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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 早安くんと花ちゃん。




 「これでいい」
 早安が低く言って、花は息をついた。
 「ありがとう。ごめんね」
 「いや、軽い怪我でよかった。二三日すれば腫れもひくはずだ」
 早安が微笑したので、本当に軽いねんざだとわかる。花は安心した。
 ふたりで裏山で薬草をとっていた時、突然出てきた兎に驚いて転んでしまった。籠の中身はぶちまけるし足をくじいて帰ってこなければならなくなるし、また早安に迷惑をかけてしまったと小さくなる。
 「ごめんね、今って色々採れる季節なんだよね?」
 彼はゆるく首を振った。
 「かまわない。もしどうしても人手が足りなければ村のだれかに声をかけるし、採ってきたものをお前が乾かしたり分けたりしてくれればいい」
 布や薬草を片づけながら言う彼に、花は瞬きした。彼はいつも上手に、自分にできることを差し出してくれる。
 「早安って、そういうところうまいよねえ」
 思わず慨嘆した花を振り返った彼のきょとんとした表情は少年っぽくて、微笑む。
 「どういうことだ?」
 「わたしが何をすればいいって、すぐ教えてくれるでしょ? 頼り切りだね」
 「お前はこういう生活がはじめてなんだから、知ってる俺が教えればいいだろう」
 当たり前という彼の表情に首をすくめる。
 「うん、そうなんだけど。まあそれだけたくさんやることがあるんだよね」
 ひとりごとのように言った花に、早安はおかしそうな笑みをかすかに浮かべた。
 「お前は、がっこう、とかいうところで勉強することが大事だったと言っていたな。」
 「うん」
 「俺はそういう話を聞いているのが面白い」
 花の胸が少し痛んだ。早安から聞いてくれるので話すあちらの日常は、ここで暮らすうちに急に遠くなった。空を見て干していた薬草を取り込んだり、どの淵に魚が多いか聞いたり、近所のひとに季節ごとにするべきことを教わったり。どこかの誰かが配信してくれる、楽しいけど知らなくてもいいことではなくて、それを知らなければ暮らしていけないことは新鮮だ。
 ケータイも制服も大事に仕舞ってある。でも、その櫃のありかを目で探すことが減ったように、早安にとってだけでなく、自分にとっても「あちら」はおとぎ話になりつつあるのかもしれない。
 ふと頭があたたかくなって顔をあげる。早安の手が頭に置かれていた。
 「ほんとうに、面白いんだ」
 手はそのまま頬を滑り、体を抱く。
 「早安?」
 少し早い彼の心臓の音が頬に伝わる。
 「…前に、お前の生まれたところでは、お前の年ごろでひとりで暮らしたり、誰かの妻になったりすることは稀だと聞いた」
 話す息が髪をくすぐる。花は瞬きした。
 「あー、うん。そうだね。」
 「俺は別に、嫁とか妻とか名称はどうでもいい。お前と居られればいい。…でも、女というものは花嫁衣装とかきれいなものが好きだろう」
 「…早安、いっしょくたにしすぎ…」
 「まあ、お前はふつうの女じゃないけどな」
 彼には珍しく、至極楽しそうに言われ、なぜか顔が熱くなる。抱きしめられたまま、その背を叩く。
 「早安、さっきからちょっと微妙にひどい」
 「そうか?」
 それきり、彼は何も言わない。花はその顔を見たいと思ったけれど、細いその腕が意外に強くてがっちりしていることをよく知っている。
 早安は着てたな、と、いまさらなことを思い出す。あれを花嫁衣装とは呼びたくない。
 「…早安」
 「ん?」
 「わたし、はね。何も特別な儀礼とかなくても、もう、早安と、あの、ずっと一緒にいる場所にいると、思ってるんだけど。」
 脳裏に、いろいろなことが――そう、とても色々な場面がちかちかする。早安がきつく抱きしめていなければ、じたばたして逃げだしそうなくらいだ。嬉しくてたまらない気持ちが体中をかけめぐっている。
 「みんな早安のお嫁さんって呼んでくれるから、もう、それで、いいんじゃないかなって思う。」
 「花嫁衣装とか、いいのか」
 「うん。…早安はそれで、嫌じゃないんだよね?」
 「勿論だ」
 腕を放した早安は安心したふうだった。花は少し背伸びしてその首に腕を回した。抱き返してくれるぬくもりがただ、大好きだと思った。


(2012.10.1)

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