二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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文若さんと花ちゃんです。が、オリキャラが超出張っております…(さいきんこんなことがおおい)
客間に入った子建を、花は飛び立つようにして出迎えた。
「どうしたのですか?」
よく見ればいつも輝いている薄茶の目は泣いたのか真っ赤だし、手は胸元でそわそわとさまよっている。ここまで心細そうな花を見るのは初めてではないだろうか。子建はにっこりと笑った。
「子建、さん」
「令君は北の領地に行って留守でしたね。屋敷に泥棒でも入ったのですか?」
そうならそいつを八つ裂きにしてやりましょうと心中で呟いたことをおくびにも出さずに彼女を見ると、花は早くも涙を浮かべている。
「どうして、いいか、分からなくて」
「まず、こちらにお座り下さい」
子建が手を取って椅子に導くと、花は力が抜けるように座り込んだ。彼は青ざめた花の顔をのぞき込んだ。
「どうしたのですか?」
「あの、わたしの友達だって言うひとが尋ねて来たんです」
子建は瞬きした。
「友達、ですか」
その言葉の長閑さと彼女の取り乱し様の落差に、子建は小首を傾げた。
「その友達、は、あなたを訪ねてくるような人物ではないのですね。」
花は激しく首を縦に振った。
「それどころか、有り得ません。あり得ないんです」
声が震え、また新しい涙が彼女の大きな目に浮かんだ。こんな子にはたくさん友達がいただろうに、あり得ないと断言することに子建は彼女の故郷の「遠さ」を知った。それが尋常な『遠さ』でないことを正確に説明されたことはないが、いつからか知っている。
「嘘なんです。侍女さんに留守だって断りを言って貰っている間、影からそっと見てたんですけど、やっぱり全然知らない女の人だったし。」
「そうですか。ではその相手は、あなたが遠くから来たというのをどうにかして知ったのでしょうね。あなたはいま府の重鎮の奥方ですから、なにかつけ込めると思ったのかもしれません」
瞬きした花の目からこぼれ落ちた涙を指でぬぐう。花はなかば呆然と頷いた。
「家令さんも、そう言ってました。ゆめゆめお心乱されませんよう、って言われたんですけど、考えれば考えるほど怖くなってきて!」
花は子建の袖をきつく握りしめた。
「本当に、本当にもし、そんな『道』ができていて、わたしが帰れるとしたなら、それがわたしが望んでいなくても強引に機能してしまう道だとしたら、わたしが、文若さんの前から急に消えたりするかも知れなくて、そうしたら、いったいどうしたらいいのか、もう、分からない」
一気に言うと、花は子どものように大粒の涙をこぼし声を上げて泣き始めた。そんな泣き方を久しぶりに見た子建は一瞬呆然とし、それから慌てて彼女の涙を袖で拭った。
「ああ、こんなに泣いて」
「だ、だって」
「あなたは帰ってしまったら、令君とは二度と会えないのですか?」
「た、ぶん、そうです」
子建は泣き止まない彼女をそっと抱え込む。花は子建の袖の下で小さく頭を振った。
「文若さんに会えなくなるなんて嫌!」
「花殿、花殿。あなたはここに居ますよ。安心してください」
「子建さん…」
彼女の嘆きを、子建は羨ましいとさえ思った。彼女だから羨ましいと思うのかと感じれば、父と同じようで複雑ではある。
「花殿。…わたしは何も聞かなかったことにいたします」
「子建さん!?」
「令君にご相談すべきです。令君こそ、このお話を聞くべきだ。…あなたは、魂となってもあの方と離れたくはないのでしょうから、なおのこと。」
そのままじっとしていると、花の泣き声はだんだん小さくなっていった。彼女が顔を上げる頃には、茶はすっかり冷めていた。目尻をこすろうとする白い手を子建は止めた。
「目がもっと痛くなってしまいますよ」
照れくさそうに微笑った花は、小首を傾げた。
「子建さん、やっぱり孟徳さんのお子さんですね」
「…複雑な褒め言葉です」
「そうですか? わたしの中では一、二を争う褒め言葉なのになあ」
花は真剣に不思議そうだ。あの偉大な―すばらしく巨大で危険な緋色の印象は褒め言葉なのか。子建はゆっくり立ち上がった。
「お送りしましょう」
恥ずかしそうに花は頭を下げた。
「ありがとうございます。…子建さん」
「はい」
振り返った彼は、僅かに寂しげな色を浮かべた花の表情に目を奪われた。こんな表情もするのだ。
「わたしがいきなり居なくなったら、文若さんをよろしくお願いします」
深々と頭を下げたきり、身じろぎもしない彼女の頭上で、子建はゆっくりと微笑んだ。
「令君があなたを探しに行かれる時はむろん援助を惜しみません」
弾かれたように花が顔を上げる。驚いた顔に、さらに甘さを増して彼はほほえみかけた。
「わたしの一番の宝を差し上げましょう。父の馬屋から最高の馬を盗んでも参りましょう。あなたを迎える館を作り直しておきましょう。ですから、安心なさい。」
花の表情が徐々に輝き出すのを、彼は喜びをもって見守った。
「ありがとうございます!」
この笑顔を曇らせたのだから、うろんな女には相応の礼をしなければ。
そう考える子建の口元は、彼の父によく似ていた。
(2011.2.18)
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