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ついに毛布がしまえそうで嬉しい~。いい天気が続くとお洗濯が順調で幸せです。
では今日は、文若さんと花ちゃんです。
こういう時がふたりにもあるよね、と思っていただけたらうれしい。
拍手、いつもありがとうございます。
初めての連載にも拍手してくださって、とても励みになりました。
お返事は後日、改めまして。
花はそわそわしながら座っていた。
ここは城のはずれであまり人が来ない場所らしく、掃除こそきちんとされているものの調度が少し古くさいままだ。でも静かで落ち着く。
東屋の上に広がる空は少し雲が多いものの晴れていて、近くで鳥が鳴き交わしている。どこに花が咲いているのか、とても良い香りもする。花は大きく息を吸った。いい香りがするだけで幸せな気分が増すようだ。
文若が珍しく、ここで茶の時間を過ごそうと言ってくれた。以前は息抜き、という程度でしか休憩の時間を取らず心配もした彼だが、近頃はきちんと時を計って休憩をしてくれる。今日は先に行っていなさいと言われたので、お茶の用意を整えて待っているところだ。
「お湯、冷めちゃう…」
花は肩を落とした。
新しく湯を貰ってくるべきか。しかしそうしている間に彼が来てしまうかもしれない。それに、スイッチひとつで湯が沸く「あちら」と違ってここでは薪なのだから、お湯ひとつそう何度も貰いに行くのも気が引ける。花は恨めしげに、彼の執務室のほうを見やった。しかし侍女がときおり通るばかりで、文若の姿はひと欠片もない。ため息が漏れる。
花は、いわゆるデート、というものをしたことはない。友人の噂を聞くばかりだった。遅れてきたのにカレが謝らなかったとか、遅れたのを許してもらえず喧嘩したとか、どうしてそんなことを怒るのだろうと考えていたが、いまにして分かる。待つことのなんと長いことだろう。
文若は仕事人間だ。でも「そういう仲」になってからは花のことは優先してくれる。その彼が遅れているということは、何か容易ならぬことが起こったのかもしれない。ただこの世界に正確な時計はない。
(きっと十五分も経ってないんだよね…)
花は頬杖をついて、ほうっと息をついた。
文若の執務室まで、走れば五分もあれば着く。ちょっと様子を見に行くことならできるけれど、万が一、政務のことで重大な出来事が起きたというなら、こんな浮ついたことであの部屋に帰るのは気が引ける。
「はやく、来てくれないかなあ」
顔が見たいと思い、花は頬を紅くした。さっきまで一緒に執務室に居たのだから、こんな風に思うのはおかしい。
二人きりの夜を過ごしてからは特に、文若がそこにいる、と思うだけで顔が上げられないことがある。それなのに姿を見たいと思う。…何より。
「文若、さん」
花は袖で顔を覆った。
どうかしている、名前を呼ぶだけで嬉しいなんて。今の自分の顔は、真っ赤に違いない。そうでなければ太陽が急に射してきたのだ。
今朝は、彼の名前を今まででいちばんきれいに書けた。それを見せたらしかめ面でまだまだだと言われたけれど、簡を袖に仕舞われてしまった。彼もこの恋を嬉しいと、幸せだと思ってくれている証のような気がして、ただ笑ってしまった。
花はふと思いついて表情を明るくした。
今度、自分の名前を書いて貰おう。彼の綺麗な字で書いて貰ったら、それだけでお守りになるような気がする。文若の名前でもいい。それとも、二人の名を並べて書くように頼んでみようか。なぜそんなことを頼むのだとしかめ面で言われたらどう答えよう。
いつの間にかきつく握っていた袖が皺になっていて、花は慌てて指をほどいた。この衣は文若が特に見立ててくれたものだから、皺にしたら申し訳ないし勿体ない。そこまで思い、花は急に真顔になった。
ああいう夜を過ごしたからといって、自分は浮かれすぎかも知れない。彼は落ち着いた大人だし、自分もしっかりしないと…でもしっかりする、とは具体的にどういうことだろう。
そのとき耳に乱れた足音が届き、彼女は立ち上がった。急ぎ足で角を曲がってきた文若と視線が合う。少し焦った表情の彼が、こちらを認めて目元が緩む。
(…信じられない)
恋とは、本当に幸せになれるものなのだ。
「文若さん!」
呼ぶと彼の顔が紅くなったのを目に留めて、また花は嬉しくなった。
そうだ、彼とふたりで自分の有り様を探していけばいい。文字を教えて貰うように。彼は厳しいけれど、何より。
(ふたりで)
弾むような気持ちで見上げた彼の瞳が頷いているように見え、花は微笑んだ。
(2010.6.4)
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