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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 やっと仕事の原稿が入稿できて嬉しい~! 五分前に準備が終わったとしても、入稿できたからいいの!
 
 
 というわけで、文若さんと花ちゃんのお子さん視点であります。
 やっと更新できた~。お返事はまた改めましてさせていただきます。お待たせしております。
 
 



 
 
 「父上」
 夕餉のあと、わたしは父上の側にこそりと立った。
 母上は妹を寝かしつけに行って、食堂には居ない。妹はまだとても幼いので、そんなに遅くまで起きていないのだ。父上ももうすぐ寝所に引っ込むだろう。なんとしても今日中に父上を掴まえたかった。
 父上は躰ごとわたしに向き直った。
 「何事だ」
 「父上にお聞きしたいことがあります。」
 父上は小さく頷いた。わたしは母上が来ないかどうか、扉を見た。その視線を追って、父上が不審そうに目を細める。
 「母上がどうかしたか」
 いざ父上を前にするとためらう。しかし、どうしても聞いてみたいことではあった。
 「父上にとって、母上はどのようなお方ですか」
 父上は口を開いて、閉じた。目元が紅くなったのが分かる。
 「なぜそのようなことを聞く。」
 わたしは少し首を傾げた。
 「母上は、司馬仲達様の奥方様とお過ごしだと、ずいぶん違って見えると思いました」
 「どう違う」
 わたしは少し息を整えた。父上がじっと待っている。
 「母上、というよりは姉上のようです。」
 「なにゆえ」
 「司馬仲達様の奥方様よりもよくお笑いになるし、そそっかしいし、何にでも感心するし、何でもやってみようとするし…先日は屋根に止まっている珍しい鳥を間近で見ようとして屋根に登ろうとしました。そういうところが、姉上のようです」
 父上は眉間の皺を深くした。
 「止めたのだろうな」
 「落ちたら父上に叱られますと言ったら、渋々やめました」
 複雑そうな顔になった父上は、それでもひとつ頷いた。そうして父上はわたしを上から下まで眺め、厳しい目になった。
 「先程挙げた行動を、お前は姉のようだと言った。それは母として失格という意味か?」
 「違います」
 わたしは驚いて声を高くした。父上の表情が和らいだ。
 「ならば、よい。」
 父上がわたしの肩に手を置いた。そうして、じっとこちらを見た。
 「母上がそのような行動を取ることでひとに誹られることがあれば、お前はあれが自分の母上だと胸を張れば良い。それとも、姉のようでは駄目か」
 「駄目とか…そういうことではないのですが」
 やはり、うまく言えない。
 妹と追いかけっこをして笑う母上を見ているほうが美人で名高い司馬仲達様の奥方様を見ているより楽しかったり、大官の奥方なのに市で生き生きと野菜を値切るのをしょうがない母上だと思ったり、朝には父上に叱られて膨れていたはずなのに夕方はまた飛び立つように父上を迎えたりするところを見ていると胸が温かいのだと…改めて考えているとうまく言えない。
 いつの間にか俯いたわたしの頭に、父上の短いため息が落ちた。
 「花は、難しい。」
 父上がこんな風に言うことは珍しい。わたしが上目で伺うと、父上は目を閉じていた。
 「幾通りにも読み解けるが、本当のことは花の中にしかない。最も明快なその答えを、わたしはつい忘れる。そうして答えを明かされれば、それがどんなに意外なものであってもそうかと思ってしまうのだ。…あれは本当に難解だ。」
 父上の口元は綻んでいた。
 難解と言いながら微笑む父上のお気持ちこそ、わたしには分からない。ただ父上は、一度でも大切だと思うならきっと捨てずにいる方だ。そう、いつか聞いた気がする。
 (だから父上を守りましょうね)
 優しく、柔らかく言われたように思う。それともあれは夢だろうか。
 (文若さんは自分以外ばかりを大事にするから。きっとわたしたちは父上を守りましょう)
 「二人で、何の話?」
 朗らかな声に、父上は明らかにぎくりと背を強ばらせて振り返った。
 「母上」
 「聞いていた…のか?」
 父上の小声に、母上は頬を膨らませた。
 「何を言ってたんですか?」
 「いや、何も言っておらん。…そうだな?」
 何も言っていないということが既に何か言ったということなのに。父上はこんなに隠し事が下手だったろうか?
 「はい。母上が屋根に登ろうとしたことくらいです」
 「黙ってなさいって言ったのに」
 母上が情けなそうな顔になる。父上は立ち上がり、母上の肩に手を置いた。
 「お前はもう二児の母なのだぞ」
 「こういう時は、わたしが身軽だって褒めてくれませんか?」
 「そこを褒めるのは丞相くらいのものだ。」
 「じゃあ今度会ったら、屋根に登りましょうって誘ってみます」
 ちろりと舌を出した母上に、父上の眉間にまた皺ができた。そもそもお前はと小言を言い始めた父上から、後ずさって離れる。母上はわたしよりずっと長い間、父上とは一緒にいるのに、どうして小言を頂戴するようなことを言うのだろう。分かりそうなものなのに。部屋の入り口で振り返ると、神妙に父上に頭を下げている母上がちらりとわたしを見て微笑った。…ああ、母上は分かっているのだ。
 何を、と問われてもそれこそはっきり分からない。だが、今のように父上が小言を言っている時、ふたりで黙って茶を呑んでいる時、妹を抱き上げている父上に母上が自分の手を引いて寄り添っている時、そのどれもが欠けてはならないことだというのが、腑に落ちた。
 わたしは部屋を出る時、もう一度振り返った。父上は小言を続けてはおらず、母上が父上の袖を引いて何か耳打ちしていた。父上が苦笑する。それをしおに、わたしは妹が先に眠っている寝室に向かった。
 妹は眠っている間に、よくわたしの夜着の袖を掴んで寝てしまう。少しいらいらするその仕草が、今夜は素直に受け入れられる気がした。
 
 
 
(2010.12.16)
 

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