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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 「ひとよりも」のちょっと前な、文若さんと花ちゃんです。
 オリキャラ注意報。
 
 
 

 
 
 
 回廊の角を曲がったところで、簡を手に持って佇んでいる花を見付けた江建は足を止めた。花が彼を見て、まるで待ちかねていたように表情を明るくする。夕日が彼女の髪をより明るい色に見せていた。
 「江建さん」
 軽い足取りで歩いてきた花は、ぺこりと頭を下げた。
 「こんにちわ。どうしたんですか」
 「借りてた簡を返しに来ました」
 「熱心ですねえ。お休みでしょう、今日」
 花は照れくさそうに笑った。
 「早く上手に書けるようになりたいので」
 異国から来たというこの娘が文若の執務室に居るようになって、ずいぶん経つ。最初はうろんな目で見ていた同僚たちも、文若のしかめ面に迎えられるよりは、出自が知れなくても笑顔で迎えてくれる娘の方がずっといい、とじきに受け入れるようになった。
 江建は最近、文若と花の間柄がどうも変わったような気がしている。丞相への謀反計画がいちおうの決着を見てからこのかた、花が文若を見る目がきらきらしているようだ。
 江建はそれなりに「遊んでいる」ので、女子の観察眼はあるほうだと思っている。その観察が、堅物が服を着て歩いているような尚書令と花がいわゆる「いい仲」になったと告げている。
 花はそわそわした様子で江建を見た。彼は女子からよく褒められる笑顔を浮かべた。
 「どうしたんですか」
 「あの…ちょっと、聞いていいですか」
 花は彼の笑顔に何の反応もなく真剣な顔で彼を見た。ああこれは本気だ、と江建は思った。
 「なんでしょう」
 「今日、文若さんはどんな感じでしたか?」
 その瞬間、江建は、気になっている侍女の顔を見て帰ろうか、という色気を出してしまったことを真剣に反省した。
 「抽象的な質問ですねえ。」
 「あ、あの、機嫌が良かったとか悪かったとかでいいんです…けど」
 簡を、折れそうなほど力を込めて胸に抱える花に、江建はにこりと笑った。
 「どちらかというと丞相のご機嫌が悪かったですね」
 「孟徳さんの…」
 「ええ。あなたがいないとつまらないから茶を入れろと令君に迫って、令君が恐ろしい早さで次々丞相に簡を押しつけていました。」
 「そう、ですか」
 花の笑みが引きつった。
 「それと令君は、わたしが中座している時に、わたしの机を見てぼんやりしていましたね。」
 「机を?」
 「令君もあなたがいなくてつまらなかったんでしょう」
 花の顔が、夕日の所為でなく紅くなった。
 「文若さんに限ってそんなことないです。」
 「そうでしょうかねえ。」
 江建は柱に手を掛けて花をのぞき込んだ。彼女の肌は子どものように滑らかで、丞相でなくても触れてみたくなる。
 「花殿。難、って令君みたいな字だと思いませんか?」
 唐突な質問に花は瞬きした。真剣な眼差しになる。
 「うーん…文若さんは剣、かなあと思います。」
 「へえ。夏候将軍じゃなくて?」
 「はい。元譲さんは軍人だから当たり前ですけど、文若さんは孟徳さんの頭脳の『剣』だと思うんです。」
 花は、頬を紅潮させて江建を見上げた。子犬のような目に、彼は息をついた。
 「令君は、あなたの字をとっても悩んでましたよ。」
 「だ、誰が文若さんにそんなこと聞いたんですか」
 「丞相ですよー決まってるでしょう?」
 よりにもよって江建の、というか花の机でくだを巻いていた孟徳を思い出す。座れずに戸口で待たざるを得なかった彼を構わず、孟徳は好きな字を延々挙げていった。一息入れたところに間髪いれず、文若は、これから決済してくださいと簡を投げつけるように机に置いた。孟徳はじたばたと足を動かした。
 「なんだよー構えよー文若」
 「生憎ですが、仕事が溜まっております。それに、無駄なことです。…あの娘を表す字など、この世にございません」
 江建から見ても耳が紅い文若を舐めまわすように見て孟徳は、ようやく腰を上げて部屋を出て行ったのだった。
 花は江建から話を聞き終わると、心配そうに首を傾げた。
 「わたし…そんなに変わってますか?」
 一瞬あっけにとられた江建がくつくつ笑い出すのを、花はまだ不安そうに見ている。彼は気にするなというつもりで手を振った。これだから、この子は面白い。この娘を愛する(と見える)文若もまた。
 「そうだ、花殿。そんなに気になるなら、お休みにのぞきに来ればいいじゃないですか。」
 「駄目ですよ。ちゃんと休めって怒られちゃいます。」
 「じゃあ、きれいな格好をして見せに来る、っていうのはどうです? 花殿だってたまには可愛い格好をしたいでしょう?」
 花の目が考えるように彷徨い、頬を赤らめた。
 「怒られないでしょうか…」
 「好きな子が可愛い格好をしてるのを嫌いな男なんていません。」
 「す、好きな子、って」
 彼女が首まで紅くして俯いてしまう。江建は、彼女の髪を飾っている、小さな白珠を連ねた清楚な髪飾りが夕日の最後の光にきらりとしたのを見て、姿勢を正した。
 「まあとりあえずおすすめしておきます。」
 花は表情を改め、頭を下げて微笑んだ。
 「お引き留めしました、ごめんなさい。」
 「いえいえ。」
 江建は頷いて歩き出した。
 彼女は必ず実行する。あの真面目な令君から笑顔を引き出すのは並大抵のことではないだろうから、恋人であるなら試すはずだ。彼は唇を綻ばせた。我ながらいい献策をした。これで彼女が休みの日も色々と楽しみだ。
 江建は目当ての侍女の口説き文句を考えながら、ゆらゆらと回廊を歩いて行った。
 
 
 
(2010.12.01)
 

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