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二次創作。はじめての方はat first はじめに をご一読ください。
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 玄徳さんと、花ちゃんです。
 「妹とわが寝る」の続き、です。
 


 
 
 
 玄徳にあてがわれた部屋に、廊下から声を掛ける。弾んだ声が許可を出し、雲長は扉を開けた。
 「おはようございます、玄兄。」
 「おはよう。どうした、朝早く」
 喜色満面、といったあるじに首を傾げる。
 「いえ、早馬が着いたと聞いたものですから。」
 ああ、と玄徳が笑った。
 「ごく個人的なものだ。いや、そうでもないかな?」
 「玄兄?」
 「花が簡を寄越してな。俺の子ができたのだと、言うのだ」
 「…それは、おめでとうございます」
 「ああ、ありがとう」
 玄徳は雲長の肩を叩いた。かなり痛い。僅かに顔をしかめたが玄徳は気づかず、握りしめた簡を開いて表情を緩めた。花なら、あたりにハートマークが散っていると言いそうだなと雲長は微苦笑した。
 「なあ、雲長。明日で帰れるんだったな?」
 「はい。」
 「いやあ、実にいい時期に来た。あの男は、こちらがどれだけ断っても女を差し入れようとする。これを言えば諦めるだろう」
 あの男、とは、玄徳をこの地で歓待している有力者だ。玄徳たちがこの国を領するようになっても四の五の言って年貢の収受を遅らせてきたが、玄徳がじきじきに来たら手のひらを返すように従順な物言いをしだした。要は、自分に箔を付けたかったのだろう。あまりに分かりやすい態度に、玄徳でさえ鼻白んでいた。もっとも、雲長は若い頃から彼を知っている。昔なら、殴って終わっているだろう。
 「むきになって第二夫人に勧めてくる可能性もありますが」
 淡々と指摘すれば、玄徳は本当に苛立たしげな表情になった。
 「まあ、そうだが…花に子ができた時にそんなことを考えるものか。」
 まるで雲長自身がその相手のように睨むので、彼は無表情を押し通した。玄徳はまた簡に目を落とした。
 「なあ、雲長。このあたりの特産で、身ごもった女にいいものはなんだろうな?」
 「このあたりが出身の兵に聞いてみます。それよりも、浮つくのは花のところに戻ってからにしたほうがいいのでは」
 「ああ…ここのあるじは色んな意味で世話を焼こうとするだろうな」
 「それに、花の基準からすれば、あちらではまだ幼い、といわれる年齢のようです。あまり大げさにすると彼女が萎縮してしまうでしょう。」
 玄徳は奇妙な眼差しで義弟を見た。
 「前から思っていたんだがな、雲長」
 「はい」
 「お前は花のことを…いや、花が居た場所のことをずいぶんよく知っているようだ」
 知っているどころではないと言いたいが、誰にもできないことだ。
 「わたしが黙っているだけなので、花がしゃべりやすかったのでしょう。他愛ないことをずいぶん話していました」
 「俺には話してくれない」
 子どものようにあるじが剣呑な目を向けたので、雲長は敢えて微笑した。
 「玄兄が話す間を与えないのでは」
 途端に、彼の視線が横を向いた。目尻が紅い。花のことになると実に分かりやすい。
 「過去」に会った彼は、こうではなかった。妻子を大事にしてはいたが、今回ほど溺れていなかったと思う。溺れる、まさにそれだ。だが玄徳だと、その場所がいちばん住みよいのではないかとさえ思ってしまう。
 花が変えた。
 しかし花は本を失った。自らの意志で消したのだという。
 そういう者がどうなるのか、知らない。
 玄徳は花を今生で失うことになるのかもしれない。いや、失うという言い方は正しくない。忘れるのだ、知らないのだ。無かったものとして彼は巡る。
 それとも、彼女は添うだろうか。定められた者のように、あの山に現れて再び玄徳を見つめるのだろうか。雲長は心の中で笑んだ。
 そうだ、あの眩いばかりに真っ直ぐな花は、玄徳に添うだろう。もし己を知らない彼に傷ついても、彼の手を取ろうとするだろう。おかしなものだ、こんな風に思うことなど絶えてなかったのに。彼女の思考が移ったか。羨望のゆえに強くなる絶望を噛んで、雲長は玄徳を見た。
 「では、出立の準備を確認して参ります」
 緩んだ顔で簡を繰り返し読んでいる玄徳に礼を取ると、彼はどこか上の空の笑顔を向けた。
 「頼んだ」
 「はい」
 退出して、兵たちを見るともなく眺めながら、雲長は僅かに眉をしかめた。玄徳にはああ言ったが、何か土産がないと芙蓉あたりが気が利かないと柳眉を逆立てそうだ。絡まれるのはたいしたことではないが、花に気を揉ませるのは避けておこう。そう思わせるだけの何かを、彼女は今生に与えてくれた。自分の「次」に、今までにない喪失を覚えさせるだろう彼女の姿を思い出しながら、雲長は歩き出した。
 
 
 
(2011.6.28)

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