたことを書いてきたりする。
彼は、咳払いした。
「では、とある娘の話をしよう。」
「どんな子?」
「お前のように可愛らしい子だ。その子は、母親が、妖術使いの大事な野菜をこっそり食べてしまったから、その代償として生まれた娘は妖術使いに引き取られ、高い高い塔の上でひとり、育てられた。娘は食べるものにも着るものにも困らなかった。いつも美しいものを着て豪華なものを食していた。ただ娘には、友だけが居なかった。そうしている間に、娘はたいそう美しくなった。」
花がそっと寝室に入ってきた。文若を見て微笑み、入り口近くの椅子に腰掛けた。
「娘がたいそう美しい、という噂は国中に広まった。そこで娘をひとめ見たいと方々から男が押しかけたが、娘は高い塔の上に居て会うことはかなわない。ほとんどの男は諦めて帰ってしまったが、ひとりだけ残った男がいた。男は塔の近くで忍んで待った。すると夜になって妖術使いが塔の下に来て、言った。『お前の長い髪を下ろしなさい』と。そうすると塔の上から編んだ髪が下がってきて、妖術使いを連れて行った。男は次の日、同じように言った。すると髪が下がってきて、男はそれにつかまった。髪をよじ登っていくと、そこにはたいそう美しい娘が驚いた様子で座っていた。」
文若は口を噤んだ。娘はいつの間にか眠っており、息子も妹の手を握ってうとうとしていた。花に目顔で合図すると、彼女は燭を吹き消した。音を立てないように立ち上がり、妻の手を取って部屋を出る。
廊下に出ると、花が寄り添ってきた。くすくす笑っている。
「なんだ?」
「だって、すっごく淡々としてて文若さんらしいんですもん。高尚なお話みたい。声がすごくいいからつい聞いちゃいますけど」
彼は唇を引き結んだ。ややあって咳払いをする。
「仕方ない」
「そうですね。でも、孟徳さんの前で説明してた時とあんまり変わらない気がします」
まだ笑いを含んで言う妻の肩を、文若は軽く叩いた。
「もう少し柔らかいつもりだ。孫子や論語では難すぎる、と言ったのは花だろう? まあ、わたしが語ると早く寝付くようだが」
「うふふ、はーい」
「ところで、もうそろそろお前から聞いた話が尽きそうだ。」
「別にお話じゃなくていいんですよ。詩でも、唄でも…文若さんの声だっていうのが大事なんです。今度はわたしも最初から聞いていようかな。」
妻と子らが仲良く並んで期待した目でこちらを見ている図が浮かび、彼は自然と笑ってしまった。
「なんですか?」
「花もあの子らと変わらんな。」
「じゃあ、この次は文若さんの子どもに生まれて来ようかな。」
花が屈託無く笑う。文若は微妙な気分になった。
「そうなるとわたしは、お前が嫁に行くのを許さなければならないということか。」
「そうですね、お・父・さん?」
…その相手が丞相のような男ならどうするのだ。
「断固拒否する。」
あまりにきっぱりした物言いに花は目を丸くし、笑いながら文若に抱きついた。
「文若さん、大好きすぎます」
「…言葉遣いがおかしいぞ」
咎める言葉も途中で苦笑に変わる。花が彼の腕に抱きついた。
「ねえ、文若さん。孟徳さんなら塔ごと採ってしまうでしょうか。」
「ああ」
「文若さんは、美しい娘っていうだけじゃ塔に行ったりしませんよね?」
「無論だ」
「あの子もきっとそうですよね」
「そうだな。」
ふたりは寝室まで歩調を揃えてゆっくり歩いて行った。
(2010.8.25)
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