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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 この歌は、たくさんの歌手の方が歌っていますね。
 ワタシは、jazzクラリネット奏者の粋なおじいさんがアンコールで演奏してくれたバージョンが思い出深いです。若いうちにみる「虹」と、年齢を重ねてから見る「虹」は色が違うような気がします。








 玄徳は、夢うつつで自分の横に手を伸ばした。触れるはずのものがないことに、一気に全身が覚醒する。目を開けると彼は、自分が目覚めた理由を知った。
 衝立の向こうから、細い歌声が聞こえている。
 婚儀を行ってから初めての寒い季節を迎えた。ともに起き伏しする間柄となってから、妻は自分より早く起きようとする姿勢を崩さない。毎朝、髪を直し身なりを整えてから彼を起こしに来ようとする。それができないのは、前夜に玄徳が求めすぎてしまった時くらいだ。
 玄徳は音がしないように身を起こし、寝台を出た。鏡の前で髪を梳っている花を、後ろから抱きしめる。
 「きゃっ」
 妻は、少女っぽい悲鳴をあげて身を竦めた。
 「おはよう」
 頬に唇を滑らすと、「お、おはようございます」と真っ赤になって言う。
 「今日も早いな」
 「玄徳さんこそ。どうしたんですか?」
 「花が隣に居なかったから、寒くて起きてしまった。」
 花は、もっと紅くなった。
 「そんなの、いつもじゃないですか…」
 「俺もお前を起こしてみたい」
 「変な決意ですね、玄徳さん」
 くすくす笑う花の髪の匂いを、深く嗅ぐ。一緒に眠るうちに染みついた玄徳と同じ香が分かる。
 「なあ、花」
 「はい」
 「どうしていつも俺より先に起きるんだ?」
 花は、少し俯いた。
 「玄徳さんの、奥さんになりましたから。」
 「分からないが…?」
 「皆の上に立つひとの奥さんが寝坊するのはいけないと思って…」
 玄徳は内心で息をついた。この素直さと幼い頑固さを彼はこよなく愛してもいる。だが、それだけに心配のもとでもあるのだ。思いが通じる前の行き違いで泣かせたことは、まだ彼の心を刺す。
 「無理、しているんじゃないんだな?」
 花は体をねじって、玄徳を見上げて微笑む。初々しさと艶やかさが同居する笑みだ。
 こういう微笑を、いったいいつ、彼女はできるようになったのだろう。恋しい相手ができると、女はみな、こんな表情ができるようになるものか。こうだから目が離せない、と彼は内心で呟いた。婚儀前にも彼女は他の男の目を引いていたのに、玄徳の妻となった今ですら邪な視線を捧げられている気がする。
 「はい。もっと寒くなったら、ちょっと遅れちゃうかもしれないですけど」
 小首をかしげて不安な表情を浮かべた花に、玄徳は不快さを引きずったまま答えた。
 「それなら、俺と眠っていればいいんだ。」
 彼の言葉がよほど面白くなく響いたのか、花はころころと笑った。
 「そのときは起こしてくださいね。」
 ああ、と頷きながら、起こすだけでは済まないかも知れないな、と玄徳は思った。寝顔はもちろん、寝起きの花は本当に可愛いのだ。
 玄徳は彼女から身を離し、その髪に手を置いた。
 「ところで、何か歌っていたようだが、お前の国の歌か?」
 「それで起きちゃったんですか? ごめんなさい」
 「謝らなくていい。本当に、何の歌だったんだ?」
 花は櫛を置いて、きちんと玄徳に向き直った。
 「今日はよく晴れているから、なんとなく歌いたくなって。虹の向こうに素敵な場所がある、みたいな歌なんですけど…うろ覚えで、恥ずかしいです」
 玄徳は、ほう、と唸った。
 「お前の国では、虹はいい印なのか」
 「いい、しるしって…?」
 「ここではあまりいい意味にとることはないからな。…ああ、そんな顔をするな」
 俯いてしまった妻の滑らかな頬に手を滑らす。
 「お前がいい意味に取っているなら、俺もこれからはそう思うことにしよう。」
 「…玄徳さん、わたしのこと甘やかしすぎです」
 「お前が謙虚なんだ」
 いつも控えめで婚儀前と変わらない彼女は、臣たちにも評判がいい。それでももっと甘えて欲しい。全力で甘やかしたい。
 ただ、その限度はこれからさぐっていけばいい。可憐な妻の良いところを殺さないように、いつまでも微笑んでいてくれるように。
 こう誓う瞬間だけ、自分はどこまでも生きていける気がする。戦の耐えないこの世で、いま妻の語った「虹」の彼方に必ずたどり着ける気さえ、する。
 急に強く抱きしめた玄徳に、花は驚いたように身じろいだ。彼女が力を抜いてもたれかかってくるまで、彼の腕の力がゆるむことはなかった。



(2010.4.14)

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