忍者ブログ
二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


 今日は、(文若さん)と花ちゃんですが、孟徳さん出ずっぱりです。
 
 



 
 失礼します、と言って扉を開けた花に、孟徳の機嫌は瞬く間に上昇した。彼女の顔を見るだけで、今日のような雨の日に酷くなる頭痛が薄れる気がする。
 「花ちゃん!」
 「おはようございます、孟徳さん」
 花が入り口で頭を下げる。中腰になった孟徳に元譲が呆れた視線を向け、重々しく花を促した。彼女が早足で孟徳の机にやってきて、そっと抱えていた簡を置く。
 「朝はこれだけです。また昼過ぎに伺います」
 「もう帰っちゃうの?」
 残念そうな孟徳の声に、花が可笑しそうに笑った。
 「まだ朝ですよ、休憩するには少し早いです。それにこのあとすぐに文若さんが伺うと言っていました」
 「えーつまんない」
 分かりやすく膨れてみせると、彼女はまたくすくす笑った。
 花はよく笑うな、とその顔をぼんやり見つめながら孟徳は思った。彼女くらいの年頃の娘は孟徳の後宮にも侍女たちにも多い。しかし侍女は仕える者にうかつに笑顔を見せるのは恥だし、後宮の娘の笑顔は「作法」だ。おかしくて笑うのではない。
 「そういえばね、花ちゃん。このあいだ、おかしな話を聞いたんだよ」
 この年頃なら噂話は大好きだ。深刻そうに話を振ると、彼女はまるで孟徳の表情を写したかのように眉を寄せた。
 「なんでしょう、なにかまた…その、文若さんに関係のあることですか」
 「違う違う」
 孟徳は軽く手を振った。彼女が真っ先に挙げた男の名を聞くたびに、不思議な感情がこみ上げる。
 「新婚の奥さんを残して商用に出かけた男がさ、三ヶ月後に家に戻ってみると、家の中から奥さんの笑い声がするんだって。間男かと思って覗いてみたら、自分が居たんだってさ。」
 「じ…ぶん?」
 花が目を丸くする。孟徳は頬杖をついた。
 「うん、『自分』。慌てて家に入ったら、その『自分』はふらっと出て行って、それきり戻らなかった、って。その後、奥さんとは別れちゃったらしいよ。」
 花は痛ましそうに目を伏せた。
 「なんだか複雑ですね…」
 彼はことりと首をかしげてみせた。
 「君だったらどうする?」
 花は何か考えに沈んでいたらしいが、はっと顔を上げた。
 「えっと…奥さんも気づいていたのかな、って」
 「ん?」
 「そのひとが、ここには居るはずのないひとだって。でもそのひとが好きだったから嬉しくて、そんなことどうでもよくなってたのかなって…もしかしたら、旅に出たほうが幻かもしれないですよね?」
 もどかしそうに、しかし必死にその「妻」の肩を持とうとする花に、彼は甘く微笑んだ。
 「お話だよ、花ちゃん。う・わ・さ」
 「…そうです、けど」
 「変な話を聞かせちゃったね。ごめん。君ならどうするかなって思っただけなんだけど」
 「わたし」
 花はふっと目を伏せた。
 「わたしなら…わたしならもう一人を捕まえます。捕まえたら一つになるかもしれないですよね。自分がこの手に握ったなら、たしかにその人だという感触があったなら、きっと」
 彼女は、胸元で両手をきつく握りしめた。その手に残る感触は、あの男の体温だろうかと孟徳は思った。明らかに違う場所から来た彼女が、あの謀反騒動が終わっても文若の傍らに居る理由。あの男が、彼女の後姿に安堵したように力を抜くこと。そのすべてが答えで、始まりなもの。
 「あーあ、そんな顔であいつのところに帰したら、俺がまた怒られちゃうなあ」
 ふざけて言うと、少女は慌てた様子で自分の顔を両手ではさんだ。
 「へ、変な顔してますか?」
 「うーん」
 花の眉が頼りなさそうに下がった。唇を尖らせ、実に愛らしい不服の表情を作る。
 「ひどいです…」
 「じゃあ、笑わせてあげるから、俺の膝の上においで」
 「またそんなことを言う」
 彼女はくすりと笑った。深くお辞儀をする。
 「じゃあ、失礼します」
 「うん、またね」
 柔らかい笑顔を見送り、孟徳は大きくためいきをついた。
 「花ちゃんさ、すごいいい顔して笑うよなあ」
 「そうか」
 うっとうしそうに唸る元譲の声を聞き流す。
 「俺が最初に拾ったんだぞ?」
 「それを言うなら玄徳だろう」
 む、と孟徳は唇をひん曲げた。それはいつ考えても面白くないが、この先彼女を自分の側で見られるならとりあえず横に置いてやろう。
 「ほんとに、可愛くなったよなあ…」
 彼女は今頃、あの男の肩に寄り添っているだろうか。不安げに見つめる彼女を、彼は不器用に、彼女以上のぬくもりでその手を包み込んでいるかもしれない。そうして彼女は、あの男の影さえも掴まえるのだ。
 「あー俺も恋したい!」
 「…仕事をしろ」
 孟徳は頬杖をついたまま、窓の向こうに広がる、雨が上がり始めた白っぽい青い空に目を細めた。
 
 
 

拍手[49回]

PR
この記事にコメントする
Name
Title
Color
E-Mail
URL
Comment
Password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
プロフィール
HN:
のえる
性別:
非公開
メールフォーム
カウンター
アクセス解析

Template "simple02" by Emile*Emilie
忍者ブログ [PR]