二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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「ひとよりも」→「問ふひとあらば」→「色をも香をも」の流れになります。これで一段落。
リクエストいただきまして、ありがとうございました。
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きしっ、と背後で音がして、文若は振り返った。花が寝台の四隅に立つ柱に縋るようにして身を起こしている。彼は傍らに急いだ。泳ぐようにさしのべてくる手を握る。
「どうした」
花は文若を確認するように目を細めて小首を傾げ、ややあってにこり、とした。
「文若さんが居ないから」
「ああ…」
文若は寝台に戻り、花と並んで腰を下ろした。彼女の肩を抱き寄せる。
「何か見えますか」
ふわ、と聞かれて僅かに目を細める。
「…今は夜だからな」
情事のあと、添って眠るのが気恥ずかしくなって起きていただけとは言えぬ。
ふふ、と花が笑う。肩に文若の上衣を掛けているだけの彼女は蕩けるように艶めかしく、隠しきらない胸の谷間が真珠のように光る。自分が羽織る白い下衣よりもけざやかに見えるのはどうしてだろう。
その体が、まるで上等の絹のように柔らかく慎ましやかに文若にもたれかかる。
「軽いな、花は」
覚えず言うと、花は僅かに唇を尖らせた。
「そんなことありません。最近、少し太ったみたいだもの。」
不服そうに言う恋人の様子に、文若は眉間に皺を寄せた。
「そうか?」
花が紅くなって文若の肩に顔をすりつける。
「文若さんには分からないです」
「…分かるだろう」
暗に、今夜で二回目になるこの逢瀬を示唆すると、花がずるりと彼の背に頭をずらした。文若からは白いうなじだけが見える。
「わかりま・せん!」
「…そうか」
何となく、逆らわないほうがよさそうだと思う。
ふたりはしばらく、そのままで居た。背中が花の体温であたたかい。文若は微笑んだ。
「花、よく、許してくれたな」
それとなく昼のことを言うと、花の息が背をくすぐった。笑ったようだ。
「そういうこときちんと言うの、すっごく文若さんらしいですね」
「礼を言うのがおかしいのか?」
「おかしくないですよ? …嬉しい」
花は文若の顔を盗み見るように視線を走らせた。そこで目が合ってしまったのが恥ずかしいのか、慌てて俯く。
「また、ああいう服を着てもいいですか? …あの、お休みの日だけでいいので」
囁きに、文若は瞬いた。からだをねじって花を膝の上に抱き直すと、彼女は少し慌てたように文若に体を寄せ倒れないようにした。花のからだの匂いが急に強くなり、それが自分の体にもうつっていることに気づく。こうして同じ香りになっていくのだろうかと、文若はくらりとした。
「次にああいう衣を着る時は、わたしと共に居る時にしないか…?」
花が、ぱっと顔を上げる。本人は無意識なのだろうが、目の端に浮かんだ愛らしい媚が眩しい。
「じゃあ、一緒にお休みしてくれるんですか?」
「…機会は減るかもしれんが」
「いいんです!」
こちらの首に腕を回し抱きついた花の肌が、熱い。この吸い付くような肌が先程この手の中で柔らかくしなった感触を思い出す。
「ありがとうございます。嬉しい! うふふ」
「まだ実現していないぞ?」
「考えただけで楽しいです、文若さんと一緒にお休みなんて」
あまりの喜びように、不安になる。
「そんなにわたしはお前を放っておいているか…?」
花は驚いた顔になり勢いよく首を横に振った。
「違います!」
花は視線をさまよわせたが、文若の肩に顔を埋めた。
「独り占めしたいだけです。」
恥ずかしそうな小声に、文若はその細い体をきつく抱きしめ直した。どうしてこんなありふれた言葉に、自分は体を熱くするのだろう。彼は抱いたまま背を倒し、褥に仰向けになった。花が小さく悲鳴をあげてその胸に手をついて身を起こし、彼を心配そうに見下ろす。彼女の肩からずれた自分の上衣が褥を滑り床に落ちた。そのかすかなその音さえはっきり聞こえる。
「どうしたんですか」
僅かな月明かりにも辿れるその白い肩に指を滑らし、気持ちのまま抱き寄せて頬の感触を楽しむ。若い娘の肌を果実に例えることがあるが、これほど芳しいものはない。
いったいいつ、求婚したらいいのだろう。
あの丞相から確たる姿で花を早く離したい。しかし、溌剌とした笑顔と幼い愛情を自分の知る「妻」という座に矯めてしまいたくはない。この娘ならば自分の考えを軽々と飛び越えてもしまうだろうが…さて、どうしたらいいのか。
文若は悶々としながら、花がとろとろと眠るまでその肌を撫でていた。
(2010.8.16)
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