忍者ブログ
二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 文若さんと花ちゃん。花ちゃん懐妊後、です。
 「忘らるまじき」の続編は、またいずれ。
 
 
 


 
 
 
 今日は曇りだったためか、日が暮れるのが早い気がする。文若は足を止めて空を見た。白くなった空に鳥が群れていく。屋敷が近いというのに立ち止まった彼を付いていた家人が不思議そうにあるじを見上げたが、何も言わずに目を伏せた。
 風が強く寒い日だった。花は暖かくしていただろうか。よほど体調が悪くない限りすぐ外に出ようとする妻を思い、彼は顔をしかめた。もう産み月も近いというのに軽々しいところはまだおさまらぬ。
 そういえば今日も孟徳に絡まれた、と文若はため息をついた。子が女子であるように願掛けをしているなどと、まったく余計な世話だ。男子だろうが女子だろうが、この荀文若の子として立派に育てるだけだ。
 そのとき、家人が小さく彼の名を呼んだ。彼がそちらへ目を向けると、あるじに似て口数の少ない男は道の向こうを指差した。
 甲高い声をあげて、子どもたちが走ってくる。三軒むこう隣の屋敷の子らだ。猫を追いかけて川に落としたり、鳥の巣をつついて木から落とし親に怒られているのをよく見かける。花などは、ちょっと乱暴な子たち、というほどだ。むろんそういった噂話は厳に戒めるところであるので、文若も妻をいさめた。だが、確かに高官の子としては落ち着きが足りぬと思っている。
 自分の子は、どういうふうに育つだろう。
 荀家の子であるから、然るべき教え・作法を授けるのはもちろんのことだ。彼は頭の中で、すでに何度も推敲した子の師となるべき顔ぶれを思い描いた。ひとりは近頃、ずいぶんと若い愛妾を得てやっかみ半分の悪い噂を耳にするので、彼は外したほうがよいか。しかしそれを理由に外すとなると、花を妻とした自分がまずやり玉に上がるか、と彼は唇を曲げた。花は確かに自分とは年が離れている。しかしいささか元気がよすぎるところはあるがなにごとにも熱心に取り組むし、断じて噂されるような不行跡はない。
 子どもたちが裾を乱し文若のかたわらを駆けていく後ろを、侍女が息せき切ってついていく。その背を見送りながら、文若は小さく息をついた。花はあの侍女のように、子らと一緒に走り回りそうだ。そこもよく注意せねばなるまい。
 「子ら」と自然に思ったことに彼は赤面した。まだひとり目も生まれておらぬのに。
 子のいる腹をさすりながらやさしい声で歌う妻を思い出す。
 きれいなものを見て、きれいな歌をうたってやるといい子が生まれるっていわれてました、と笑う妻の姿はとても眩しい。文若の声が好きだからなにか朗読してくださいと顔を見ればねだる妻に負けて、夜な夜な詩篇を読んだ。嬉しそうに聞いている花に、次は何を詠んでやろうかと嬉しく詩編を吟味した。
 文若は家人に目を向けた。
 「南の商家へ寄ってから屋敷に戻ることとする。花が食べたがっていた東の果実が届くころだ」
 家人が丁寧に頭を下げる。
 どうか、花が、子が無事であるように。自分の側で笑っていてくれるように。玉も黄金もこの身も、それが果たされないならなんの意味があろう。
 文若は、果を渡す時の花の笑顔を思い浮かべながら、歩き出した。
 
 
 
(2011.2.20)

拍手[34回]

PR
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
プロフィール
HN:
のえる
性別:
非公開
メールフォーム
カウンター
アクセス解析

Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]